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【啓蒙】人と自然が共存する環境づくりの第一歩“棲み分け”を考えるきっかけとなる啓蒙活動・害蟲展

シェルグループは、新しいミッション「人と自然が共存できる、都市衛生の未来を創造する」を掲げ、今後は「持続可能な都市環境」を目指して事業を進めてまいります。特に意識しているのが、害虫・害獣を含めたすべての生き物のいのちの存在を考えること。そのために必要なのが、社会全体に“棲み分け”という考え方を知ってもらい、定着させること。そこで今回は、“棲み分け”をテーマに、その啓蒙活動として企画・運営している「害蟲展」を中心にお話します。

害蟲展season1図録 薄表紙をめくると「害」が取れる装丁. 巻末にはモチーフとなった生き物の生態系での枠割りを掲載.

人間も地球上に存在する自然の一部
忘れがちな大事なことを再認識するために

私たちシェルグループが理想とする持続的な環境とは、人を含めた多様な生き物がそれぞれの場所で生きていくことです。たとえば、人が生活しているまさに同じ空間にゴキブリがいたら、不快だと感じるかもしれませんが、そもそもゴキブリの多くは森に棲み、生物の死骸や排泄物を分解し、有機物を無機物に戻す「分解者」としての役割を担っている生き物。森にいる限りは、人から嫌われることはなかったはずなんです。

森林で暮らすモリチャバネゴキブリ 美しい透明な翅を持つ. 2022年6月筆者撮影

もしかしたらゴキブリ自身は「自然が少なくなった都市で、ボクらにとって棲みやすい空間がたまたま人の家だったわけで……」という切実な理由で棲みつき、世代交代を経て都市に合わせた進化をしまったのかもしれません。
虫の立場になって考えてみたとき、人間の生活空間を彼らにとって棲みにくい空間に変えることができれば、彼らが棲みついて繁殖する確率を限りなく低くすることができます。人にとっても不快な思いをすることがないばかりか、殺虫剤を多用するよりも持続可能な方法ではないでしょうか。

これが、シェルグループが大切にしている“棲み分け”の考え方です。山や川、森などの自然環境であれば存在を認識できても、都市では、人間以外の生き物が地球上で一緒に生きていることを忘れてしまいがちです。そして、人間にとって「見たくない」「不潔」「排除したい」存在だという理由で「害虫」と呼び、殺虫剤を多用し駆除し続けています。
私たちは都市衛生の未来を創造するにあたり、たとえ長い時間がかかったとしても、害虫・害獣と呼ばれる存在の生き物を、本来の居場所である森に還っていく未来を創りたい。そのためには、人も自然も、すべての生き物が地球上にある限られた環境の中で、どうしたら“棲み分け”られるのかを真剣に考えなければいけないと考えています。

害虫の存在意義を考え直す機会を創出する「害蟲展

害虫と呼ばれワルモノとして認識されているゴキブリがいる一方で、同じ森に棲む虫でもカブトムシはとても人気があります。「この格差ってなんだろう」「害虫とは、人間のエゴから生まれた概念なのではないか」などと自問自答を繰り返していくなかで生まれたのが、8thCAL(エシカル)が主催している「害蟲展」です。
みんなが忌み嫌っている害虫たち。彼らにも存在意義はあるわけで、それに気付いてもらうための何かしらのアクションを起こしたい。そう考えていくうちに、もともとデザインやアートに魅力を感じ学んでいたこともあり、その力を信じている私は、「害虫をテーマにしたアート作品を公募することで、多くの方々にいのちと向き合い、また展示会をすることにより、多くの一般の方々と一緒に考えたい」という想いに至りました。
そこで企画したのが、人にとって「不都合」「不快」「不利益」な一面だけに目が行ってしまいがちな、いわゆる「害虫や害獣」の美しい点・有益な側面・生命の循環や存在次元に焦点を当てて制作されたアート作品の公募と展覧会です。

昆虫学者の丸山宗利先生との出会いも、実現に向けて大きな後押しとなりました。2018年に上野の国立科学博物館で開催されていた特別展「昆虫」で、九州大学の丸山先生のゴキブリに対する温かい眼差しの文章と向き合った時、「この先生にお会いしなければ」と思ったのです。そしてご縁を繋げて頂き九州大学を尋ね、害蟲展の構想をお話するに至りました。「このような啓蒙活動はライフワークとしても取り組んでいるので、ぜひ協力させてください」とのお返事をいただき、「害蟲展」開催が実現に向けて動き出したのです。

