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見えてきた 家庭水田の課題と希望

家庭水田の記事の公開後、現在(2021年3月)までに、7世帯の方に興味あり、と声をかけてもらいました。役場で農業振興に携わる友人にお願いし、田んぼを探してもらった結果、このうち5世帯は既に借りる田んぼが決まり、田植えに向けて着々と準備を進めているようです。海士町内の田んぼをしている方は65世帯とのことなので、数だけでは7%増。2021年は海士町の家庭水田元年になりそうな感じで、ワクワクしています。

今回は、家庭水田構想実現のための課題と、見えて来た希望についてです。


家庭水田を始めようとしている方、すでに実践している方の話を聞きながら見えて来た課題は二つ。機械のことと、借りる田んぼのこと。

課題1 機械のこと・・・ラクをシェアできる仕組みを考える

家庭水田は「農薬・化学肥料は極力使わず、平均で土日のどちらか、半日」の田んぼしごとを楽しみ、1年分の米を確保することを目指しており、
「楽しめる範囲では手間を惜しまず、しんどいところは機械に頼る」くらいが長続きするのではないかと思っています。

私が田んぼ仕事に使っている機械は、軽トラの他、こんな感じです。

 機械名        入手経路  
刈払機         新品購入
種まき機(ポット式)  中古購入
田植え機(ポット式)  中古購入   
ワラ切り機       中古購入   
耕運機        いただく
稲刈機(バインダー)   いただく
脱穀機(ハーベスター いただく
籾摺り精米機     いただく
運搬車        いただく

こうしてみると、多くの機械に頼っています。昨年は4反5畝(東京ドームのおよそ10分の1個分)の田んぼを作りましたが、これらの機械なしでは成り立たない状況です。

いただいた機械のうち、耕運機は、トラクターの普及で、ほとんど使われなくなったもの。私が知る限りは、島内で耕運機を使って田んぼを耕しているのは私だけですが、自給用の狭い田んぼを耕して作るなら、耕運機で十分、場所によってはトラクターより小回りが利いて良いかもしれません。(前の記事で紹介した近所のTさんは不耕起栽培のため耕運機は不要。)

また、稲刈り機(バインダー)・脱穀機(ハーベスター)は、刈り取りと脱穀を同時にしてくれるコンバインの普及により、ほとんど使われなくなった機械です。でも、自家用を天日干ししたい、という場合は、刈り取りと結束を同時にしてくれるバインダーは必須アイテムです。

機械の更新で使われなくなった古い機械が納屋に眠っているならば、これから田んぼを始めたい人が使わせてもらえれば良いのですが、実際は、移住して日の浅かったり、良く知らない人にはなかなか声をかけづらいもの。離島なので中古農機具店に気軽に売れず、廃棄するのもお金がかかる。そういった農機具を格安で譲ってもらい、新しく家庭水田を始める人たちとシェアする仕組みを模索しています。


課題2 借りる田んぼのこと・・・小さな田んぼは少ない

昨秋、稲の穂が実る頃、役場の友人にお願いして、町内に点在する休耕田の見学会を行いました。冒頭の写真も、その時回った田んぼのひとつ。参加した3世帯の方それぞれが、通いやすさや、水の引き方、畔の草刈り量など、実際の田んぼ作業を想定しながら吟味し、今年作る田んぼに出会えました。

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地元・移住者を問わず、米作りをやってみたい、という人は、意外といるのではないか、と感じており、今後、家庭水田がうまく普及すれば、今の休耕田は徐々に借り手が見つかっていくと思われます。ところが、町内の田んぼの多くは大型機械で効率よく作業できるよう、広い田んぼに作り変えられています。小さな田んぼというのは、主に地形により圃場整備で集約されなかった場所なので、思ったほど多くありません。

今後、広い田んぼが休耕田になったときには、実験的に分割して、2世帯で使ってみる、というのも、意外とアリなんじゃないか、と感じています。


ここからは、見えてきた希望について。

ここで、希望、というものを伝えやすくするために、「多様性」と言い換えてみます。 「家庭水田が普及すると、多様性が生まれる」ということです。どんな多様性か。3つ考えてみました。

