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コミュニケーションのプロセス―自己啓発・組織運営に効く文化人類学入門#7

第4章 コミュニケーションは受け手本位!?

 意味・形態論を手がかりに、コミュニケーションの問題を考えます。

定義

 最初に、コミュニケーションの定義を見ておきましょう。2つ取り上げます。

 「人と人とのコミュニケーションとは、ある人が、ことばのメッセージ、ことばにならないメッセージを通して、他の人の中に意味を喚起させるプロセスである」(筆者訳)。[James C. McCroskey et. al. One On One: The Foundations of Interpersonal Communication (Englewood Cliffs, NJ; Prentice-Hall, 1986), 2]

 「ことばのコミュニケーションとは、動的なプロセスである。そのプロセスにおいては、伝え手がメッセージをコード化する行為、受け手がメッセージを解読する行為は、態度、技術、知識、興味などに影響される。このプロセスでは、伝え手が自分の思想と感覚を言葉で表現することができるように、コードを用いることが要求される。このプロセスは、すぐ身のまわりの環境と、広い意味での社会的コンテクストという環境の中で起きるものである」(筆者訳)。[Ronald F. Reid, “The Process of Speech Communication,” in Introduction to the Field of Speech, Ronald F. Reid, editor(Chicago: Scott, Foresman and Co., 1965), 12.]

 どちらも必要なことが良くまとめられています。

 2番目の定義を意味・形態論を使って図にすると、次のようになります。

 コミュニケーションのプロセスは、意味と形態をわけて考えるとよくわかります。

 メッセージは意味であり、コード化して形態になります。

 意味はそのままでは渡せません。渡すのは形態です。

 相手は受け取った形態を解読して意味を理解しようとします。

 伝えるべきメッセージは意味なので、目に見えません。表現されなければそれがあることすらわかりません。

 それをコード化したとき初めてそれは形態になり、自分にも周囲にも認識できるものになります。伝えるべき意味は形態にしなければ伝えることはできないのです。

Q あなたの経験の中で、コミュニケーションに失敗したことがありますか。具体例を挙げ、なぜうまく行かなかったかを考えてみましょう。

 この問いは、グループで話し合うとよいと思います。

 形態を伝達したとします。

 形態を相手に渡せば伝わったと思ってしまいますが、実際はそうではありません。

 意味がまったく伝わっていないこともあります。

 コミュニケーションとは、形態を渡すことではなく、受け手に意味を理解してもらうことです。

コミュニケーションロス

 ここで厄介なことがあります。

 コミュニケーションのプロセスでは、メッセージのロスは必ず起きます。

  メッセージがコード化される。
  コード化されたコードが受け手に手渡される。
  受け手が受け取ったコードを解読する。

 この段階を経るごとに、

 メッセージの内容は小さくなるか、場合によっては曲げられます。

 伝え手が伝えたいと思ったことの全部は伝わらないと思っているべきです。

受け手本位

 コミュニケーションの目的は、伝え手がメッセージを提示することではなく、受け手が理解することです。

 そのためには、伝え手はメッセージを効果的に伝えるために

 「受け手本位」(receptor-oriented)

でなければなりません。

 伝え手がどれだけ「伝えた」と言ったところで、そのようなひとりよがりなコミュニケーションはコミュニケーションではありません。

 ヒント コミュニケーションしたければ、受け手本位になれ。

 少し具体的に考えてみましょう。

 伝え手はわたしたち、受け手はカスタマーです。

 売りたい商品があったとします。メッセージは何でしょうか。何を伝えたいと思っているでしょうか。

 ここで意味が問題になります。意味は目に見えません。売りたい商品の価値が何なのかを抽出するプロセスが必要になります。

 この商品はこのような価値があるということが見えたとします。

 次に、その価値をコード化しなければなりません。

 パンフレットを作ろうと考えた場合、パンフレットがコードになります。

 カスタマーはパンフレットを受け取ります。そして、それを見て、その商品の価値を解読します。

 これで、コミュニケーションが成立したことになります。

 問題は、どれくらい伝わったかです。プロセスの段階ごとにロスが起きます。

 カスタマーはそのパンフレットを見て、伝え手が伝えたいと思っていたことのどれくらいを受け取っているでしょうか。

 カスタマーの側に立って考えます。何も知らないまま、そのパンフレットを見て、どれくらいのものが伝わってくるだろうかを考えます。

 ヒント コミュニケーションのコードは、受け手が伝え手を覗くための窓口。何が見えているのか。

 続く ―次回は、コミュニケーションが効率よく行われるための原則を書きます。

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