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【フリー台本】ジャム瓶一杯の願いごと(性別不問 二人用)

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【概要】

あらすじ

 星のカケラを ジャムびんいっぱい集めたら ねがいごとをしてみよう。
 星まつりより 流れ星より 何より確かに カケラは願いをかなえよう。
 けれど願いはひとつだけ。 ただひとつ、あなたの命の限りに ひとつだけ

情報

声劇台本
性別不問 二人用
上演時間 約40〜50分

<>内はト書き。

登場人物

◆フィン(少年 演者の性別不問)
 自分を怪物と自称する呪われた少年。顔を見られることを極端に嫌がっている。


◆ルカ(性別不問)
 星降る砂漠の近くに住む、盲目の人。星降る砂漠で星のカケラを集める人を助け、自らもカケラを集めている。


【本文】

フィン
 『昔々、人里ひとざとから少しばかり離れた小さな家に、ある夫婦がつつましくらしておりました。
  窓の外ではごうごうと風が鳴り、雨粒あまつぶ屋根やねたたいています。
  そんな夜であるというのに、コンコンとノックの音が聞こえてきました』

ルカ
 『こんな嵐の夜に、誰かたずねてきたのだろうか。それとも、風に飛んできた木の実や小石が当たったのだろうか』

フィン
 『家の主人は、窓からこっそり外を見てみます。もう一度、コンコンと音がして、こんどは「こんな夜更よふけに申し訳ありません」と声もしました。
  主人はすこぅしだけ戸を開きました。その少しのすき間からも、雨が吹き込んできます。
 とびらの向こうには、分厚ぶあついマントを着た人影がありましたが、目深まぶかにかぶったフードで顔は少しも見えませんでした』

ルカ
 『どちら様ですか』

フィン
 『旅の者なのですが、宿が得られぬまま彷徨さまよっていたところ、このように嵐がやってきてしまいました。かりをたよりにようやくあなた様のおたく辿たどいたのです。どうか、一夜の寝床ねどこをおしいただけないでしょうか』

ルカ
 『それはそれは、災難さいなんでございましたな。しかし、みょうな話でもあります。
 宿やどのある町場まちばは、ここからそう遠くもないでしょうに』

フィン
 『「恥ずかしながら、道に迷ってしまったのです」
  旅人はそう答えますが、主人はなおも怪訝けげんそうな顔つきをしています。』

ルカ
 『ほらほら、あなた。いつまでもお客様を外に立たせているものではありませんわ。戸を開け放しているものだから、玄関もびしょれよ。
 さあさ、まずは入っていただきましょう』

フィン
 『奥さんがうながしましたので、主人はしぶしぶ旅人を部屋の中にいれました。』

ルカ
 『寒かったでしょう。どうぞ暖炉だんろの火にあたってくださいな。それから、びしょびしょのマントもどうぞおぎになって、一緒にかわかすといいわ』

フィン
 『いえ、マントを脱ぐことはできないのです』

ルカ
 『人の家に入ってきておいて、マントを脱げないとはどういうことだ』

フィン
 『ともかく、顔を見られるわけにはいかないのです。ですから、お許しください。部屋のすみっこ、どこかゆかだけ貸してもらえれば、他にご迷惑めいわくはかけませんから』

ルカ
 『顔を見せられないだと? まさか、町場で強盗ごうとうでもして、逃げてきたのではあるまいな。そんなあやしくてあぶないやつめるわけにはいかないぞ』

フィン
 『「まさかまさか。そんなわけではありません。ともかく、わけは言えませんが顔を見られたくないのです。
  とはいえ怪しさを否定ひていできないことは自覚しております。ですから、一夜の宿へのお礼ははずみます。顔を見ないというお約束だけ守っていただきたい」
  旅人は、そう言うと金貨きんかの入ったおもくて大きなふくろを取り出しました』

ルカ
 『いやいや、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。しかしまあ、うたがって悪かったよ。  こんな嵐の夜に追い出すようなことをするわけがないじゃないか。もちろん、約束も守るよ』

フィン
 『夫婦は、旅人にあたたかい夕飯をい、やわらかい寝床ねどこも用意しました。旅人は夕飯を食べる時もフードを目深にかぶったままうつむいていましたし、寝る時もかべに向かって小さく丸まるように横になり、毛布を頭までかぶりました』

