78.三題噺「ワンコイン、ビーフジャーキー、キングコング」
夜、教師である私はワンコインのカップ酒をレンジで温め、熱燗にしてほろ酔いになる。
既に4カップ目に手を伸ばしていた。
「世間は土用の丑の日だというのに、私が食らうのはビーフジャーキー、か……」
物悲しくなった私は、スマホを手にした。
ふと、履歴の一番上にある人に連絡してみることにした。
衝動的な行動だ。
夜も更けているし、おそらく寝ているだろう。
呼び出し音が数回。息を吸う音が聞こえた。
「もしもし……?」
生徒会長でみんなからマカロンくんと呼ばれている男の子の声が私の耳に届く。
「期末試験お疲れ様。どうだった?」
「全教科満点でした」
「流石だね」
「勉強しか取り柄がないっすから」
「そう卑屈になるな。君は素敵な人間だと思うよ。夏休みは何か予定はあるのか?」
「受験生らしく勉強する予定です」
「息抜きくらいしろよ? 体を壊しては元も子もない。君の学力なら志望校も余裕だろうし、偶にはサボってもいいと思うがな」
「それ、教師の言うセリフじゃないっすよ」
「ははっ。まあ、私は教師の中でも異端だという自覚はあるさ……」
「やけに素直っすね。酔ってます?」
「っ!?」
些細な変化に気づかれたことに驚き、恥ずかしくもありつつ、それだけ見てくれていることが嬉しくもある。
酔いとは違う熱が私の体を心地よく包む。
「映画に誘ってくれたが、いつにする?」
それじゃあ、と話が進み、予定が決まった。
夏休みでも会えるということが、私の気持ちを弾ませる。
「教師と生徒が2人きりでいるところを見られるのはよくないと思うんで、ちょっと遠出する予定なんですけど問題ないっすか?」
「ああ、大丈夫だ」
「何か見たい映画はあります?」
「キ、キングコング……」
「……まあ好みは人それぞれですし、ちょっと意外ですけど面白いっすよね」
「爽快感にハマってしまってね。あの名作を超える作品に、私は未だ出会えていないよ」
「でも、今は上映してないっすから、また今度、その……レンタルして一緒に見ます?」
「いいね」
「え!?」
「え……?」
「じょ、冗談だったんすけど……?」
「そっか、冗談……。それは残念だ……」
「……嘘です。一緒に鑑賞会しましょう!」
声からも伝わる必死さに、私はくくくと喉を鳴らして笑った。
「楽しみにしてるよ」
通話を終えて、自分の気持ちを確認した。
「ほんとに好き、なんだなぁ……」
作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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