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No.36 要らん世話焼きは、老人のすることと見つけたり!

「狂歌」とは、社会風刺や皮肉、滑稽を盛り込み、五・七・五・七・七の音で構成したユーモア形式の短歌のことです。江戸時代中期の俳人・横井也有(1702年~1783年)の詠んだ「七首の狂歌」は、老人の私に、涙、涙、涙なくしては語れないものがあります。まずは、読んでみてください。

「皺はよる ほくろはできる 背はかゞむ あたまははげる 毛は白うなる」
「手は震ふ 足はよろつく 齒はぬける 耳は聞えず 目はうとくなる」
「よだれたらす 目しるはたえず 鼻たらす とりはずしては 小便もする」
「又しても 同じ噂に 孫じまん 達者じまんに 若きしやれ言」
「くどうなる 氣短になる 愚痴になる 思ひつく事 皆古うなる」
「身にそふは 頭巾襟巻 杖眼鏡 たんぽ温石 しゆびん孫の手」
「聞きたがる 死にともながる 淋しがる 出しやばりたがる 世話やきたがる」

ピンポイントで我が鳩尾にボディブローを炸裂させる破壊力を持つ狂歌です。恐るべし、横井也有!こんな老いの心のすさみ、繰り言を、「七」という目出度い数で収めてしまったあなたに不思議発見!いえ、尊敬しています。

さて、若者の皆さん、この中に1首でも該当する(心当たりのある)方がおられたら、漏れなく「老人」のお仲間としてノミネートしますので、心と体の準備をお願いします。健やかな若手老人として、余生を誉生にすべく、共に励みましょう!

その横井也有の歌にもあるように、「要らん世話焼きは、老人のすることと見つけたり!」(ちょっぴり「葉隠」風に)と評されるかもしれませんが、第31回「現代学生百人一首」(東洋大学主催 2018年)の中から、「私のお気に入り10首」を独断と偏見のなすがまま、勝手きままに抜粋してみたのが、次の歌群です。

「ああこれが表面張力というものか私の中の苦しみのコップ」(福島・高2女子)
「泣く君の力になりたいだけなのにどうしてどんどん遠くへ行くの?」(千葉・中3女子)
「知能増え機能も増えた機械達 人の個性は絶滅危惧種」(千葉・高2女子)
「手強いぞ言ったら引かぬ更年期言われて聞かぬ私思春期」(東京・高1男子)
「少しだけ働く祖父に近づいた十五の夏の腕時計の跡」(東京・中3女子)
「いとをかし平成女子はインスタにほうじ茶キャラメルフラペチーノ」(東京・高3女子)
「不安だなそんな自分をシャーペンが一人じゃないと見守っている」(神奈川・中3女子)
「カラカラと心の不安が鳴っているマーブルチョコを奥歯で噛んだ」(新潟・高3女子)
「『いい人』と思われたくて見栄を張る鏡にうつる『ワタシ』は誰だ」(長野・高3女子)
「寮生活一歩歩けば友の部屋喜び悲しみ持ち込みO.K.」(ニューヨーク・12年女子)

全国からの応募は49,259首だったそうです。100首の入選作(0,2%の入賞率)の内、女子が70%を占めていました。短歌という表現形式に、心や言葉を託しやすい文芸なのでしょうか?私には、生き生きと輝きを放った三十一文字でした。

十代の感性に、大人の心がグラリと揺れました。

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