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50.三題噺「ロングシュート、散策、繰り返す」

 今日は土曜日で午前中で授業が終わった。

 電気のついてない薄暗い昼の体育館で、先輩は落ちていたバレーボールを拾った。

「刮目せよ! 私の華麗なるロングシュートっ!!」

 ハーフコートから放り投げられた先輩のバレーボールはゴールネットを揺らす……なんてことは当然無く、床に数回バウンドして転がった。

「勝手に体育館使って大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫! 体育館使う部活休みだから……。あ、やば」

 安心したのも束の間だった。

「え……?」

 先輩の視線の先には生活指導の先生がいた。

「きゃー逃げろ〜!」

 先輩は一目散に走っていった。
 僕も並走して一緒に用具入れの影に隠れた。

「はぁはぁ、見回りしてたんだねぇ。後輩くんもっとそっち詰めて」

「ちょ、先輩近いですって!」

 柔らかな感触と共に制汗剤か何かの柑橘系の爽やかな香りがした。

 ちょっぴりだけ汗の匂いもする。

 僕は暑さとは違うドキドキを必死に表に出さないようにした。

 顔を出して様子を伺った先輩は、ほっと息を吐いた。

「もう出ても大丈夫そう」

「やり過ごせてよかったです……」

 僕は先輩から離れることができて別の意味で安堵した。

「じゃあ、レッツ学校散策だ〜!」

 先輩は、おーっ、手を上に突き出した。

「ほぼ毎日来てるんですから今更不思議なものなってあるわけ……」

 僕はそう思って足元を見た。

「……は?」

 そして思考が停止した。

「あれ? どうして学校に高野豆腐が落ちてるんだろ?」

「僕にもわからないです」

 脳裏にひとりの怠惰な女教師浮かんだ。

 ツマミ代わりに持ってきたとか?
 ……いや、まさかね。

 2人して頭を悩ませて原因を突き止めようとしていると、またしても生活指導の先生の怒鳴り声が聞こえた。

 二度目ともなると判断は迅速だ。

「逃げましょう!」

「うんっ!」

 僕と先輩は生活指導の先生との鬼ごっこを繰り返すことになった。

 先輩は「楽しいねっ!」と笑った。

 たまにはこういう賑やかな出来事も悪くない。

 先輩の弾ける笑顔が見れたから。

 その後、生徒会書記をやっている僕と勝手に同好会を立ち上げて破天荒な行動をしている有名人な先輩は、当然のごとく顔を覚えられていて、2人揃って仲良く叱られた。




作者です。
三題噺を書きました。
題目の選定は以下のサイトを使用させていただきました。
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