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「K字型」回復がもたらす ”歪み” 。 ー 政策は「MMT式B.I.」に向かうのか。

 2020年後半から盛んに言われ出した「K字型」回復。従来の「V字型」「L字型」(日本が典型的)と違って、「コロナ危機」後、景気回復が二極化することを表現したもの。なるほど上手い表現だ。

 いくつか面白い資料があったので紹介しておこう。

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  ↑ モーゲージレート=住宅ローン金利とS&P株価の逆相関を示したグラフ。アメリカでモーゲージ@3%を切るのを筆者は初めて見たが、改めて「過剰流動性」が株価急騰に大きく貢献していることがわかる。問題は*モーゲージの対象が「富裕層」に集中していることだ。

 そこまで極端ではないが、日本でも同様の現象が起きている。かつては全く問題なかった大手航空会社の社員向け住宅ローンが却下されるケースが増えているという。銀行としてはやむを得ない判断だが、ちょっと想像を超えている。旅行、飲食関連なども同様なのだろう。

 結果として米国の金融市場で起きた「株の買占め」収入上位20%の層がほとんどの株(含.ミューチュアルファンド)を保有している。

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 まさに「K型」。逆に残り80%の層はモーゲージや金融市場から恩恵を受けられず、生活は苦しいまま。家計の純資産が過去最高を更新する一方、多くの企業が恒久的な営業停止を余儀なくされ、1,000万人余りが失業、その3倍近い人々が日々の食事に困る状況にある。

 当然「雇用」には大きな差が出る ↓ 年収$27K(2.7百万円)以下の層は未だパンデミック前の▼21%減のまま。

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 「食うや食わず」が3,000万人もいるなんて...。日本人には想像し難いが、これがアメリカ。どおりで**暴動が頻発するはずだ。BLM運動(Black Lives Matter)や先日の議事堂乱入も根っこにこの貧困問題がある。

 **1992年4月の「ロス」暴動の時、たまたま友人がロサンゼルスに駐在していた。興味本位で見に出たが命の危険を感じてすぐに家に引き返した。あちこちで暴漢が銃や火炎瓶を使って暴れ回り、火災が発生するなどほぼ内戦状態。発端はBLMと同様「黒人差別問題」だが、「人種差別」の点でアジア系も標的になったりしたという。

 アメリカとって実は古くて新しい「K問題」。新政権はこの課題に取り組むようだが、果たしてどこまで出来るか。例えば日本のような「国民皆保険」制度を目指して財源をGAFAや「富裕層」に対する増税で賄おうとすれば、企業業績悪化や消費減退を引き起こし株式市場の調整は避けられまい。国債発行を大幅に増やせば今度は長期金利の上昇。今「トリプルブルー」で金融市場が最も神経質になっている点だ。

 日本も明らかにこの「K型」を追随している。若干違うのは「K」の上向き矢印の先に少ない「大富豪」と「株を買占めている国家」があること。なんとか「平均的平等」は維持されているが、ドンドン ”浸食” が進んでいる。

 そこへ都合良く登場してきたのがMMT(現代貨幣理論)とB.I.(ベーシックインカム)。正義のヒーロー宜しく「救世主」の装いだが、インフレで借金を "解消" したい政府にとっては格好の道具になり得る。実は日米「給付金」の姿を借りて ”大規模な実験” が始まっている。

 米国政府は新たに93兆円規模の経済対策を決め、大人1人当たり最大1,200ドル(12万円)の給付が含まれている。日本でも「緊急事態宣言」の再発出で「もう一度給付金を」の声も高まりつつある。2021年中にある衆議院議員選挙を睨み、支持率が落ちている与党が切ってくる手札にはなる。

 「給付金」でも B.I. でも「お金」をただで貰って嬉しくない人はいない「貧困」解消の決め手のようにも感じてしまうが、当然「カラクリ」がある。政治的に不人気な増税はなくとも、***アメリカには過去の「債務危機」を「通貨安」をテコにしたインフレで解消してきた実績がある。

連邦政府債務残高

 ***「ドル安」の裏側は「円高」なので、日本のインフレ圧力は若干相殺されるが、米国を筆頭に世界的インフレになれば日本も例外にはなるまい。日本で一番 "歪んでいる" のは日銀が535兆円も買っている「国債」なので最も大きなショックは長期金利に起こる蓋然性が高い

 本来インフレで苦しむのは「お金持ち」のはずだが、さにあらず。彼らは株や不動産で ”インフレヘッジ" しており、価格上昇でますます資産が膨らむ。今もそうだ。そして金利が上昇したところで金利資産に乗り換える。歴史はこの繰り返し。株トレーダーが金利を注視するのはそのためである。

 そういう筋書きでいくと、80%を占める小市民群は貰った給付金B.I.をどうするかが大事になってくる。おそらく有効な使い道は:

 ①長く使う耐久消費財( e.g. ドラム式洗濯機?)

 ②住宅(含.改装等)、不動産

 ③インフレに強い株( e.g. 資源株?)

 反対に「投資」的にお勧めできないのが:

 A. 旅行、会食等の遊行費(余裕資金で使う場合を除く)

 B. 長期債券、現預金

 まとまった「お金」が入るとぱっと遊びたいのは理解できる。だがそれだと何も残らない手堅く(?)貯金するのもこの局面ではあまりお勧めできない。長期国債などはもってのほか。ここは「今10万円の物が1年後に15万円になったら」という想定で、消費や「投資」を考え直してみるのもいい。

 日本もアメリカも増殖する「見放された層」をどうするのか、結構大きな政治課題だ。今まではちょっと景気が良くなるとみんな忘れてしまったが、これだけはっきり「K字型」になってしまうとそれも難しい。残念ながら MMT も B.I. も「救世主」どころか、かえって事態を悪化させるだろう。

 「自由の国」アメリカで暴漢が議事堂に乱入して5人死ぬ、なんてことは今まで考えられなかった。もう限界が近いのかもしれないフランス革命ではないが、国内で「下克上」的な動きが起きるのか、はたまた民衆の目をそらすために「戦争」でもおっ始めるのか。何か ”嫌な感じ” である。

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