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「危機」が招く「ドル不足」と「クレジット・クランチ」(信用収縮)。

 「何でもいいから3ヶ月までドルを取れ!」

 1990年「湾岸戦争」勃発の直前、当時「ドル・デポ」と言われたドル短期資金の駆出しトレーダーだった筆者はチーフディーラーからこういう指示が出たのを強く記憶している。「金融危機」の一端を初めて現場で感じた

 当時FRBの政策金利は@8%だったが、イラクのカタール侵攻以降、ドルの1~3ヶ月金利は@12~15%まで上昇。それこそ「質への逃避」で「出し手」が「お金」を渋ったからだ。これがリアルな「クレジット・クランチ」(Credit Crunch、信用収縮)。

 当時「ドル・デポ」は、日本がバブル真っ盛りの中ディーリングルームの稼ぎ頭で年間+3千万ドル(≓30億円)を叩き出していた。それがこの「危機時の資金調達」で収益の3ヶ月分を吹き飛ばしてしまった。それでも「資金繰り」による破綻(デフォルト)を防ぐにはやむを得ないコスト

 それが今マーケットを襲っている「資金繰り」の現場が緊張感MAXなのは想像に難くない。今は*「OIS-FRA」 ↑ 標題添付。Over Night Index Swap - Floating Rate Agreement)スプレッドで計るようだが、2020年3月の「コロナ暴落」以来の+20BP越えとなっている模様。平たく言うと市場でドルが取りにくくなっている

 古くはTEDスプレッド(Treasury - Euro dollar spread、米国債と無担保ドル資金金利との差)、筆者が現場の頃はOISドルなら政策金利であるFF金利基準)と今は廃止されてしまったLIBOR(London Interbank Offered Rate)との差が使われた。いわゆる中銀の政策金利を基準とする ”裸の金利” と信用リスクを加味した銀行間(インターバンク)金利の差を指す。2008年のリーマショックをはじめ、過去の金融危機では例外なくこの「クレジット・クランチ」が起こっており、間違いなく ”隠れた悪役” である。

 こういう時は国債金利だけ見ていると「危機」を見誤る場合がある「お金」が「質への逃避」で一気に国債に向かい、むしろ金利が低下してしまうことがあるからだ。この局面ならドイツ国債が典型「原発攻撃」を受けて10年金利が再度@▼0.07%とマイナス金利に突入しているが、銀行や企業(社債)の資金調達環境は逆に悪化DAX指数も急落している。対照的にイタリアやギリシャ等「お金」のない国債金利も下げ渋っている

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 実は最近アジアでも顕著な例が起きている。中国の不動産関連社債の金利だ。10年中国国債が@3%以下で推移している中、@10~15%にも及ぶ2桁金利の社債が続出この問題が深刻なのが、救う手立てがほとんどないこと中国人民銀行が「利下げ」に転じたが、**中央銀行からの資金供給は「資産健全性の原則」に則って「有担保」が基本。つまり「お金」のない銀行や企業は救う術はなく、デフォルトは避けられない

 **この原則を破ったのが「コロナ暴落」時のFRBによる「信用緩和」モーゲージ(住宅ローン証券)や社債を買いまくった。これは実質「無担保貸出」であり ”掟破り” 米政府の行った100兆円規模の財政出動と足並みを揃え、国や「法定通貨」の価値毀損のリスクを負って ”救済” に乗り出した。もっとも過剰な借金を帳消しにするために「インフレ」を目指していたのだから「狙い通り」(?)。株が高騰するはずである。

 地政学的にヨーロッパは依然「金融危機>インフレ」だが、今回厄介なのが「真性インフレ」がマーケットを襲っていること安易な「金融緩和」はエネルギーや商品価格の更なる高騰を招く怖れがある。その事を証明したのが昨日(3/3)のパウエルFRB議長の議長証言であり、アメリカが「利上げ」で「インフレ」を防ぎに行くしかない ↓ 。

 やむを得ない状況とはいえ「クレジット・クランチ」の中の「利上げ」は最悪。制裁を受けてCCC-(S&P、ジャンク債扱い)まで格下げされたロシアを筆頭にデフォルト頻発は避けられまい中国の不動産関連企業を含め「資金繰り」に窮する企業(含.銀行)が続出するだろう。もっとも「利上げ」を「SWIFT」と並ぶ「金融破壊兵器」の一部と捉えている可能性もあり、政治的に何ともいえないところでもある。

 「買って ”ガチホ” すれば大丈夫」

 一時期こういう声を良く聞いたが、さすが消えつつある。「長期投資」と言えば聞こえはいいが、厳しいことを言えば「損切り」したくないがゆえの言い訳にも聞こえる。デフォルトすればどんな株、社債、そして通貨も価値がゼロ(近く)になる。くれぐれも ”銘柄” を間違えないことだ。

 「損切り」の煮え湯を何度も飲まされてきた ”老兵” から助言するなら、 "もっと気楽でいい" 。特に「性善説」ベースで「間違い」「失敗」を ”悪” と考えがちな日本人はとかく頑張り過ぎてしまいがち「損をした」と考えるより「一旦売って安いところで買い直す」と切り替えればいい「損切り」は思ったより悪くないですよ(苦笑)。決断は早い方が良い。

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