52. 三題噺「チョウチョ、乱心、先頭集団」

 俺は生徒会長として全校生徒の規範となれるよう毎朝早めに登校している。

 身だしなみもバッチリだ。

 常に先頭集団でいれるよう意識を高く持っている理由は他にあるんだけれど……。

 意中の人のことを考えていると、その人の姿が見えて心が弾んだ。

「先生、おはようございます」

「……ああ、君か。おはよう」

 生徒会顧問もしている先生は、ピシッとしてかっこよくありつつも可憐だ。

 でも……。なんか違和感があるな。
 いつもなら目を外すことなんてないし、正面から見つめてくるのがこの人なのに。

 素気ないし、距離が遠い気がする。

「なんか今日の先生変っすよ」

「別に、普段通りだが?」

 俺が近づくと、先生は一歩遠ざかった。

 先生は腕組みをとかない。
 そのせいで胸の主張が激しいけど、今だけはなんかイライラする。

「どうして俺を避けるんすか?」

「……避けてなどいないさ」

 ……絶対嘘だ。

「先生っ!」

 俺は先生の両肩を掴んで目を合わせた。

「なっ……。や、やめてくれよ……」

 珍しく潮らしい態度で胸の前で指を組んでモジモジしている先生はとっても可愛い。

 ドクンと俺の鼓動が高鳴った。

 周囲に人の気配はしない。

 ……もしかして、告白するなら今なんじゃないのか?

 俺の思考は加速され、結論を出すのは一瞬で十分だった。

「先生」

 俺は真剣な表情でもう一度先生を呼んだ。

 先生はツリ目をまん丸にして黒目を彷徨わせ、唐突に「あ!」と大きな声で叫んだ。

 わざとらしく空中を指差している。

「……チ、チョウチョさんだ〜」

「……は? なんすか、その棒読み」

「わぁ〜。羽がひらひらしてキレー」

 どうやら先生はご乱心のようだ。

「まさか、様子がおかしいのは無理矢理縁談の話が進んでて、どう断ろうか悩んでるみたいなありがちな話なんすか?」

「!!! まさにその通りよっ!」

 あせあせと顔が赤らんでいるし怪しい。

 うまく乗っかって俺の発言を誤魔化そうとしたのか?

 ……いや、まさかな。

 深読みはよくない。
 いくら先生といえど、俺の気持ちに気がつくほどじゃないだろう。

 先生は唇で指を甘噛みして、照れた表情で右下を見ていた。

 今更だが、肩掴んで痛くなかっただろうか。

 というか、強引すぎて嫌われてないよな?

 授業中もそのことばかりが気がかりで、俺はいつも以上に先生のことを考えてしまった。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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