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私は何者か、57


小さな子供の頃のこと。真夏、真昼、大人と昼寝をする。
涼しい北側の八畳間の和室。縮の夏布団の上で一度コロリと横になると、7000光年かに星雲まで一気に旅をする。

何千光年経っただろう。手の甲にふと生き物の気配、蜘蛛か、等間隔のリズムを刻んで跳ねた。
急いで戻ってくるのだ。かに星雲から、7000光年を跨いで。

昼寝から覚めると、大人はもういない。
台所に続く居間の引戸の前まで行くと、その引戸が少し開いている。祖母と母の話し声。経典のように。いつまでも、いつまでも続く。

引戸の前で、どんなに思っても、わたしは中へ入れない。

私はひとり昼寝の旅に置き去りにされた。

そのまま、廊下にペタリと座り考える。

彼らは本当に私の母だったり、祖母だったりするのか。
本当か。
宇宙人かも知れないし、人間じゃないかも知れないし。
いったい、誰なの?
もうすぐ、私を置いて別の星へ帰ってしまうのかも知れない。

第一に、私は誰なの?
何故なの?
何なの?

問う。自分に。
いろいろ、想像して、裏返ってしまう。

彼らを一向に見ずに。

物陰で、一人きり、問い続け、空想の世界に遊ぶ。

でも、本当に出て行く機会を失って、いったいそのあと、私はどうしたのだろう。

何にも覚えていない。


けれど、確かに彼らは、間違いなく、私の母と祖母だったようだ。

月に帰ったのか、別の星に行ったのかはわからないが、彼らはもういない。

そして、私はまだ、問い続ける。


思い出す。

そんな、昼寝の旅。



私は何者か。

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