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79.三題噺「いやらしい、回想、時代劇」

 僕は後輩ちゃんと時代劇を見に来ていた。

「おもしろかったですね〜」

 終わってから時間が経っているけど、後輩ちゃんはずっとご満悦だ。

 余韻に浸って感想を僕に伝えてくれる。

 でも、わざとじゃないんだろうけど、隙あれば腕を組んで胸を押し当ててくるのだけはやめてほしい。やわっこい脂肪の感触とか、いい匂いが鼻腔をくすぐって変な気分になりそうだ。

 後輩ちゃんは近づかれるのが苦手なのに、今日はやけに積極的に自分から近づいてくるものだから、女の子ってよく分からない。

「時代劇、好きだったんだね」

 僕は何も意識しないように話題を振り絞って口にした。

「……?」

 後輩ちゃんは小首を傾げてキョトンとした。

「え、違うの?」

「はい。全然興味ありませんでした。でも……お爺ちゃんが好きだから、見てみたかったんです」

 微笑ましい理由に、僕は暖かい気持ちになった。

「えらいえらい」

 僕が頭を撫でると、後輩ちゃんは「うにゃー!」とよく分からない奇声を発して手を振り払った。

「子供扱いしないでくださいっ!」

 そのセリフ、初めて会った時も言ってたな。
 僕は後輩ちゃんと出会った時のことを回想した。

 ……あれは僕が高校一年生。
 後輩ちゃんが中学3年生の時のこと……。

「先輩、何考えてるんですか?」

「後輩ちゃんと初めて会ったとき、パンツ見ちゃったなと思ってた」

「それ、本人の前で言います!? というか見られてたんですか!?」

 後輩ちゃんは慌てて自分のスカートの裾を抑えて恨みがましい目で僕を見た。

「いや、嘘だよ」

「嘘なんかーい……」

 後輩ちゃんはわざとツッコミ口調をしたものの、慣れないことをしたからか恥ずかしがっていた。

「……いやらしい。せんぱいのえっち」

 僕はじとりと睨まれてしまった。

「セクハラだったね。ごめん」

「……先輩は、私のこと女性として見てないですよね?」

「いや、見てるけど?」

「ですよね……。見てな……。へ?」

「だから、見てるって……」

 二度言うのは流石に恥ずかしくて、僕は頬をかいた。

 「うぇっへっへぇっ」と後輩ちゃん。

 いつも淑女然としていて上品な後輩ちゃんが、涎を垂らしてご満悦な顔をしているのは見なかったことにした。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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