82.三題噺「心待ちにする、ソフトドリンク、義務感」
生徒会長の俺は、ドキドキしながら待ち人を待っていた。
「お待たせ」
大人の女性が俺の前で立ち止まり、声をかけてくる。
それは先生だった。
「全然待ってないっす」
私服姿に心臓が跳ね、普段とは違う化粧に大人の魅力が詰まっていてクラッとした。
後ろ髪を纏めていて、普段は見えないうなじが見えている。
「私服姿も素敵だな」
「せ、先生も綺麗です……」
ドギマギしながらも会話をして、さっそく目的の映画館に来て話題の映画のチケットを購入した。
「先生、お酒飲むと思ってました」
俺と先生の手にはソフトドリンクがある。
「ちょっと、な……。夏休みに会えたことが嬉し過ぎて、今飲んだら一杯で泥酔しそうなほど鼓動が落ち着かないんだ」
「……?」
よく聞こえなかったが、気分的な問題なんだろう。
席について一息。
緊張しているせいかよく喉が乾く。
ドリンクホルダーに置いたソフトドリンクを取ろうとした時だった。
「あっ……。すみません」
「い、いや。私こそ申し訳ない」
俺と先生の手が触れ合い、名残惜しくも離そうとした時だった。
「えっ……?」
先生は俺の手を掴んだ。
沈黙したまま、顔を逸らしているから、表情から意図は読み取れない。
握っている指と指の隙間に先生の指がするすると優しく割って入り、ぎゅっとホールドされた。
恋人繋ぎというやつだ。
薄暗い館内で、手を触れ合ったまま。
お互いの熱と熱が溶け合い、どちらのか分からない汗が混じり合った。
先生が静かに息を吸った。
「一つだけ聞いていいか?」
「何ですか?」
「私を誘ったのは、普段よくしてもらってるという義務感からか?」
「そんなわけないじゃないっすか」
俺の手には自然と力がこもり、先生は俺の剣幕に体をビクッと跳ねさせた。
「俺は先生と映画を見たかったんです。俺は、その……。先生のことが……」
好き。と言いかけて勇気が出なかった。
「……つづきは?」
先生は潤んだ瞳で俺の続きの言葉を心待ちにする。
俺はその続きを…………。
映画デートが終わり、俺は自室のベッドにうつ伏せになっていた。
当然、ひとりだ。
「俺は……ヘタレだ」
告白はできなかった。
作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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