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リリカル・スペリオリティ! #10「『毎日投票制度』、始まる」

※前回までのお話はこちら

第10話 「毎日投票制度」、始まる

「どうも!文化祭運営委員会でーす!」
 教室に戻ると、見たことのない顔の生徒が2人、黒板の前で話していた。喋っているのは男子生徒で、女子生徒は何かを持っている。

 リリカは、教室の後ろからそろーり、そろーりと自分の席に戻った。
「どこ行ってたの?大丈夫?」
 隣の席から、園子が心配そうな顔をしている。
「うん、ちょっとトイレ…」 
 少しお腹が痛い。早く帰って生理痛の薬を飲みたい。
 一体、あの二人は何なんだ。
「あの人たち、何しに来たの?」
 怒りが声に混じらないように気をつけながら、園子に尋ねた。
「ミスコンとミスターコンを宣伝しに来たんだって。ホームルームの途中だったけど、先生には話を通してあるみたい」
 ということは、ホームルームがそれだけ長くなるってことじゃないか。
 頼むから早く終わってくれ!
 リリカの願いは届くわけもなく、委員会の男子生徒はしゃべり続けた。
「えー、皆さんのミスコン、ミスターコンへの熱を日に日に感じていましてですね、我々としても何か新しいことをやってみようと思いました!そこで、ジャジャーン!」
 委員会の女子生徒が、小さな紙のようなものを頭上に掲げた。
「『毎日応援制度』です!こちらには、皆さんのお名前と、今日から10日間、学校がある日の日付が印刷されています。これを毎日、その日付の日に、下駄箱付近に設置している『投票箱』に入れてください!今回のミスコン、ミスターコンは、この投票数が多い順に候補者を選出します!もちろん投票は任意ですので、強制ではありません」
 前から、20枚ずつ束になった紙が回ってきた。「佐藤リリカ」の印字が入った束を手に取り、残りを後ろに回す。1人あたり、ミスコンで10枚、ミスターコンで10枚あるということか。

「今から注意事項を言います!1つ目、自分で自分を投票するのはダメです。印字してあるので、バレちゃいますからね。2つ目、投票する日と同じ日付が書かれた紙を投票箱に入れてください。投票は、毎日17時までにお願いします!17時を過ぎたら委員会の方で投票箱を回収して、開票作業に入ります。ちなみに、違う日付の投票用紙が入っていた場合、その票は無効になりますから、気をつけてください!」
 前の方に座っている生徒が手を挙げた。
「すいません、これって、毎日同じ人に投票してもいいんですか?」
 委員会の男子生徒は、パッと口角を上げて答えた。
「いい質問ですね!同じ人に投票するのは、OKです!自分が応援したい人の名前を書いてもらえればいいので!」
 今度は、現代文の授業でヘアアイロンを取り上げられた佐々木が手を挙げた。
「これって、開票日とか、あるんですか?結果って、いつわかるんですか?」
 佐々木は少し真面目な声をしていた。
「お、いい質問ですね!実は、明日から毎日、前日の投票数を学校の生徒用ホームページで公開することにしました!これで、自分の応援したい人がどれくらい票を獲得しているのか毎日わかる、ということです」

 ガンガン喋り続ける委員会の男子生徒に、担任の中村先生が「そろそろいいかな?」と止めに入った。
 男子生徒がびっくりして黒板横の時計を見上げる。
「もうこんな時間!?・・・本日はホームルーム中にお時間いただき、ありがとうございました!今日から投票できるので、ぜひご参加ください!毎日17時までですから、お忘れなく!」
 男子生徒は教室を出る直前まで宣伝し、女子生徒に連れて行かれるように去って行った。
 しばらくすると、隣のクラスから同じ声が聞こえ始めた。各クラスに宣伝して回っているのだろう。

 なんだか、よく喋る奴だったなぁ…。
 リリカは生理痛と疲れで何も考える気にはならなかったが、他の生徒たちはザワザワしていた。
 先生が「連絡事項言いまーす、静かに!」と叫んでも、効果はない。教室全体が完全に浮き足立っていた。
「え〜、誰にしようかなぁ。リリカ、帰る時に投票しようよ!」
 隣の園子まで浮かれている。先生の話など、全く聞いていない。
「う、うん…。そうだね…」

 「実験用」に蒔いた、「欲望の種」。
 ミスコン、ミスターコンへの憧れを利用して、「誰かに選ばれたい」「人望があると証明したい」という生徒達の欲を、この高校内だけに肥大化させてみた。
 しかし、まさかこんな展開になるとは。「実験」の効果はあと数日程度で終わる予定だが、少し面倒くさいことになってきた。

 投票用紙には、適当に名前を書いて出そう…。
 リリカはぼんやりする頭でホームルームが終わるのを待った。


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