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続・眠れる?「灰色のサイ」。ー 8月の貿易収支から見えてくること。

 眠れる?「灰色のサイ」。 ー 予想外の中国「利下げ」が示唆すること。|損切丸|note の続編として。

 なかなか内情の見えにくい中国だが、今や世界経済やマーケットへの影響は無視できないほど大きい。出てくる数字は丹念に拾っていこう

 8月中国貿易収支  がなかなか興味深い。

 8月中国貿易収支: 輸出(年率)+7.1% 予想+12.8% 前月+18.0%
 輸入 +0.3% 予想 +1.1% 前月 +2.3%:
 (原油)4,035万トン ≓ 日量900万バレル 前月 879万バレル 前年比 ▼9.4%(1,049万バレル)
 (天然ガス)885万トン 前年比 ▼15.2%
 (石炭)2,946万トン 前月 2,352万トン 前年比 +11.5%
 (銅)49.8万トン 前年比 +26%

 貿易収支 +793.9億ドル 予想 +927億ドル 前月 +1,012.6億ドル(過去最高):(対米)+367.7億ドル 前月 +415億ドル

 輸出だけ見ると順調に回復しているように見えるが、それでも予想はもっと上だったようだ。やはりアメリカの対中関税中国のロックダウン政策が冷や酒のように効いている。対米の貿易黒字も思ったほど伸びてこない。

 一方、輸入の数字が今の中国を量る上で示唆に富んでいる

 輸入が伸びないのは国内の消費が伸びていない証ロックダウンに加え、やはり不良債権問題が大きくのし掛かっている

 その影響はエネルギーなどの原材料輸入にも見て取れる。

 安く調達できるはずの原油・天然ガスだが、前年比ではむしろ輸入量が減少。ここ数ヶ月エネルギー価格などの「商品市場」は下げトレンドに入り「戦争前」の価格を下回る「商品」も出てきたが、その理由付けが「景気減速懸念による需要減退」。てっきりアメリカの事と思われがちだが、本当の "震源地" は中国なのではないか7,000兆円もの大借金を抱えた「中国丸」が沈むとなれば、その悪影響は計り知れない。

 対照的に輸入が急増しているのが石炭・銅どちらも中国国内で製造しているが、一部地域が熱波を理由に企業の電力使用を制限したため生産量が予想を下回り輸入を増やさざるを得なくなったについては上海とロンドンの価格差を活用した裁定取引も輸入増につながったようだ。

 これを「人民元安・中国株安」傾向とどう考え合わせるか。

 「円安」が速すぎる! ー 見えてきた? 「昭和システム」の終わり。|損切丸|note に見舞われている日本人に言われたくないかもしれないが(苦笑)、そもそも国家による管理相場である「人民元」が年初来で▼10%も下落するのはなかなかの出来事。これまでなら間違いなく止めに来た。つまり、今は「人民元安」を容認していることになる。

 「株」や「預金」で借金返済の原資を国内に持つアメリカや日本と違い、中国の「資金繰り」は "外国資本" 頼み本来なら「人民元安」は好ましくないし、事実2022年央までは金利を高めに維持するなど、そう言う姿勢を維持してきた

 それが8月の「利下げ」を機に政策転換原因は不良債権問題を起点とする銀行の急激な「信用縮小」、マーケット用語で言えば "Credit Crunch” (クレジット・クランチ)である。簡単に言えば「資金繰り」に詰まってきている国内では銀行の "取り付け騒ぎ" が頻発し、もはや "外国資本" などと悠長なことは言っていらない。*「人民元」を大量に擦り始めた結果、「金利低下」「人民元安」が起きている。「資金繰り」が詰まっている以上、「余剰」と判っていても人民元を回収できない

 *「不良債権」「バブル崩壊」とくれば、日本人としては「デフレ」を想起してしまう。実際中国では不動産に価格下落圧力がかかっているが、これが「デフレ」になるかは半信半疑だ。なぜなら「資金繰り」のためだけに無秩序に「人民元」を乱発すれば、それは「通貨価値下落」「インフレ」を招く。単純に日本の後追いになるかは議論のあるところだろう。

 現場で企業融資や銀行の「資金繰り」を担当してきた「損切丸」的立場で言えば、デフォルトや破綻、倒産というものは一気に短期間で起きる性質のものではない時間の経過と共に必ず傾向が現れ、徐々に状況が悪化する「資金取引」には期日があり、返済期限が訪れる度に「資金繰り」に追われるからだ。今なら中国不動産業者の社債が典型例だろう。

 これが国レベルになると、資金フローはより複雑になり一筋縄ではいかない。「中国」ほどの大国になれば尚更で、乱暴な例えだがスリランカのように簡単には逝かない。いや、もっと言えば世界経済の破綻に直結する「大国」のデフォルトは現実的ではない。どこかに大きな犠牲を強いることになる。国内なら第二次世界大戦後の日本のような「預金封鎖」「資産課税(80%)」、国際的には「債務再編」(リスケ)等。

 日本人より「お金」に敏感な中国人のこと、当局の規制をかいくぐって「お金持ち」を中心に対策は早かろう(共産党幹部一族が一番早かったりして…)。最近の "取り付け騒ぎ" はその兆候とも考えられる。

 筆者の個人的印象としては中国の内情はかなり悪い商品市場の "Crack" ↓ (亀裂)がその事を示唆している気がしてならない。 

 折しもこれを書いている今(9/7@22:30)、WTIが@83ドル台に急落(その後@81ドル台まで下落)。ドル円の@145円接近も空恐ろしいが、こちらも風雲急を告げそうな気配。アメリカの「インフレ」「円安」ばかりに気を取られていると、この巨大な「灰色のサイ」を見逃す。「信用リスク」という点では「リーマンショック」を遙かに凌駕する

 マーケットの全てを吹き飛ばすほどの ”爆薬” 。どう対処すればいいのか、前例もなく筆者も正直想像がつかない。現時点ではとにかく認識していることが大事FRBが「利上げ」を一時停止するなどの事態も想定できるが状況次第だろう。あとは出たとこ勝負になる。

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