ルカ
 『「何がそんなに顔を見られたくないのだろう。本当におたずね者だったりしたら事だぞ」
 「いいえ、あなた。きっと、とってもみにくい顔をしているんでしょうよ。大きなきずがあったり、ひょっとして怪物かいぶつみたいな顔をしているのかもしれないわ」
 「今はぐっすり寝ているのだから、ちょっとのぞいて見るくらい、ばれやしなんじゃないか」
 「そんなそんな、だめですよ。あんな大金たいきんをもらって、約束したんですから」』

フィン
 『次の日の朝、旅人が目覚めると、親切な夫婦は旅人の寝床のすぐ近くにたおれていました。
 「ああ、あんなに言ったのに。約束もしてくれたのに。誘惑ゆうわくにあらがえず、私の顔を見てしまったのですね」

 旅人は目を覚ますことのない夫婦に、一夜の宿への感謝を告げると、小さな家を後にしました』


ルカ
 「子どもたちを怖がらせるような、こんなおとぎ話があることは知っているけど、私には関係ない。だって私はそのどうしても見てみたいという誘惑にさそわれようがないんだから」

フィン
 「そんなおとぎ話があることは知っているけど、こんな嵐の夜には、暖かいあかりのれる扉をノックする。だって、僕でも嵐の夜には屋根が欲しいもの」


   <間>
   <雨風の中、戸を叩く音>


ルカ
 「こんな嵐の夜に、誰かたずねてきたのだろうか。それとも、風に飛んできた木の実や小石が当たったのだろうか」

   <さらに、戸を叩く音>

フィン
 「部屋が暗いけれど、もう寝てるのかな。それともかな? 空き家だったらちょっと失礼して……」

   <扉が開く>

ルカ
 「こんばんは? どなたか、いらっしゃるんですか?」

フィン
 「あ! え……っと。 すみません。今夜泊まれるところを探していまして」

ルカ
 「こんな日にお客様とは。それに、ずいぶん若そうなお声ですけど、お一人ですか?」

フィン
 「ええ。僕、一人です」

ルカ
 「……ともかく、雨風あめかぜも吹き込みますから、お入りください」

フィン
 「ありがとうございます」

ルカ
 「とはいえ、私では何もお役には立てません。このとおり部屋もらかり放題ほうだい。おもてなしも難しい」

フィン
 「寝ていたでしょうに起こしてしまってごめんなさい。散らかっててもかまいませんし、おもてなしもいりません。 あかりだけ、つけてもらってもいいですか?」

ルカ
 「ああ、失礼。あなたの近くにランプがあります。どうぞ、使ってください」

フィン
 「じゃあ、お借りします」

   <フィン、灯りをつける>

ルカ
 「ふふ。想像以上に散らかってるでしょう?」

フィン
 「はい……あー、いえ、別に」

ルカ
 「こんな訳です。近くに村があります。そちらに向かわれて、まともな大人をたよってはどうでしょうか」

フィン
 「いえ……村はちょっと……」

ルカ
 「事情がおありですか?」

フィン
 「事情というか……。もう村には立ち寄ってて……」

ルカ
 「つまり、すでにことわられた後、と」

フィン
 「えっと……」

ルカ
 「確かに、嵐の夜のノックの音を、不吉ふきつきざしと思う者は多いですからね」

フィン
 「お願いします。ベッドも食事もなくていいです。雨風がしのげる屋根だけ貸してください! もちろん、お礼はします。おかねならたくさんあります」

ルカ
