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米は買う?作る? 家庭水田 公開Q & A

今回は、公開Q & Aです。来年(2021年)を稲作元年にしようとしている方から、質問が届きました。家庭水田やってみたいな、という方が他にいたら何かの役に立つかもしれないので、この場でお答えしてみます。

*注意* 回答は、私の経験に基づいたもので、実際に作る田んぼの条件や、作り方によって回答の数字と差が出てくると思います。あくまで、家庭水田の具体的なイメージを持っていただくためのもの、とご理解ください。

では、いってみましょう。(質問は原文ママ)

・スタートするのに最低限揃えるべきものって何なの?

ほんとに最低限であれば、田んぼと、お米のタネと、人の力、です。が、それだけでは大変なので、私は、耕運機、種まき機、田植え機、稲刈り機、脱穀機・・と、いろんな道具や機械に頼っています。ただ、これらは、スタートするのに最低限揃えるべきもの、ではなく、たぶん機械の中で一番必要になるのは、刈払機(草刈機)です。

田んぼ周りの畔は、コンクリートで囲まれている、とかでない限りは草が生えます。この畔草刈りが田んぼ仕事のけっこうな割合を占めていて、1シーズンに4回〜6回くらいは刈ることになります。(交通量の多い道沿いや、お隣の田んぼと接している、などボーボーになると迷惑なところほど回数が増える)

刈払機は、地区の道路掃除などの共同作業には必須アイテムで、使える人材は、集落維持のためにも重要です。これを機に揃えておくと良いと思います。

鍬(備中鍬)も、畔に泥を塗って田んぼの保水力を高める「畔塗り」などの作業に使うので、これもあると良いです。

あと、個人的には、稲の苗を大きく育ててから植える「ポット式育苗箱」をおすすめしていて(理由は後述)、1反(30.3メートル四方)で25枚くらい使います。新品だと1枚500〜600円、中古も1枚200〜300円で売っています。

・年間の予算ってどれくらいなの?(保管庫?重機?)

私が田んぼに使っているお金(1反あたり)は、ざっくりですが
・耕運機・刈払機などの燃料代  3,000円くらい
・稲刈り機(バインダーという刈って束ねる機械)の麻紐 1,500円くらい
・年貢(田んぼの借り賃) 10,000円くらい 
 (借主によって、現金だったりお米だったりする)
・機械類の消耗部品交換 5,000円〜20,000円くらい
  →これは機械の消耗箇所によって、差が大きい。
・その他 精米の電気代・農業共済の掛金など 数百円〜1000円くらい
         →(8/27 追記) 籾摺りと精米で、島内の有料サービスを利用すると、
    1kg あたり約50円、300kgで15,000円かかります。知り合いの農家
    さんにお願いするのも手です。私は籾摺り精米機を使わなくなった
    方からいただいて使っています。

初年度は、これに加えて、収穫したお米を入れる袋代も数千円かかります。

通常は、これに加えて、種籾・肥料・農薬・苗を育てるための土を買ったりしますが、種は自家採種で、肥料と農薬は使わず、土は山でもらってきたものを使っています。

保管には、スペースの確保が課題です。300kgくらいのお米を籾の状態で保管する場合は、ざっくり、1mのサイコロくらいのスペースが要ります。

重機は使わないですが、数年前、耕運機の操作を誤って溝に落っことし、
パワーショベルで吊り上げてもらったことがあります。

・田んぼってどうやって借りるの?

田んぼの所有者の方から同意をもらって、地区の代表の農業委員さんを通じて町の農業委員会の許可をもらって作る、というのが一般的な流れです。借り賃についてはとくに定めがなく、田んぼによっても収量に差があるので、所有者の方と相談して決めることになります。

・どのくらいの広さで、どの程度の収量があるの?

支出に対しての収入(収量)ですが、今の私のレベルで、1反あたり330kg(5.5俵)程度。慣行栽培だと標準がおよそ500kgと言われているので、3分の2くらいですが、来年以降、苗をもっと上手に育てたり、草をより生えにくくしたり、といった改善策を試し、増やせる余地があると思っています。

また、品種によっても収量に差があります。我が家の例では、亀の尾は分けつ(株の枝分かれ)が少ないので、ササシグレに比べると、収穫量は少ないです。

・品種はどのように選ぶのがいいの?

周りの田んぼで育てられている品種、でも良いのですが、いろんな品種を食べ比べて、好みのものを選ぶのも楽しいと思います。品種によって暖地向き、寒冷地向きなど場所を選ぶ面もありますが、隠岐は西日本でも緯度が高いので、適性の幅が広いかもしれません。

・年間のスケジュールってどんな感じなの? 繁忙期は?

