恨んだ父に今、想う
季節労働を終えて、父の家に帰った。
幼少期から母に「ハゲ」と呼ばれていた父は、僕にとって一番身近な「なってはいけない大人」として刷り込まれていた。
そんな父の家に帰ったのは、ガレージに車が置けるから。
これまでも行くには行っていたけれど、父のいない日中に荷物を取りに行く程度で、泊まるのなんて、家を出た高校の時以来だ。
父は僕がまだ幼稚園にも入っていない頃、勢いで一軒家を買った。家族が出て行ってからも、月10万以上の返済をしながらひとり、暮らしている。
「家なんか買うもんじゃない。賃貸でええねん。私言うたのに。」母に繰り返し聞かされていたから、物心つく頃には、うちは父のわがままのせいで貧乏なんだと思うようになっていた。
SMSで、今日帰るからと伝えてあったのに、21時過ぎに家に着くと父はもう寝ていた。
その日は休みときいていたから、どうせ昔みたいに朝から酒を飲んで、早々に寝てしまったのだろう。
久しぶりに息子が帰ってくるのに、やっぱり薄情な親だな。
少し期待した自分がバカだった。
そう思って、買ってきた冷食のチャーハンを温めようとキッチンに向かう。
裏紙に、透けた裏の文字よりもうっすい字で書かれた置き手紙があった。
「明日早いから寝る。冷蔵庫のもの食べていいよ。」
冷蔵庫を開けると、プラスチック容器に入った半額のチャーシューと、お菓子のファミリーパック、軒並みプライベートブランドの酒が並んでいた。
なんか手っ取り早く酔いたくなって、紙パックの白ワインを少し注いで、チャーハンと一緒に腹に放り込んだ。
給湯システムが変わったのか、昔使っていたボタンを押してもお湯が出ない。
というかそもそも電源が入らない。
Wi-Fiも変えたのか、登録してあった昔のやつが使えない。
久しぶりに帰ってくるんだから、そんくらいの気遣いできないのかと憤りながら、風呂にも入らず、寝袋にくるまって早々に目を閉じた。
翌朝、父の部屋の扉が開く音で目が覚めた。
時計を見ると、まだ四時半にもなっていなかった。
そろりそろりと、僕の寝ているリビングの横にある脱衣所に入ると、作業着に着替えて出てきた。
「おはよう」
「あ、起きてたんや」
「うん」
「ごめん起こして」
「いや、元々起きてた。あ、そうや、お湯ってどうやって出すん。」
「あー、お湯、出えへんねん、この家。言わなあかんなって思っててんけど。」
Wi-Fiある?なんて聞けなかった。
「いってらっしゃい。気をつけて。」
初めて父に言った。
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