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55.三題噺「各駅停車、間一髪、ひとりぼっち」

 僕は登校するために電車に乗った。

 今日はいつもの時間じゃないから快速じゃなくて各駅停車だ。

 病み上がりだから、まだ体がふわふわしてる感覚がある。

「あれ、後輩ちゃんがいる」

 向こうも僕に気がついたみたいだ。

「せーんぱいっ! 一緒に登校しましょ」

「もしかして、後輩ちゃんひとりぼっち?」

「失礼ですね、友達いますよ! 今日はたまたま一人なだけですぅ!」

 後輩ちゃんは唇を尖らせた。

「あはは、冗談だよ」

「……先輩、風邪ひいてたんですよね?」

「なんか怒ってる?」

「そりゃあ怒りますよ。私だってお見舞い行きたかったのに、後からあの女の先輩から聞かされたんですよ? 自慢げに話された私がどれだけ悔しかったかわかります??」

 後輩ちゃんが呼ぶ女の先輩は、同クラさんじゃなくて先輩のことだ。

 先輩が後輩ちゃんに自慢げに話してるシーンとか、すごく想像に容易い。

 僕が後輩ちゃんの隣に立とうとすると後輩ちゃんは一歩退いた。

「あ、近づかないでください」

 後輩ちゃんは相変わらずパーソナルスペースが広い。

 言われるがまま離れようとすると、電車が急停止して、後輩ちゃんがよろけて僕の胸にすっぽり収まった。

 無事受け止められてよかった。

「危なかったね」

 真下に後輩ちゃんの顔がある。
 肌綺麗だし、まつ毛長いなあ。

 のんびりそんなことを考えていたけれど、いつまで経っても後輩ちゃんは離れない。

「えっと、後輩ちゃん? なんでうっとりして僕の胸を撫でてるの……?」

 なんか、はぁはぁと息を荒げてうっとりしてるし。

「……っ!? いえっ! 別に、なんでもないですよっ!?」

「声、裏返ってるよ」

 後輩ちゃんは僕の指摘が聞こえてないのか、「さ、触っちゃった。触っちゃったよ……」と僕の胸を撫でていた手をワナワナと震わせながら艶かしい吐息を漏らしている。

「……大丈夫?」

 若干引きながら、一応心配はしておく。

「はい! 間一髪で理性を失わないで済みました……」

 ……いや、それ大丈夫じゃないんだよな。

 後輩ちゃんは隠しきれてると思ってるのか平然としてるけど、普通に聞こえてるし、誤魔化せてない。

 ……まあ、後輩ちゃんもお年頃の女の子だし、男の子への興味があるんだろう。

 僕は寛容な先輩として、深く追求しないでおいた。



作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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