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43.三題噺「ドヤ顔、交換、尊敬語」

 授業が終わり、鞄を肩にかけたときだった。

 ガタッと隣の席の女の子、同クラさんが立ち上がって僕を見てきた。

「どうしたの?」

「え、えっと……その」

「……?」

 僕、何かしちゃったかな。

「スマホ、持っていらっしゃいますか?」

「なんで尊敬語? 持ってるよ」

 ほら、と僕は鞄から取り出した。

「れ、連絡先、交換しない?」

 同クラさんは頬を紅潮させて、うるうると目を潤ませている。

「え」

 も、もしかして。これって特別な意味だったりするのかな? 

 同クラさんも緊張してるみたいだし。

「あ、えっと……。そう! クラスの連絡とか困るからっ! 勉強の相談も、できるかもだし……」

「あ……。そういうことね」

 深読みしてたのが恥ずかしい。
 同クラさんは親しい友人と思ってくれてるだけだったんだ。

 僕は平然を振る舞って連絡先を交換した。

 教室を出て生徒会室に向かっていると、先輩が駆け寄ってきた。

「廊下は走っちゃダメですよ。先輩」

 先輩は呼吸を整えてから、大きく息を吐き出した。

「後輩くん、スマホ出して」

「なんでですか?」

「連絡先交換したいからっ!」

 …………待て待て、誤解するな、僕。

 同クラさんも特別な意味はなかったんだ。
 先輩だってきっとそうだ。

「わかりました」

 連絡先を交換しても、先輩は不満そうに下を見ている。

「後輩くん」

「なんですか?」

「……特別な意味かもしれないよ?」

「……!」

 一瞬遅れて僕は先輩の言葉の意味に気がつき、血流が激しくなった。

「えへへ。なんてね! もしかして年上のお姉さんの魅力に後輩くん照れちゃった?」

 むふん、と先輩はドヤ顔をしようとして、けど失敗していた。

 焦ってるのも体温が上がってるのも丸わかりだ。

 照れ隠しなのか先輩は「じゃあね、また明日!」と言い残してスカートを翻して走って帰った。

 僕はそんな先輩の背中すら見れない。

「揶揄わないでくださいよ……」

 間に合わない反論を口にすることしかできない。

 スマホを見て先輩の連絡先があることを再度確認する。

 まだ胸の高鳴り、ドキドキが治らなかった。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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ランダム単語ガチャ
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