すこし変則的ですが、この記事を書いている、2020年8月スタートの年間スケジュールになります。家庭水田は、「平均で、土日のどちらかの半日を使えばできる」を謳っているので、田んぼ作業は土曜が基本で、必要に応じてそれ以外の日を追加しています。

最近の稲はこんな感じです。順調にいけば、これからだんだん稲穂が垂れ、田んぼ一面が黄金色になってきて・・

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9月12日(土) 畔草刈り 田んぼの水を抜く
9月26日(土) 稲刈り
9月27日(日) 天日干し 
10月3日(土) 脱穀 (天候により前後)

餅米は、普通の稲よりも成長がゆっくり。およそ1ヶ月遅れで、収穫〜脱穀をします。

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まだ穂が出ていない餅米の田んぼ

11月7日(土) ワラを裁断、田んぼへ返す
  (納豆・ワラ焼きタタキ・注連縄飾りなどに使う分は、とっておく)
12月5日(土) 田んぼを耕す

田んぼ仕事はここまででひと段落。以下は、2021年の予定です。

2021年
3月21日(土)田んぼ周りの草刈り
3月28日(土)田んぼの一角に苗床の準備
4月4日(土)種籾の塩水選・温湯消毒作業 →  浸漬 
4月11日(土)育苗用に、山の土を採取 篩って細かいものを使う
       (土を買う場合は不要)
4月18日(土)種まき →  田んぼへ移し、育苗スタート
4月25日(土)例年この辺で、ため池掃除(草刈りなどの共同作業)
       ついでに自分の田んぼ周りの草刈り
5月2日(土)水を入れ、耕す(荒代かき)
5月9日(土)畦塗り(畔に泥を塗り、水が漏れにくいようにする)
5月23日(土)耕す(中代かき) 
6月4日(木)植える前の代かき、田面の高さ調整
6月6日(土)田植え(最後の代かきの2日後)(1日しごと)
6月7日(日)田植え 予備日
6月13日(土)田車押し1回目
6月20日(土)田車押し2回目(田んぼによって、1回〜3回と幅がある)
6月27日(土)畔草刈り 
7月4日(土)必要に応じて草取り
7月11日(土)必要に応じて草取り
      稲を傷めないよう、田んぼに入るのはこのあたりまで
8月8日(土)畔草刈り

ここまでで1サイクル。繁忙期は、やはり田植えと稲刈り時期です。これは一番草が生える田んぼの例で、場所によっては、ガス抜きくらいのつもりで田車を1回だけ押して、あとは収穫まで入らなくても草が生えない田んぼもあります。

我が家の田んぼがまわりの田んぼと違うところは、

1.ポット式育苗箱で15センチ〜20センチの大きな苗に育ててから植えるため、田植えが遅い
  →田植え後に水を10センチ以上深く張って、雑草を生えにくくするため

2.大型のコンバインを使った稲刈りを想定していないので、田んぼに溝を  切って排水し、稲刈りの時にハマりにくくする「中干し」という作業が  入っていない(乾きにくい田んぼでは必要かもしれません。)

3.品種にもよるが自然栽培だと成長がゆっくりになるため、稲刈りが遅い
  

ちなみに、慣行栽培の田んぼを引き継いで1年目は、何年も草が生えていなかった田んぼなので、植えたままほったらかしでも草はあまり生えず、除草作業はほとんど不要です。

・なぜ「田んぼはハードルが高い」と思われているの?

ここまで、田んぼのハードルを下げるために記事を書いてきたのですが、人によっては、「やることがいっぱいで大変そう」とかえってハードルを上げてしまったかもしれません。でも、一度植えてしまったら、あとは稲の成長を楽しみながら、収穫まであっという間に過ぎてしまいます。


・「やっぱりダメだ…」ってなったときってどうすればいいの?(消極的…w)

なったことがないのでわかりません(笑)が、そのときに、一緒に考えるくらいはできそうです。でも、きっとなんとかなると思います。

私が家庭水田の可能性を感じた事例として、近所のTさんの田んぼをご紹介します。Tさんは移住5年目くらいの夫婦で、今年から2反あまりの田んぼを作り始めました。

無農薬・無肥料でやりたい、ということで、今年の2月くらいに相談を受けたのですが、トラクターや耕運機という、耕す機械がない、とのこと。

「そもそも、田んぼって耕す必要あるんですかね?」という問いを受けて、考えてしまいました。不耕起栽培、という言葉は聞いたことがあっても、自分はやったことがないので、「わからないなァ〜」としか答えられませんでした。そもそも、当たり前に耕してきた自分には、考えつかないことです。

4月にポット育苗箱に一緒に種まき作業をし、結局Tさん夫婦は田んぼを耕さずに、すべての苗を手で植えました。相当に大変そうでしたが、植え終わった田んぼは、周りの田んぼと明らかに違う雰囲気が漂っていました。

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これが先週のTさん家の田んぼ。初年度ということで、うるち米だけで3品種、旭・陸羽132号(通称:愛亀)・ササニシキを植えたとのこと。どれも町内のほかの田んぼでは見られない品種です。この隣にモチ米も、のびのびと育っていました。耕す手間をかけず、美味しいお米がたくさん収穫できる、となれば、それに越したことはありません。

先輩風を吹かせるつもりが、逆に教わることの方が多い。自分が先生になろうとするよりも、瑞々しい感性をもつ先生(新しく始める人たち)がたくさん現れて、お互いに学びを深め、自分に合ったやり方を確立していく方がよほど良いと思えたのでした。

町内のあちこちで、いろんな栽培方法を試行錯誤して、成功例も失敗例も、その成果を共有することで、家庭水田の技術を高めて行ければ、と願っています。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございます。次回以降は、家庭水田の課題について、実際に始めようとする方の実情を伺いながら、掘り下げていきたいと思います。

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