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No.991 衝撃のラブレター

前略。どうだい、ソッチ。
もう馴れたかい。
コッチは万事に不馴れで、閉口しているよ。
そうか、出窓の手すりにきていた鳩も、君から豆が貰えず閉口しているのか、おれが顔を出すと、ぷいと顔を背けて行っちまうんだ。
おれだって、君に劣らず優しいのになあ。
まあ、いいか。
鳩は鳩、おれはおれ。
君のつくる味噌汁(おみおつけ)が飲みてえよ。
こん畜生め、後略だ。

山口峯三さん(90歳・埼玉県)

奈良県御所市にある郵便名柄館は、1913年に郵便局舎として建てられてから1975年にその役目を終えるまで地域のキーステーションでした。役目を終えて朽ちていた郵便局舎でしたが、2915年(平成27年)に開局当時の姿に復元されました。

その復元再生を記念して始まったのが、「はがきの名文コンクール」です。近くに立つ一言主神社は、一言の願いであれば、何でもかなえてくれると言われており、その言い伝えにちなんだものだそうです。

2015年度(平成27年)の第1回「はがきの名文コンクール」で大賞受賞したのが、冒頭の山口峯三さん(90歳・埼玉県)のハガキ文でした。先立たれた奥さんへの愛情あふれる文面に、文字がかすみます。峯三さんのラブレターに、男の私も惚れてしまいます。
 
翌、2016年度(平成28年)第2回「はがきの名文コンクール」で大賞に輝いたのは、三上八郎さん(79歳・静岡県)の次のハガキ文でした。

100m・14秒72、やった!
東京都代表選手選考会・五年女子二位。
とことんけっぱれ、それがジイちゃんの願いだ。
アミナが、ガーナ生まれのパパと同じ顔色をして生まれてきたときは、びっくりした。
だが、父親ゆずりの長い足と、オレに似たクソ度胸でここまできた。
アミナは何でも食べるから、ジイちゃんは喜ぶのだ。
黒はんぺんも、おからの炊いたのも、鯖の味噌煮も大好きだったな。
夏休みは沼津へおいで、小アジを釣ろう。

三上八郎さん(79歳・静岡県)

第2回コンクールで佳作(斉藤孝賞)となった長谷川美津子さん (71歳・福岡県)の文面も心に響きます。昭和28年生まれの私ですが、グッと来てしまうのです。

「明日(あした)ね」の約束は70年経ちましたが母が天国で次兄に団子を一つ食べさせてあげることが出来ますように。
昭和20年8月長兄六才と次兄四才は共に赤痢で
薬もなく小麦粉を練った団子がやっと二つ。
重かった長兄の方に二つ共食べさせていた母に
次兄が「僕にも一つ」と懇願したそうですが
「明日ね 今日は我慢して」と諭すと涙を浮かべ
「うん」と一言 その夜に急変。
昨年98才で亡くなった母の願いは天国で会えたら
「お団子を一つあの子の口へ」

長谷川美津子さん (71歳・福岡県)

同じ佳作の村岡美佐男さん (75歳・福島県)の文面は、亡くなった両親への心のおとないです。「さすけねぇ」は会津方言で「大丈夫、心配ない」の意味でしょうか。効いています。

お袋よ、ガンコ親父と飯豊山の遥か上の青い空で仲良く暮らしているかなぁ
俺か? 俺はさすけねぇ。
60の手習いで始めた津軽三味線、最近は介護施設から演奏の依頼もくるんだょ。
みんな三味線の音色を聴くと目が輝くんだ。
俺より上手い三味線弾きは沢山いる。
でも俺は全員を俺の親父とお袋だと思って演奏してるんだ。
みんなが安心して長生きできる世の中で、あったらいいなぁ…。

村岡美佐男さん (75歳・福島県)

これも第2回コンクールで日本郵政大賞を受賞した若色 茜さん (34歳・栃木県)の作品です。お父さんへの気遣いがたまりません。娘さんのエールに、きっと元気を取り戻されたのではないかと思います。

お父さん、会う度に小さくなっていくね。
昔は威厳があって、そばにいるだけで怖かった。
一段飛ばしで駆け上っていた階段、
今ではエレベーターだなんて信じられない。
一発で決めていた駐車も、
最近ではやり直すことが増えたよね。
何か言いかけてやめちゃうの、
私、気付いてたよ。
明日、久し振りに帰ろうかな。
そしたら、ろくに連絡もしない不出来な娘を
叱り飛ばして下さい。
玄関で仁王立ちして怒鳴りつけた
あの日のように。

若色 茜さん (34歳・栃木県)

いかがでしたか?心の疲れを癒し、心に栄養ドリンクを頂いたような持ちよい文章がネットに掲載されています。「はがきの名文コンクール」と検索してみて下さい。小さなはがきに、大きな心があふれています。

このような素晴らしい企画を始められた主催者のお手柄のコンクールは、今年で9回目を迎えます。その応募締め切り日は、今日9月5日(消印有効)だとありました。


※画像は、クリエイター・ワダシノブ/イラスト・マンガさんの、タイトル「削らずに反応を起こす」の1葉をかたじけなくしました。大きな「愛の筆」が雄弁に言葉を綴っているようです。お礼申し上げます。