 「そのかわり、自分の顔はけっして見てくれるなって?」

フィン
 「あ……えっと……それは、なんでそう思ったんですか」

ルカ
 「冗談じょうだんですよ。まるでお伽話とぎばなしの夜のようだなって、可笑おかしがっただけです」

フィン
 「実は、顔を見て欲しくないのは、確かにその通りで」

ルカ
 「それはまたどうして?」

フィン
 「僕は、まわしい怪物だから」

ルカ
 「それじゃあ、本当にお伽話みたいじゃないか。なるほど、君が村で、一夜いちや宿やどにありつけないのも、うなづけますね。もうちょっと、うまくやらなきゃ」

フィン
 「うそは苦手で」

ルカ
 「わかりましたよ。では、どうぞ。こんなところでよければ。
  お名前くらいは教えてもらえますか?」

フィン
 「フィンといいます」

ルカ
 「わたしはルカです。さ、びしょれのマントは玄関にけて。ベッドはあいにくひとつしかないから……」

フィン
 「あの、マントは、脱げないです。なので、このままマントにくるまって、床で寝ます」

ルカ
 「風邪かぜをひいてしまいますよ?」

フィン
 「大丈夫。たぶん」

ルカ
 「顔を見てくれるなと言うなら、心配せずとも大丈夫ですよ」

フィン
 「みんなそう言うんですけど、その約束が守られることって、ほとんどないんです」

ルカ
 「どうしてもご心配なら、私は先に寝ましょう。寝ている間に毛布でもなんでも好きに使ってもらってかまいませんから」

フィン
 「ありがとうございます」


   <翌朝>

フィン
 「あれ? なんで僕、ベッドで寝てるんだろう?」


   <フィン、床に横たわるルカを見つける>


フィン
 「まさか! ……ああ! やっぱり!」


フィン
 「ルカさん! ルカさん! ねぇ、目を覚まして!」

   <フィン、ルカを揺すり起こそうとする>

フィン
 「──この人も、だめだった。僕の……僕のせいで!」

ルカ
 「ん……んん……?」

フィン
 「え⁉︎」

ルカ
 「おはようございます……。ふわぁ……<あくび>
  早いんですね」

フィン
 「なんで床で寝てるんですか! びっくりしたじゃないですか!
  僕、あなたが死……いや、えっと、僕が床で寝てたはずなのに!」

ルカ
 「だって。お客様を濡れたマントにくるませたまま、床にころがしておけるわけないでしょう? でも、君は納得なっとくしてくれそうになかったから、失礼ながらねむってしまった後でこっそり、ね」

フィン
 「そうだ! マント! 僕の顔……!」

ルカ
 「大丈夫ですよ。見えてませんから」

フィン
 「けど! ──いや、でも……確かに、あなたは見てないはず、だ」

ルカ
 「マントは──。はい、どうぞ。だいたいかわいたと思いますけど」

フィン
 「あ、ありがとうございます」

   <フィンはマントをさっと羽織り、フードを目深に被る>

ルカ
 「起きてしまったなら、朝食にしましょうか。ええと……フライパンはどこにいったか……」

フィン
 「あの、泊めてもらったお礼に、片付けを手伝いましょうか? フライパンの場所もわかんない部屋っていうのは、なんというか……不便ふべんでしょう?」

ルカ
 「本当ですか? とても助かります! いつもはね、村から来てくれるお手伝いさんにたよっていたんですけど、ちょっと前からぱったりと来てくれなくなってしまいまして」

