No.396 春よコイ!早くコイ?
毎朝の愛犬チョコとの散歩コースが、A~Fまで6通りあります。そのFは、近くの川に沿った道路を歩くコースです。川幅は20m弱、水深は1m50cm前後しかないのですが、ある場所にだけ錦鯉が5匹、黒々とした真鯉は十数匹、目視できるのです。
そこに錦鯉がいる事に気づいたのは、数年前の散歩中の事でした。上流のどこかで飼っていたものが豪雨で流されてきたのだろうというのが近くの人たちの一致した見解です。品評会に出せるような立派な錦鯉ではなくて、まだ育ち盛りのヤング3匹とその両親と言った風情です。もっとも、「赤の他鯉」同士かも知れませんが…。
彼らが棲む場所は、道の手前側が川の瀬で流れが速く、反対側の方は淵となっており流れが淀み、難を逃れたり隠れたりするのに好都合だったようです。台風で豪雨のために川が激流となった翌日も、流されずにいましたし、川鵜の度重なる攻撃にも素早く潜ってかわす技を身につけました。そうやって棲み続けるうちに、近所の人たちから愛されるようになり、エサをもらえるようになり、私のような者の心も掴んで放さなくなったのです。
つい先日、錦鯉たちへの新年の御機嫌伺にとFコースを歩いていたら、川底に身を沈めてじっとしています。それでなくても寒い朝です。水中はなおさら冷たかろうと思うと、身震いしてきます。時々エサを与えている老人が、タバコをふかしながら川の主を見ていたので、声を掛けました。
「冷たいからか、底の方でじっとしていますね。」
「そうじゃなぁ。もう寒うなったから、動きも鈍いんかなあ。最近は、エサはやらんのじゃ。いつじゃったか、テレビで前川清さんも話しよったけどな、あん人も、錦鯉を飼うちょるらしいんじゃ。なんでも、水温が低うなったら、エサをやられんのち。川ん水が冷とうなっちから、鯉ん体温も下がっち、身体ん機能が下がるらしいな。鯉は胃がねえから腸じ消化するんじゃが、消化不良を起こすんじゃち。じゃあから、わしゃ、冬ん間、エサはやらんのじゃ。」
と説明してくれました。もう、知らないことばかりだったのでヘーボタン乱打です!
散歩から帰って、ちょっと調べてみたら、
「鯉は、『無胃魚』と呼ばれ、胃がありません。食道から直接、腸につながっています。そのため、喰いだめができず四六時中餌をあさらなくては生命を維持できません。時間に関係なく昼でも夜でも釣れるのはそのためでしょうか。胃がないので食道部から消化酵素を分泌し、腸でタンパク質はアミノ酸に炭水化物はグルコースなどの単糖類に分解し、消化吸収します。鯉の腸は胃のあるお魚よりも長くできていています。」
という説明を見つけ、タバコ老人の蘊蓄の程に改めて驚きました。
それにしても、胃がないから食いだめが出来ないというのは、胃がある人間でさえ食いだめが出来ないのだから、四六時中モグモグタイムせざるを得ないのに、冬の間は食べずに過ごすなんて大変なことですね。いつにもまして愛おしい気持ちになりました。
♪春よコイ、早くコイ~ そんな心境でしょうか。水底で哲人のような姿の鯉は…。