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カナダ人も知らない小さな島での1ヶ月

人生のターニングポイントがどこだったのかを振り返った時、カナダの離島で過ごした1ヶ月が忘れられない。2018年春に滞在したSaturna Island(サトゥーナアイランド)。ハチドリが庭に飛んでくるめちゃくちゃロハスな島。まさに人生の夏休みと呼べる素晴らしい体験だった。

しかし思い出とは美化されるものだ。当時のSNS投稿を見返してみると、「坂道、地獄」「ホームパーティー恐怖」「ダチョウこわい」「ブラックベリーF*CK」と書いてある。なかなか手ごわい1ヶ月だったことも間違いない。これ以上風化しないうちに、あの島の記憶を書いておきたい。

カナダ人に「え?どこそれ?」と言われる小さな島

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サトゥーナはバンクーバーとビクトリアの間、南ガルフ諸島に位置する31k㎡、人口350人の小さな島。ちっちゃいのに標高が391mもあり、島中がアップ&ダウン。お金持ちの老人が沢山暮らしている、別荘地みたいな島である。

そんな島に私が行こうと思ったのは、半年も北極圏に近いイエローナイフという街に住んでいたからだ。ただでさえ寒いカナダの冬を、永久凍土で公道がぐねるような土地で過ごした。カナダ人も行かない辺境の地である。全力で春を感じたくなったのは本能だと思う。

ウーフを使って辿りついたのがこの島だった。日本贔屓なミドル60sのご夫妻が持つ広大な土地。敷地内にはプライベートビーチがあり、趣味はシュリンプとクラブ漁というお父さんのクルーザーが留まっている。牛4頭、シュナウザー2頭、ダチョウ5羽、オウム2羽が暮らしていた。

オーガニックファームでの仕事

ウーフとは全世界のオーガニックファームで食事と寝床を提供してもらう代わりに、労働することでお返しする仕組みだ。

ウーファーは私のほかに、日本人のキョウくん。基本的に別々の仕事を振られるので、木の根っこを引っこ抜くとか、ブラックベリーの伐採などのきつい仕事は彼に行き、私はトマトの手入れとか、ハーブの植え替えとか比較的楽な仕事をもらっていた。ありがとう!

滞在した時期が春先でそんなに畑の仕事もなかったので、1番多く時間を費やしたのはペンキ塗りだった。小屋をまるごと塗ってみたり、外壁一面塗ってみたり、すっかり塗装業の人になっていた。

しかしキョウくんが居なくなってウーファーが私だけになってからは、ついにブラックベリー伐採もすることになった。ご存知だろうか、ベリーにはトゲがある。刺さる。めちゃくちゃ痛い。ブラックベリーはものすごい繁殖力で、放っておけば島全体を覆いかねない勢いで陣地を拡大している。こいつらが畑に侵入して来ないように伐採するのが任務だ。この憎き敵は、ジャムにするとおいしい。

1日約6時間ほど働き、あとは自由時間。広い敷地を散歩して過ごす。家の裏は入り江になっていてすぐ海だし、キャンプ場にもなっている山を登ると絶景が広がっている。

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午後の仕事が終わると、この丘の上で夕日を眺めたり散歩をして、夕飯ができるのを待っていた。

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めちゃくちゃエモい夕方を過ごし、そろそろ夕飯出来たかなとキッチンへ行くと、お父さんがカクテルを作ってくれたり、ビールをくれる。おいしいディナーを食べる。夜は屋外にあるジャグジーに浸かりながら、星を眺めたりした。ついこの間まで平均気温が−25度の地にいたのに、外でお風呂に入っているのが不思議だった。

君はお金で仕事を選ぶの?

お父さんと何気ない会話をしていた時だった。「日本へ帰ったらどんな仕事をするんだい?」と聞かれた。「うーんウェブ関係かなあ。お金もいいし。」と私はなんの気なしに答えた。カナダにいる間もお小遣い稼ぎ程度に翻訳したり、ちょっとしたウェブ作業をやってたので、その延長のつもりだった。

するとお父さんは、真顔で「君はお金で仕事を選ぶの?それは本当に君のやりたいことなの?」と言った。そう言われて、すごく驚いた。私はもともと仕事に情熱を燃やして生きたいタイプの人間だったのに、無意識のうちにお金で仕事を選ぼうとしていたのだ。

そして、お父さんはこう続けた。「僕がハタチぐらいの時は、やりたい仕事と住みたい場所、それしか考えなかった。まわりにはお金を持っていても不幸そうな大人が沢山いたからね。お金はやりたい仕事を一生懸命にやっていれば、後から付いて来ると思ったんだ。」

人生はクオリティーオブライフ

お父さんはバンクーバーで生まれ育ったそうだ。高校生の頃に親の離婚でこの島へ渡ったお父さんは、ここの暮らしを気に入って、それからずっとこの島で過ごしている。広い土地を持っていて、野菜を育てたり食肉用の牛を4頭飼育しているが、これはあくまでも趣味。(趣味の規模はんぱない)仕事は電気技師で、島中の配線工事をやっている。お母さんは、高校生の時に妹さんがこの島で静養していて、遊びに来たらハマってしまって居着いてしまった人だ。今は島の郵便局で働いている。

ここのご夫婦は、大規模な畑をやったり、家はセルフビルド。そこらのホテルよりも快適なキャンピングカーを自分で改良し、旅行に行くことを楽しんでいる。お店がほとんどない小さな島だから、週末になると仲良しの家族が持ち回りで大掛かりなホームパーティーを開催する。カクテルも本格的なものを作って振る舞う。ホームパーティーは、アメリカで病院を経営しているご夫婦(所有している家は少なくとも2軒)や弁護士ご夫婦(家はメキシコにもあるそうで少なくとも3軒)ですごく優雅だった。

「人生はクオリティーオブライフだよ。」そう言うお父さんはとても幸せそうに見えた。

私のやりたいことってなんだっけ?

お父さんと話してから、「私って何がやりたいんだっけ?」と考えるようになった。あっという間に月日は流れ、「ブタ1頭丸焼きにして食べるパーティーは最高だから絶対に居た方がいいわよ」というご夫妻の強い誘いを断ってロッキー山脈最奥の国立公園、ジャスパーへと拠点を移した。ジャスパーで私は、「わたしが創りたい理想の学校」をevernoteで書き出していた。するとfacebookで流れてきた”学校立ち上げ”のポストに感銘を受けて、私のルーツであるトットちゃん、ハイテックハイ、色々なことが一気に繋がって教育の世界へググッと引き戻されることになる。

ちなみに私の生まれの易は震為雷で、これは”震えるような感動をして、雷のように激しく生きよ”という意味だが、教育は私に、震えるような感動を絶えず与えてくれる。そして教育業界に戻ってから、自分のやりたい事はこれだという確信があるので人生に一切迷わなくなった。

まさに人生の夏休みであり、人生の転機となったサトゥーナでの1ヶ月に心から感謝している。

ありがとうガチョウ!(超ヤクザでこわかった)
ありがとう牛!(牛4頭vs人間1人の時のアウェイ感ときたらない)
ありがとうシュナウザー!(全然懐かなかったな)
ありがとうオウム!(噛まれて流血。飼い主も噛んで滞在中に里子に出された)
何よりも、カナダのパパとママに最大の感謝を。


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