フィン
 「お手伝いさんが?」

ルカ
 「ええ、突然、何も言わずにね。他の知り合いも最近は訪ねてきてくれなくて。一体どうなってるんだか」

フィン
 「それは……」

ルカ
 「そういえばフィンさんは、ここに来るより前に村を訪ねてましたよね。何か知りませんか」

フィン
 「あ、フライパン! ありましたよ!」

ルカ
 「……ああ、ありがとう! 探してもらったついでに朝食づくりもお願いしていいですか? 料理も得意ではなくて」

フィン
 「もちろんです。えーっと食材は……。あ、このへんにありますね。
  ──あ〜、結構ダメになっちゃってるものもあるな……」

ルカ
 「ダメになった食材などはてておいてもらえると助かります」

フィン
 「わかりました。じゃ、朝食ができるまで、ルカさんは僕のことが見えないように、座っててください」


   <間>


ルカ
 「わぁ。美味おいしそうなにおいがしてる。いただきます。……あっつ!」

フィン
 「手づかみじゃ、そりゃあ、あっついですよ! フォーク使ってください」

ルカ
 「フォークはどこかな?」

フィン
 「お皿のすぐそばに用意してありますって」

ルカ
 「……あ、本当だ」

フィン
 「──ずっと気になっていたんですけど」

ルカ
 「なんですか?」

フィン
 「見えてないんですか? ひょっとして、まったく」

ルカ
 「ええ。伝えたつもりでしたけど……。フィンさんの心配に対して『大丈夫』とも言ったでしょう?」

フィン
 「そっか、そうだったんだ!」

ルカ
 「だから、フィンさんがどうしても気に入ってらっしゃらないそのお顔、窮屈きゅうくつかくそう隠そうとしなくてもいいんですよ。どうせ、見えていないんですから」

フィン
 「夜、空き家のように部屋が暗かったことも、部屋がどうしても散らかってしまうことも……そっか……納得なっとくがいきました」

ルカ
 「部屋の散らかりについては、不便ふべんであることだけが原因じゃないですけどね。きっと見えていても、たいがい変わらないです」

フィン
 「だったら、僕、しばらくここにいてもいいですか? 身の回りのお手伝いをさせてください!」

ルカ
 「それはうれしいもうですけれど、フィンさんにとってここは、いずこへかのみちすがらでしょう?」

フィン
 「根無草ねなしぐさなだけなんです。いつまでたっても道すがらです」

ルカ
「そう……ですか。では、フィンさんの気がすむまでどうぞ、いてもらっても構いませんよ。ここにはどうせ私一人しかいませんし、私も、手助けをしてくれる方にいてもらえると、とても助かります」


   <間>


フィン
 「もう真っ暗ですけど、こんな時間におでかけですか?」

ルカ
 「ええ。おかの方に」

フィン
 「丘? 村や町ではなくて?」

ルカ
 「そちらも、近々ちかぢか買い物にでも行かなければいけないですけど。これは習慣しゅうかんみたいなものなんです」

フィン
 「ついていったほうがいいですか?」

ルカ
 「れた道ですから大丈夫ですが、良かったらどうぞ、一緒に行きましょう」


   <間>


フィン
 「丘とは言っても、それなりの坂道なんですね。暗くて怖いし……」

ルカ
 「もうすぐ見える景色けしきは、とても綺麗きれいなものだそうですよ。『星降ほしふ砂漠さばく』と、呼ばれています」

フィン
 「星降る砂漠……? 丘を登っているのに、砂漠?」

ルカ
 「坂がなだらかになってきたので、そろそろ顔をあげて、夜空を見てみて下さい」

フィン
 「夜空……わぁ! 本当に、星が降ってる!」

ルカ
 「どんな景色か、教えてもらえますか?」

フィン
 「手が届きそうなほどに空一面がきらきらとしていて、それから、こぼれ落ちるようにたくさんの星が流れてます。
 足元は──砂漠と呼ばれているのもうなづけます。みしめると真っ白な砂の地面に足が持って行かれそうです。ここまでは森だったというのに、突然砂漠が現れるなんて不思議だなぁ。
 そこかしこには星のかけらがきらめいていて、今も、時にころころと、かけらが空から落ちてきていますよ」

ルカ
 「ああ、かつて聞いた通りです。だけど全然違う。同じ場所に立って、今まさに見ているものを感動とともに伝えてもらうと、鮮明せんめい経験けいけんになりますね。数えきれないほど来ているのに、まるで別の場所にいるかのようです」

フィン
「こんなに綺麗きれいなところ、夜空や景色を見にきたのでないなら、足しげくかようのはなぜですか?」

ルカ
 「これです。砂の上に落ちている星のカケラを集めているんです。
 この砂地は、落ちてきた星がくずれたものが長い月日でつもってできています。その過程で星の一部が綺麗に輝くカケラとして残ったり、カケラの状態で空から降ってくるそうです」

フィン
 「確かに、宝石みたいで、ほんのりと光を放っていて、とっても素敵だけど……」

ルカ
 「見ることもできないのに、でしょ?
  願いのために集めてるんです、この星のカケラを」

フィン
 「ひょっとして、これは願い星のカケラ?

