【朗読】冬の子

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【概要】

あらすじ

紅い葉が落ち始める秋の日、そろそろ仕事の時期だと冬の子が動き出します。
冬の子は葉っぱを落として北風を呼び、冬の訪れをつかさどります。

情報

朗読、一人読み用台本
性別不問
上演時間　約10分

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【本文】

　北きたのまちでは、秋あきが終おわりはじめていました。

　ついさいきん、紅葉こうようしたばかりだと思おもった木々からも、だんだんと葉はが落おちています。

「秋の子さん、秋の子さん、仕事しごとはどれくらい進すすんでいるんだい？」

　冬ふゆの子が秋の子に会あいに行いってたずねました。

「もうこの列島れっとうは、ほとんど秋にしてしまったよ。あとは南みなみをのこしているだけさ」

　秋の子は葉にせっせと赤い色いろを塗ぬりながら答こたえました。

「本当ほんとうかい？　ならぼくは、そろそろ北のほうから仕事をはじめても大丈夫だいじょうぶそうだね。せっかちな葉はっぱはもう落ちはじめているみたいだけど」

「あ〜あ、ぼくががんばって赤くした葉っぱも、もう落おとされてしまうのか。なんだか悲かなしいなぁ」

「じゃあ、僕は北に行ってくるよ。」

　秋の子に見送みおくられながら、冬の子は北に向むかいました。

　北きたのまちで、冬ふゆの子はさっそく仕事しごとをはじめました。

　赤い葉はっぱをせっせと落おとしたり、冷つめたい北風きたかぜを起おこしたりしました。

　冬の子のおとずれで、人々は秋あきの終おわりを感かんじ取とります。

「冬の子やーい！　まだ冬にしないでおくれよ～！」

　子供こどもが冬の子に向むかって叫さけびました。

「どうしてだい？」

「早く冬になったら、すぐに雪ゆきが降ふりはじめちゃうじゃないか。ここらは雪が多おおいから、雪ゆきかきが大変たいへんなんだ！」

「ごくろうさま、でも冬の子はとめられないよ」

　冬の子は北のまちをあとにして、すこし南みなみに行いきました。

「冬の子やーい！　まだ冬にしないでおくれよ～！」

　農家のうかのおじさんが冬の子に向むかって叫さけびました。

「どうしてだい？」

「まだ作物さくもつが育そだちきっていないんだ。ここで寒さむくなったら、小さいものしか取とれないよ」

「冬の子は去年きょねんと同おなじくらいの時期じきに働はたらいているよ。冬の子はとめられないんだ」

　冬の子はさらに南みなみに行いきました。

「冬ふゆの子やーい！　まだ冬にしないでおくれよ～！」

　熊くまが冬の子に向むかって叫さけびました。

「どうしてだい？」

「まだ冬ふゆごもりの準備じゅんびがすっかりできていないんだ。」

「とっても寒さむくなるまで、まだ時間じかんがあるよ。きっと間まに合あうさ。冬の子をとめることはできないよ」

　冬の子はさらにさらに南みなみに行いきました。

「冬ふゆの子やーい！　そんなに急いそいで葉はっぱを落おとさないでよ～！」

　部屋へやの中から、男の子が叫さけびました。

「どうしてだい？」

「そこの木の葉っぱが全部ぜんぶ落おちたら、僕ぼくは天国てんごくに行いかないといけないんだって！」

　よくみると、部屋の中の男の子は、昼間ひるまだというのに、ベッドに寝ねていました。

「誰だれがそんなことを言いっていたの？」

「お医者いしゃさん。僕には隠かくしていたみたいだったけど、聞きいちゃったんだ」

「それはかわいそうに…。でも気きの毒どくだけど、冬の子はとめられないんだ」

「うん。僕、天国に行いくのはへっちゃらなんだ。けど、もうすぐ僕の誕生たんじょう日なの。お母さんもお父さんも、僕も、誕生日をとっても楽たのしみにしているから、誕生日の日まで、葉っぱがあればいいんだ」

　冬の子は、だんだんこの子の力になってあげたいと思おもいはじめました。

「誕生日はいつなんだい？」

「あと一ヵ月いっかげつだよ」

　もう冬の子が来きてしまったこの町を、あと一ヶ月も秋あきにしておくのは、大変たいへん難むずかしいことでした。しかし、冬の子は決きめました。

「わかった、じゃあ、誕生日までだよ。約束やくそく。冬の子をとめたのは君きみがはじめてさ」

「ありがとう！　冬の子さん！　約束するよ」

　それから冬ふゆの子は、その場所ばしょにとどまりました。

　葉はが落おちないように気をつけて、冷つめたい北風きたかぜも起おこさないようにしました。

　雪雲ゆきぐもが近ちかづくと、追おいはらいました。

　ここよりもっと南みなみのまちの人たちは、いつまでたっても冬の子が来こないので、なにかおかしいと思おもっていました。

「冬の子や～い！　いつになったらくるんだい？」

　南のまちの人たちは冬の子に叫さけびました。

　しかし返事へんじはありませんでした。

　冬ふゆの子は、男の子の家いえの木この葉はを、なんとか残のこそうとがんばりましたが、葉ははだんだんと少すくなくなっていきました。

　約束やくそくの誕生日たんじょうびには、あと二枚にまいしか残っていませんでした。

「お誕生日、おめでとう！」

　男の子の部屋へやの中からは、明あかるい笑わらい声ごえが聞きこえました。

　男の子のお母さんが、お父さんが、兄弟きょうだいたちが、プレゼントをあげたり、ケーキにろうそくをたてたりしていました。

　みんながとても楽たのしそうで、そして、うれしそうでした。

　男の子もこれまでで一番いちばんの笑顔えがおを見せていました。

　冬の子も男の子の様子ようすを見て、とてもうれしそうでした。

　お誕生日のパーティーの間あいだにも、葉が一枚、風かぜにさらわれていきました。

　その夜よる、一人でベッドに横よこになっている男の子に、冬ふゆの子は話はなしかけました。

「お誕生日たんじょうびのパーティーは楽たのしかったかい？」

「とっても、楽しかったよ！」

　男の子は答こたえました。

「ぼくも、楽たのしそうな君きみを見て、とってもうれしかった！
　けど、もうこれ以上いじょうここを秋あきにしておくわけにはいかないんだ。南みなみの人たちが、冬の子を待まっている」

「ぼく、もう天国てんごくにいってもいいよ。約束やくそくだもん。ありがとう。冬の子さん！」

「おやすみなさい。冬の子は南に行いってくるよ」

　冬の子は、最後さいごの葉はっぱを落おとしました。

　そして、ここよりもっと南のまちを、冬にしに行いきます。

「大遅刻だいちこくだぞ！　いそがなくちゃ。」

　南みなみのまちの人たちは、冬ふゆの子を待まっていました。

「冬の子やーい！　どうして遅おくれたんだい？」

　南のまちの人たちが、冬の子に叫さけびました。

「道みちに迷まよっちゃったのさ。冬の子だって、そういうことがあるんだよ」

　おしまい

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