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古本とのもう一つの出合い

久松 潜一先生(1894年~1976年)は、国文学界の泰斗と言われました。
1970年代の御高齢になっても国立国会図書館でご自身が調べ物をされている姿を拝見したことがあり、衰えを知らぬ向上心や向学心に感動し、私は襟を正されました。

その久松先生が上梓された『日本文学評論史・形態論篇』(昭和22年4月5日 至文堂 定価130円)を古本屋で手にしたら、な・な・何と久松先生が、さる高名な国文学者に贈呈したもので「〇〇様 惠存 筆者」の自筆の墨書がありました。その国文学者が亡くなられ、ご家族が書架の整理をなさった結果、私のような者の所に流れ着いた訳ですが、その温かみのある手跡を見るたびに癒され、心が潤います。

もう一冊は、同じく久松潜一先生の『日本文学評論史・古代中世篇』(昭和11年10月29日 至文堂 定価6円)です。これも古書店で入手したものです。表紙の見返しには「初給紀念」と金文字で書いてありました。「紀念」とは、「心に刻んで忘れないこと、その思い出」という意味でしょうか。裏表紙の見返しには、金文字で「昭和十二年四月 以、錦城俸給購求」とあります。「錦城」とは、1880年(明治13年)に創設され、1899年(明治32年)に「錦城中学校」(現、錦城学園高等学校)と改名された学校ではないかと思われます。若き国語教師が、現在なら6,000円前後もしたであろう研究書を初給料で購入した。彼の学問にかける熱い心意気を見たような思いがし、一方、我が初給料の行方はどうだったかと振り返り、その違いに恐れ入った次第です。

古本には、人生を考えさせてくれるような出合いがあるように思います。
それにしても、昭和11年に6円だったものが、昭和22年には130円になっており、20倍以上の貨幣価値が変わったのかという意外な発見もありました…。

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