 『星のカケラを ジャムびんいっぱい集めたら ねがいごとをしてみよう。
  星まつりより 流れ星より 何より確かに カケラは願いをかなえよう。
  けれど願いはひとつだけ。 ただひとつ、あなたの命の限りに ひとつだけ』」

ルカ
 「それです。フィンさんにも、願いはありますか?」

フィン
 「──ありますよ。どうしても叶えたい願いが。でも、叶うことはないと思う」

ルカ
 「星の力でも?」

フィン
 「くわしく話すことはできないんだけど……僕は、むべき怪物なんです。子々孫々ししそんそんのろわれている。
  だから、自分のために願ったところで、呪いの力には勝てないから」

ルカ
 「なるほど。顔を見られるのをとても嫌がるのは、それが関係してるのかな?    あ、答えなくていいですよ。誰かに呪いについて話すことも、おそらくは禁忌きんきのひとつなんでしょう?」

フィン
 「僕、ルカさんが願いを叶えられるように、一緒にカケラを集めます。
  ルカさんの目になって、このあたりにたくさん落ちてますよ、って、教えます」

ルカ
 「それは、とても助かりますね。話し相手になってもらえるだけでも、嬉しいです」

フィン
 「今までは、小石と星のカケラをどうやって区別してたんですか?」

ルカ
 「手当てあたり次第しだいひろってみるしかありません。  ごくごくほんの少しだけ暖かい温度だったり、手触てざわりだったり。  本当のところ、ちゃんとカケラを拾えているかもわからないんですけど。なので、時間がかかってしまって」

フィン
 「そういえば、一番はじめは? 星降る砂漠に一人でたどり着いて、カケラを拾ってって、難しいですよね?」

ルカ
 「初めてここをおとずれた時は、もう一人、いたんです。その人に助けられて、一時いっときは今の家にも一緒にいました。
  その人は友人というわけでもなくて、私は星降る砂漠で役に立つかわりに、ここに連れてきてもらったんです。特にじょうがあるわけでもなく、自分のカケラを集め終えて去っていきましたよ。だいぶ昔の話ですけれど」

フィン
 「役に立つって……?」

ルカ
 「私は、砂の上に落ちた星のカケラを、一時的に明るく輝かせる方法を知っているんです。
  砂の上から、砂の中から、カケラのひとつぶを探し当てるのは途方とほうもないことです。実際、あきらめる人も多い。
  でも、落ちている場所がある程度はっきりすれば、探しやすいでしょう?
  自分自身にはまったく役立たないんですけどね」

フィン
 「その人はちょっとひどいな。ルカさんを利用するだけして、置いてけぼりなんて!」

ルカ
 「その分、ここまでの遠い道のりで大変お世話になりましたから。私一人では、到底とうていたどりつけなかった」

フィン
「ルカさんの願い、叶うといいですね! 何をお願いするつもりなんですか?」

ルカ
「私の願いは、この目が見えることです。
 見えたことがないのですから、視覚しかくけているのが私の世界。だから別に、見えないことが不幸だとかみじめだとか、そんなことを思っているわけではありません。
 けれど、音に聞く風景を、何気なにげない単語ののひとつひとつを、れた形の色彩しきさいを、まるで知らないというのも、もったいないと感じているんです」

フィン
 「目が、見えること……」


  <間>
  <後日、家の中>


フィン
 「ルカ、ただいま! 食べるものとか、身の回りのものとか、色々買ってきた!」

ルカ
 「ありがとう。本当に助かるよ。
  ところで、村の様子はどうでした? フィンに、なにか危険きけんはなかった?」

フィン
 「危険? 僕は一番近くの村じゃなくて、東のほうの町に行ってたけど……」

ルカ
 「そうでしたか。それで良かったかもしれません。怖くて悲しい話を聞いたので……。本当によかった。無事に帰ってきて」

フィン
 「怖い話? そんなのどこから?」

ルカ
 「ああ、フィンが留守にしている間に、久しぶりに人に会ってね。教えてくれたんだよ」

フィン
 「どんな、話?」

ルカ
 「あるばん突然とつぜんに、村で何人もの死者が出たそうなんです。それが、病気というわけでもなく、傷があるわけでもなく。宿の夫婦とみの奉公人ほうこうにん、それからその宿の食堂にいた何人か。
  食堂で出すものにどくでも仕込しこまれたか、なんて話にもなってるみたいだけど、うらみならばたくさんの人をむというのは考えにくいし、強盗の仕業しわざにしては金目かねめのものがまったくの手付かず」

