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EVERYDAY大原美術館2023 vol.14「ポロックと夏目漱石」

最近、物忘れがすごい。
特に名前が出てこない。
人の名前、物の名前、さっきまで思い出せたのに出てこない。

そんな時は、その周辺の言葉を言ってみる。
例えば、「クジラ」が思い出せないとしよう。

ほら、ほら、北極とか南極とか、とにかく寒い海を泳いでいて、
海を泳ぐと言っても、魚類ではなく哺乳類で、
とにかく大きい、もうそれは大きくて、
昔はお肉が給食にも出てたよね、結構好きだったんだけど、
頭なのか、背中なのか、潮をプシュー!!って飛ばして、
「かんゆ」って油で作ったおやつもあったなぁ〜。

とかなんとか言うてる間に、思い出すか
相手に思い出してもらうことで一件落着する。

ジャクソン・ポロック作「ブルー(白鯨)」

ナカムラさんのブルー(白鯨)

よくよくみると、上半分と下半分で少し様相が違う。
下半分は、波を描いたような線が見える。
また月光に照らされたのか、黄色く輝く部分がある。

上半分に目を移す。
牛のように見える絵もあれば、CTスキャンでもしたかのような絵もある。
何を描きたいのかさっぱりわからん。

ポロックは、「白鯨」を白鯨なしで
描こうとしたのではないかと思い始める。

対象物は存在しない

英語教師をしていた夏目漱石は「I LOVE YOU」を「月が綺麗ですね」とでも訳しておきなさい!と言ったかどうかは知らないが、
私も、あなたも、存在しない。
ただ、「月」があり、「美しさ」があった。

ポロックは、「私が」「あなたを」などと野暮なことは言わず、
表現したいと思っていたのではないだろうか。

「月が綺麗ですね」なんて女性に言っても、
「うん、綺麗ね」しか返ってこないかもしれない。

つまり、それは二人の関係性が物語を作る。

ポロックの物語

ポロックとの関係性がない私は、何の表現で「白鯨」を描いたのかは
理解ができなかった。

しかも「クジラ」ではなく、「白鯨」。
私は「白鯨」にヒントがあるのではないかと思い、ググってみた。

「白鯨」はハーマン・メルヴェルの著作(1851年)であることがわかった。
ポロックはこの小説にハマっていたそうだ。
この本は読んだことがないが、ウィキペディアにはこう書いてある。
「クジラに関する知識や、捕鯨技術の記述などストーリー外の脱線が多く」

これだ!と思った。
脱線こそがストーリーなのだ。関係性なのだ。
この本を読んだ人から見たこの絵(作品)は、
冒険心をくすぐる、ワクワクドキドキのストーリーが展開されているのかもしれない。あの時のあの登場人物のあのセリフ!!

ポロックは、のちに「アクションペインティング」と呼ばれる
筆についた絵の具を飛ばして作る作品を確立していく。
造形を直接、キャンバスに描くという方法を取らないのは、ここから始まったのかもしれないと思いながら、
文学的なアプローチに愛着を感じる一枚でした。

関係性

ポロックの絵の前に座り、じっと眺めていると、
最初の印象と変わってくる。
ごちゃごちゃと色々描かれた何が言いたいのかわからない絵は、
青い夜の空、青い夜の海。
それを象徴づけるかのように月の光を浴びて光る何かの存在。

何がそこにあるのか、青があるのである。

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