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ショートストーリー:青空の2人

「隆夫さん、助けてくれてありがとうね。」
「いや、助けた程でも無いよ。
同期をリハ出来て面白い体験させて貰ったわ。」

あの時、膝を壊さなければもう会う事何て無い運命だと想う。
12年振りに会った彼は専門家として仲間にも慕われ素敵な大人となって居た。

私達が付き合って居たのは学生時代のほんの1年でしか無く、別れた原因は私のパニックだった。
あのパニックも話し合えば別れる原因にはならなかった内容だった。

あの時の自分に時々言い聞かせたくなる。
もっと冷静に成りなさい、自信を持ちなさいって。

あの日、彼がまさか私の手首の傷に気付いて居なかったとは思わなかったし、それを逆手にクラスの女子からその後自分が責められ(そんな手首でリハビリ出来るのかって言われた)すっかり私は自信喪失して、その責められた彼女と付き合ってよ、と、彼に泣きながら言ったのだった。

隆夫さんがあの時
「それで良いのかよ。お前、それで気が済むんだな?」
って哀しそうに電話先で言った声が今も時々聴こえる気がする。

それ以降、私はKCを着るにも下に長袖を着たり、秋冬にはカーディガンを必ず着用する様に成った。学生時代、半袖の思い出は無い。

人生の中で唯一結婚や子どもを意識した人だった。

彼からその後、子どもが出来たから結婚するって聞いて、おめでとうを伝えたのを最期に私達は縁が途切れた。

理由は簡単に私みたいな親から虐待された人間が傍に居たら、友達として居たらいけないと想ったから。

今も彼はリハビリをお願いした病院で働いている。子どもが元気なら3歳児さんになる。彼ならよきパパ、よき夫と成っているだろう。

医療用語では無いけれど、早期閉経を婦人科で医師から伝えられた今日、あの懐かしい時間、愛おしかった時を思い出した。

私も私で新しい人生が今日からスタートする。
どうか彼が、隆夫さんがこれからもずっと幸せであります様にと祈りを青空に込めた。

-[完]-

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