希望=多様性⒈ 生態系のこと

前の記事でも触れましたが、農薬や化学肥料を使わない田んぼには、自然と生き物が戻ってきます。中には絶滅危惧種もいたりして、大人も子供も楽しめる場所になりそうです。(下は、稲刈り中に現れた青いアマガエル)

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田んぼと直接つながっている海でも、緩効性の化学肥料を被覆するマイクロプラスチックが流れなくなったり、窒素やリンの流入が減ったりすることで、生き物が増えるかもしれません。

希望=多様性2. 働き方のこと

「誰でも気軽にできる小さな田んぼ」が増え、加えて、栽培技術や機械を共有できる環境が実現すると、リモートワークの合間に田んぼ仕事を、という人も現れそうです。

医療や介護福祉・建設業・漁業をはじめ、地域の機能を維持するためになくてはならない分野のスキルを持っている人、あるいはそれらの仕事を志す人にとって、「本業の合間に、お米も。農薬や肥料を使わずに作っている人も、たくさん。」という場所は、移住したり、帰って来る先として魅力的な気がします。

希望=多様性3. 周囲の人との関わり合いのこと

家庭水田に慣れてきて、だんだん楽しくなってしまい田んぼを増やしたり、上手に育てて収量が上がったりすると、「一年分お米を食べても余る」という幸せなことが起こり得ます。
この「食べきれない分」というのは、家庭水田の範疇を超えてしまった分です。お米が余ったら、日本円に換える(売る)というのが一番手っ取り早いのですが、「物々交換」というのはどうでしょう。人との関わり合いに多様性を産む、面白い仕組みなのです。事例を2つ、あげてみます。

事例1 お茶碗とお米の交換

ある日、使っていたお茶碗が割れてしまったので、陶芸家の友人にお願いして作ってもらったのですが、ふと思いつきで、「お代はお米でもいい?」と尋ねると、面白がって承諾してもらいました。

後日、米を食べた彼が「米から力を感じた。田んぼに行ってみたいけどいいか」と声をかけてくれました。ちょうど餅米の稲刈りがあったので、助っ人をお願いし、隅やハマるところの手刈り作業をやってもらった後、彼が田んぼの土を捏ね始めました。「これ、ちょっともらってもいい?」

ひと月後。一握りの田んぼの土が、うつわになって、戻って来ました。「土を練る時、自分を土に合わせる瞬間があって、この土はスッといけた。買った土ではなかなかこうはいかない。」・・毎日土に触れて生きる人の世界、その一端に触れ、震える出来事でした。


事例2 米と米の交換

以前の記事で紹介した、昨年から自然栽培を始めたご近所のTさん、初収穫の米を、我が家の米と交換して食べ比べをしてみました。

Tさん家の朝日・陸羽132号・ササニシキ(緑色)
我が家の亀の尾・ササシグレ(青色)

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出典:「自然農法のイネつくり」片野学著 農文協 1990年

どれも古い品種ですが、食べ比べると、香り、食感、違いがあり、まさに良食味米の系譜をたどる旅。これからいろんな品種を作られると、味の違いを楽しめるチャンスが増えそうです。


育てた米、は「顔の見える通貨」に近いと感じます。誰でも食べるから交換しやすいけれど、味の好み(価値)も人それぞれ。使用期限(賞味期限)があるから、自分が自然から得たものが、そのまま他の人の命の、季節の一部になって、価値が交換され続ける。

 物々交換は、おすそ分け文化に似ていますが、もう一歩、踏み込んだイメージです。お金を介さないからこそ、お互いの暮らしに対する理解が深まる、という面白さがあります。


また長文になってしまいました。今年、家庭水田に挑戦される方達は、場所によっては10年近く放置された休耕田の竹林伐採からスタートするなど、私にはしたことがない経験を積み、ある意味、すでに先輩となっています。彼らの姿に学びつつ、今年も田んぼ仕事を楽しみたいと思います。










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