見出し画像

77.三題噺「無人駅、線香花火、便利」

 テストも終わって明日から夏休みだ。

 終業式だけの午前終わりの今日、僕は一度家に帰って夕飯を食べた後、電車に乗って無人駅まで足を運んでいた。

 先輩が夏を先取りしたいと言って、呼び出されたからだ。

 少し歩くと海がある。

 先週海開きしたばかりで、そもそも夜なのもあって人は全くいなかった。

「やっほー後輩くん」

 先輩の声が背後から聞こえた。

 高校生が夜遊びなんて……と、文句の一つでも言おうと背後を見て、僕は息を呑んで結局何も言えなかった。

 夜に見る先輩のラフな私服姿が新鮮で、ドキッとしてしまったからだ。

 僕と先輩は広い砂浜で二人きり。

 静か過ぎて心音が伝わらないか心配だった。

「花火、しよっか」

「わかりました。準備しますね」

 僕は用意していた折りたたみチェアとか虫除けスプレーとかバケツなどの便利道具を設置してから、手持ち花火を受け取って火をつけた。

 2人で静かに火を眺める。

 会話はほとんどないけど気まずいなんてことはなくて、先輩と花火の音を聞きながら過ごす静かな時間も心地よかった。

 最後の線香花火を手にして、2人で見つめ合って「寂しいね」と、笑いあう。

「……ねぇ」

 先輩が髪を耳にかけて僕を見た。
 花火に照らされた頬がほんのりと熱を持っているように見えた。

「──」

 さざなみが先輩の声をかき消した。

 唇の動きから母音はわかったけど……『無理』ってどういうことだろう。

 何かデリカシーないことしちゃったかな。

「すいません」

「え……?」

 先輩は今にも泣きそうなくらいショックを受けていた。

「先輩、無理って言ったんじゃないんですか?」

「ち、違うよ! もうっ……。お断りされたのかと思ってびっくりしたぁ……」

 先輩は心から安心したと息を吐いた。

 僕もびっくりしていた。

 まさか『好き』って言ったんじゃないよね……?

「後輩くん。花火終わったし海入ろうよ」

「夜の海は冷たいですよ」

「つれないこと言わないでよ〜。足だけだよ? 先っちょだけだからさ」

「それ……」

 先輩の綺麗な瞳には不純な意味なんて一切なかった。

 僕は汚染されている脳を恥じた。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
⤵︎
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?