フィン
 「──結局、だれの仕業しわざか、わかったの?」

ルカ
 「恐怖からか情報が錯綜さくそうしているらしくてね。
 最近、村の近辺きんぺん野盗やとう一味いちみがうろついていただとか、世にも美しいまるで神の使いか妖精ようせいかを見かけただとか、大きくて禍々まがまがしい怪物の影に追われただとか、村はずれで寝込ねこんでいるおじいさんのみょうな病気の話だとか……。そういった、いつもだったらホラじりのちょっとした世間話せけんばなしですむうわさが、全てその悲惨ひさんな出来事にむすびついてしまうそうで。
ともかく不気味ぶきみだということで、村の人たちはおびごしているのだそうです」

フィン
 「それは……こ、わい ね」

ルカ
 「以前まで家事をお願いしていた女性も……。そりゃあ見ないはずで、そのばん犠牲ぎせいになった一人だったそうだよ」

フィン
 「ごめん……なさい」 <聞こえるかどうか、消えそうな声で>

ルカ
 「え?」

フィン
 「えっと、いや、すごく、悲しい出来事、だね」

ルカ
 「人の手によるものなのか、あるいは病気のたぐいなのか。何にせよ、村に近づけば危険がおよぶかもしれませんから、外出の時には気をつけてね」

フィン
 「うん、僕は大丈夫。 ──気をつけるよ」


   <間>
   <さらに後日、家の中>

ルカ
 「ごちそうさまでした。フィンはかなり料理が上達したね」

フィン
 「ふふふ。調理の本も買ったから、作れる種類も増えたよ!」

ルカ
 「とても、たのもしいですね」

フィン
 「星のカケラも、だいぶ集まってきたね。今夜も砂漠にひろいに行くの?」

ルカ
 「そうですね。天気も良さそうですし」

フィン
 「もう一息ひといきでルカの願いはきっと叶って、そうしたら、今まで見たかったもの、なんでも見れるよ」

ルカ
 「フィンは、なにかお願いごとしようと思ってる?」

フィン
 「たったひとつの願いなんて、思いつかないよ」

ルカ
 「欲がないんですね」

フィン
 「今が、すごく幸せなんだ。これからもずっとルカと一緒にいれたら、それだけで……」

ルカ
 「私も、これからもフィンと一緒にいれたらと思ってるよ。
  フィンが見ている景色を、世界を、一緒に見れたらどんなに良いだろう」

フィン
 「……あ、それよりね、僕ずっと気になっていたことがあって!
  この、星のカケラを入れている容器ようきはジャムびんというより、ピクルスでもけられるほどの大きさだけど、それにしたって、ルカは何年も集めてるんでしょ? 僕、不思議で……」

ルカ
 「不思議?」

フィン
 「カケラを見ることができないから、集めるのに時間がかかるのはわかるんだけど、もうとっくに集まっててもいいような気もするんだ」

ルカ
 「ああ、それは。 集めては減り、集めては減りをかえしてるからね」

フィン
 「どうして減るの?」

ルカ
 「星のカケラを求めて星降る砂漠を訪れる人は、めずしくない。途方とほうもない作業を自分一人でこなす人もいるけれど、星のカケラの話と一緒に私のうわさを聞きつけてたずねて来る人もいるんだ」

フィン
 「星のカケラを光らせる力のこと?」

ルカ
 「そう。同行どうこうを求められたら、私は、しみなくその力を使うよ。それは自分のためにもなることだから。ただ、多少の助けにはなっても途方もない作業をすることは変わらない。
  そうすると、をしたくなる。
  私の目が見えないことをいいことに、こっそりと、私が集めたカケラをがものにしてしまうんだよ」

フィン
 「そんなことをする人がいるの? 泥棒どろぼうじゃないか」

ルカ
 「それがね、私を訪ねたほとんどの人はをするんだよ。
  今すぐにでも叶えたい、ただひとつの強い願いがあって、でも願いを叶えるにはこのままでは時間がかかりすぎる。
  目の前には自分の分とあわせれば十分じゅうぶんであろう量のカケラがある。そして、このぬすみは大変に容易たやすい。誘惑ゆうわくに、負けてしまうんだ」

