たまごの王様
「ぼくは、こういうでっかいたまごはたべられないんだよ!」
醤油ラーメンに入った半分のゆでたまごを箸で突つきながら、息子が怒る。
半分に切ったらいいじゃない。
ぱく、と齧ればいいじゃない。
夫と娘からいっせいに野次が飛ぶ。
息子は素直に箸で突き刺し、ぱく、と食べた。
口のほとんどが卵でいっぱいになり、もぐもぐと食べながら左右に揺れている。
「あ〜おいしいなぁ」
その幸せそうな顔の、ゆるやかな曲線に見惚れてしまう。
1歳の頃、彼はアレルギーで卵が食べられなかった。なんなら牛乳も。玉ねぎすらアレルギーの数値が出ていた。ザ・アレルギー児。私は人並みに落ち込み、自分を責めた。
それがいま、大きな口でおいしそうに卵を頬張っているのだ。さっきまで文句を言っていたくせに、上機嫌な王様みたい。
悩みは、長く続かない。
今のことだけ考えていたら、先のことは先の自分がなんとかするよ。
そう思いながら息子の頬を拭う私は、きっと大人の顔をしている。
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