2018年7月「昆虫」展 → 2019年4月九州大学訪問 → 2019年10月対談 → 2020年1月害蟲展発足

1回目の「害蟲展 season1」は、公募・審査を経て、2020年7月に審査員の服部さんが運営するギャラリーで開催。その過程では、新型コロナウイルス感染症が流行し、審査の一部分や企画していたイベントなどは、急遽オンラインに切り替えざるを得なくなりました。

害蟲展season1 ハイブリッド審査の様子

初めての試みとなったオンラインのトークイベントには、審査員の先生方にもご登壇頂き、昆虫好きの小さなお友達も含め、また、海外や様々な地域から多くの方々にご参加頂くことができ、どの回も盛況の内に終了することができました。

害蟲展season1 最優秀賞 『 密臭 』  矢野 希実・・・「この春、家の庭にマルカメムシが大量発生しました。最初見つけたときはギョっとしましたが、よく見ると一匹一匹は光を反射して様々な輝きを持っていることに気づきました。そんなブローチのような可愛さにひかれて今回、”害虫”で一括りにされてしまい嫌われるカメムシの生命力が密集した姿を描きました。しかし、臭い…。」

展示会の反響も上々で、来場者からは「人気のある昆虫だけでなく、害虫と呼ばれる昆虫からも美しさを感じ取ることができた」「害虫の命にも目を背けないようにしたい」などのご意見がありました。また、入賞者からも「害虫を切り口にした公募はこれまでなかったけれど、今回を機会に、同じようなコンセプトでアート活動をしている作家同士の出会いの場にもなった」との声が聞かれました。

翌年の2021年には、「害蟲展 season2」を開催。より多くの人たちに興味をもってもらいたいと考えて、「生態系」「いのち」「共生」などと関わりの深い会場にアプローチさせていただきました。東京の足立区生物園と、大阪の箕面公園昆虫館というという「害蟲展」のテーマと親和性の高い施設で開催したことから、「生物園や昆虫館でアート作品というのが面白かった」「単なる虫モチーフの作品でなく、虫への愛が伝わる作品が素敵だった」などの反響が多数ありました。

害蟲展season2 最優秀賞 『 shed 』  萩原 和奈可・・・・「無骨かつ生物的な曲線のあるオオゲジのデザイン、そのかっこよさときたらたまりません。しかし動きの速さや群生する生態もあり、虫好き以外にはあまり鑑賞されることのない生き物です。「嫌われ者をヒーローにする」という作品テーマを掲げる身として、ぜひその魅力を伝える必要があると筆を取りました。ゲジゲジが一匹、むずむずと長い脚を震わせまさに脱皮しようとするその一瞬を、シルエットを強調する形で抽出しました。」


展示内容をアップデートして開催する
「害蟲展 season3」に向けて

アートを通して地球上に住まう人間と生物の在りかたを考え、新しい関係を創造するムーブメントを創出することを狙った「害蟲展」。season3はただ今エントリー受付中(エントリー締切は2022年6月20日)で、2022年9~10月には、東京会場:MATERIO base横浜会場:よこはま動物園ズーラシア・大阪会場:箕面公園昆虫館の3都市での展示会巡回を予定しています。

展示会場や会場構成・内容もバージョンアップし、参加していただいているアーティストにも「害蟲展」に出品する意義や、幅広く多くの方々に作品を見てもらうことができる「害蟲展」ならではの醍醐味を感じてもらいたい。さらに、作品のモチーフになった害虫の生態系の中での役割をパネルで紹介するなど、これまでよりも啓蒙の色を濃く出し、参加者・来場者の皆さまと一緒に考える場づくりをしていきたいと考えています。

害蟲展season3 ポスター

これからも私たちは、本質的に善い未来を描き、持続可能な環境を創出するために、「生態系」「いのち」「共生」といったテーマで啓蒙活動を続けて参りたいと思います。

害蟲展season2にて、ステートメントと筆者

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