フィン
 「盗まれるかもしれないことがわかっていて、どうしてそれでもルカは力を貸してあげようと思うの? そんするばっかりじゃない」

ルカ
 「──損はしないから。私の願いはそのうち叶うよ」

フィン
 「ルカ、優しすぎ」

ルカ
 「私が優しくあることが、人にとって優しい事柄ことがらだとはかぎらないよ」

フィン
 「うーん……よくわからないけど……」

ルカ
 「フィンには……カケラのちからを使って願いを叶えて欲しくないな」

フィン
 「どうして? 僕がどんな願いをすると思っているの?」

ルカ
 「どんな願いでも、だよ」

フィン
 「僕が、僕の願いを言ったら、ルカが困るから?」

ルカ
 「そうじゃない。カケラの力を使って願いを叶えても、幸せになれるわけじゃないからだよ。“星のカケラ”なんて綺麗きれいな言葉でごまかしているけど、これは」

フィン
 「ずっと一緒にカケラを集めてきたのに、どうして今さら?」

ルカ
 「私の口からは言えない。フィンが自身の呪いの話をすることが、禁忌きんきであることと同じでね」

フィン
 「……それを言われたら、何も言い返せないじゃないか」


フィン(モノローグ)
 「星のカケラがジャム瓶いっぱいになるまで、もう少し。
  実を言うと、僕もルカの目が見えないのをいいことに、をしている。本当ならもっと早く、カケラは集まっていた。
  わざと、カケラが見つかりにくい場所にルカを連れて行った。星のカケラをひろっているふりをして僕のジャム瓶の中には、落ちた星がカケラになりそこねてできた、小石をめていた。
  だって、ルカの目が見えるようになってしまったら、僕は出て行かないといけない。一緒にいればいるほど、いつかルカを殺してしまうから。少しでも、時間かせぎをしたかった。

  ルカと一緒にいたい。けれど、ルカは、僕の願いを聞いておきながら、叶えて欲しくない、なんて言う。 ルカの願いが叶ってしまったら、僕はまた一人になってしまう。
  だから僕は……」


  <間>
  <後日、星の砂漠で> 


フィン
 「──はい。これ、ルカのジャム瓶」
  星のカケラ、集まったね」

ルカ
 「うん、ありがとう」

フィン
 「けど、よく考えたらジャム瓶にいっぱいって、ものすごく大雑把おおざっぱな数え方だよね」

ルカ
 「実際じっさいのところ、カケラの数は大雑把でいいんです。その瓶が大きくても小さくても、いっぱいになればそれでいい。大きい瓶にすれば、より大きな、もしくは確実に、願いが叶うかもしれないと、そんなよくの大きさでしかないんです」

フィン
 「じゃあ、ルカのはずいぶん大きな欲だね」

ルカ
 「そうなってしまうね」

フィン
 「願いごとが叶わないこともあるの?」

ルカ
 「叶わないということはほとんどないみたいですよ。その後、望んだ通りの人生になるかどうかは、別として」

フィン
 「へぇ……」

ルカ
 「では」

フィン
 「……うん」

ルカ
 「願い星のカケラよ。我が願いを叶えたまえ。
  どうか……フィンにかけられた呪いが解けて、美しい姿へとなりますように」

フィン
 「え……?」

ルカ
 「──さあ、どうだろう?」

フィン
 「どうって……。自分じゃ、よくわかんない……」

ルカ
 「それもそうだ。じゃあ、帰ろうか。うちにもかがみがあったはずだから」

フィン
 「どうして? どうして? 自分のために願いを使わなかったの?」

ルカ
 「私の願いはいいんです。どのみち、あなたの呪いと同じ。自らカケラに願ったところで、私の呪われた目が見えるようにはならないんですよ。だから、フィンのために願いを使いたかった。
  美しい姿になれば、なにも私などにすがりつかずとも、フィンは自由に生きていけるでしょう?
  ここにいることを選んでくれるのならば、それも自由です」

