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大人の読書感想文〜「博士の愛した数式」小川洋子著〜

文の呼吸が心地よい

人生は、私ではない誰かが語るからおもしろい。
博士は、「私」によって語られる。
隅々まで丁寧に拭き掃除をするように、着実な呼吸で語られる。
全体を取り巻く、呼吸が気持ちいい。
息を吸って吐く。ただそれだけなのに、終始テンポが心地よい。

家政婦は見ている

「私」は家政婦という職業。
プライベートな空間に入り込み、プライベートに踏み入らない。
でも、よく見ている。
踏み入らないとは建前で、少しずつ踏み越えている。
見てはいけないものを見つけてしまう。
それがどういう意味があるのか詮索してしまう。
家政婦は見てしまう職業なのだ。

博士の異常な記憶力

異常と言っても、凄まじい記憶力という意味ではない。
80分前までのことしか覚えていられない。
博士は80分に一度死を迎える。
同時に博士と一緒にいれば、80分に一度死を迎える。
無くなってしまうことがわかっているから、大事にしようとする。

人生はそもそも儚い。
必ず死ぬことを知っていながら、知らないフリをしながらしか
生きられない。
博士と接する2人(3人)は、常に「死」に直面しながら生きている。
だから大切にした「今」と「過去」がある。

「過去」は美化されるものではなく、
美しいものなのかもしれない。

数が美しいと感じるとき

数は、ものを数える時の記号でもある。
5つのリンゴを「5つ」を使わずに「5つ」を伝えることは難しい。

物語の中にも「0」の話が登場する。
数字は、1、2、3、4、5、6、7、8と無限に続いていく。
人生より長く長く続く。
前の数字より1つ大きいだけの並び。
整然としているようで、それぞれに個性がある。
決して、前の数字に1を足したものではない。

円周率のように3.14・・・・・と一見不可解に見えるものもある。
私には理解できない規律と正確性がそこにはある。

世界は数で表現できるとも言えるし、
世界は数でできているとも言える。
数(数学)がとても美しいものであるように思えて、
また世界が美しいものなのだと気付かされる。

eπi+1=0

博士の愛した数式とはなんだったのか。
解説することは私にはできない。
でも、この数式をずっとみていると何かに見えてこないだろうか。

「eπi」という意味不明な存在。
「1」という誰もが知っている、もっとも簡単でありふれた存在。
足すと0になる。

「eπi」は、難解で社会で生きづらい存在の博士。
「1」は、家政婦の「私」のような存在。
人生は、誰かによって語られて物語になることで人生を終える。
「0」になる。

全ての人の人生や生涯とはこの数式が表しているのではないか
とさえ思えてくる。

博士の愛したものはなんだったのか?

スピンオフがたくさん生まれる作品

映画は見ていないので、わかりませんが
・ルートのその後
・未亡人との過去
・私の人生

特に博士の記憶が残っている過去。
2度目にはまた違う感想が生まれそうな作品でした。




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