フィン
 「僕……は……」

ルカ
 「あんまり、喜んでくれないんだね?」

フィン
 「申し訳ない、気がしちゃって」


   <間>
   <家の中>


ルカ
 「さ、家に着いた。ねえ、鏡を見てみてよ」

フィン
 「うん、すごく、素敵だよ。気に入った」

ルカ
 「顔に触れてみてもいい?」

フィン
 「──うん、いいよ」

   <ルカ、形を確かめるように、フィンの顔を撫でる>

ルカ
 「私には美しいか醜いかなんてわからないけれど、少なくとも人間の顔はしているみたいですね」

フィン
 「大丈夫。ちゃんと、ルカが願ってくれた通りだよ」

ルカ
 「それなら、よかった」

フィン
 「なんだか、びっくりしすぎて疲れちゃった。夜遅いし、ルカももう、早く休んだほうがいいよ」

ルカ
 「わかった。じゃあ、おやすみなさい」


   <間>
   <その日の夜中>


フィン(モノローグ)
 「違うんだ、ルカ。ごめんなさい、ごめんなさい。
  ルカの大事な願いを、思いを、ただ無駄むだにさせてしまった。
  きっと、ばちがあたったんだ。ずるをしたから。
  ルカが見えていないのをいいことに、小石の詰まった瓶を渡してしまったから。ルカの願いが叶わなければ、ずっと一緒にいれると思ったから」

フィン(モノローグ)
 「僕は……忌むべき怪物だけれど、もともと見た目がみにくいわけじゃない。むしろその逆。
  僕の外見の美しさに魅了みりょうされた人間を、自分の意思とは関係なく呪い殺してしまうような、そんな怪物なんだ。
  だから、僕は何にも変わってない。
  でもルカは、呪いが解けて醜い怪物から美しい人間に変わったのだと、願いは叶ったのだと、信じてる」

フィン(モロノーグ)
 「僕のために、ただ一度だけの願いを使ってくれた人に、本当のことなんて言えないよ。
  心まで忌まわしき怪物のようだと、ルカに知られたくない」

フィン(モノローグ)
 「返さなきゃ。ルカの願いを。
  僕はルカの呪いを解くんだ。ジャム瓶いっぱいの星のカケラは、僕が持ってるんだから」


フィン
 「願い星のカケラよ。我が願いを叶えたまえ。
  どうか……ルカにかけられた呪いが解けて、目が見えるようになりますように」


   <間>
   <翌朝>


ルカ
 「痛い。目が刺すように、痛い……?」

ルカ(モノローグ)
 「目が、見えている……? 私の手。身体。ベッド。壁。これが、私の家の中?
  でも、なぜ……?」

ルカ(モノローグ)
 「まさか……」

ルカ(モノローグ)
 「フィン。ごめんなさい。ごめんなさい。
  これは、この目は、君が星のカケラに願ってくれたんでしょう?
  私が勘違かんちがいさせるような言い方をしたから……。フィンの大事な願いをただ、無駄にさせてしまった。
  ああ、願いごとなどしないでくれと、言ったのに。
  願い星は、望みを叶えてくれる、素敵すてき綺麗きれいな石というだけのものではないのに!」

ルカ
 「フィン? フィンは? もう、起きてる?」

   <間>

ルカ
 「どこにも、いない。
  ひょっとして、テーブルの上のこれは、置き手紙、なのかな……。
  そうだとすると、ひょっとしてフィンはもう、出て行ってしまったのか……」 

ルカ(モノローグ)
 「私は……確かに目が見えるようになりたかった。けれど、私の盲目もうもくは呪いによるものなんだ。星のカケラに、たくさんの人たちの願いをささげた先で、私の呪いはいずれ、問題なく解けたはずだった。
  だから、カケラなどに願ってやる必要は、なかったんだよ」

ルカ(モノローグ)
 「でも、そんなこと、フィンは知らなくていい。素直にありがとうを伝えよう」

ルカ(モノローグ)
 「のぼる朝日やしずむ夕日を、星降る夜空を、青々とした草原や、雪をかぶったみねを、フィンと一緒に見たかったな。
  だから、何も言わずに行ってしまったのはさびしいけれど、きっと、だまって出て行った理由や別れの言葉が、この紙には書いてあるんだろう。
  ふふふ。私が文字を読めないことは、忘れていたみたいだけど」

ルカ
 「せめてどうか。フィンの新しい人生が、幸せでありますように」


おしまい

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