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「物価連動債」研究。

 「インフレ」を計る上で金利市場ではよく「物価連動債」を参考にする。前稿で触れたので、もう少し分かり易く解説してみよう。

 「物価連動債」発祥の地はイギリスだが最も発達しているのがアメリカ。ここではTIPSと呼ばれる米物価連動債を取り上げてみる。

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 「物価連動債」では満期の償還金が当初投資額ではなく、元金(@100)+物価上昇分になる。 ↑ 5年債@107.63を例に取れば、100万円投資すれば満期に107.63万円返ってくる。単利で計算すると@1.526%だが、ここから表面利率@0.13%を引いて@1.39%となる(若干の複利調整有り)。

 これらを元に市場の「期待インフレ率」を図るのだが、ここでBEI(Break Even Inflation rate)という考え方を用いる。計算方法は:

 BEI=普通国債利回り ー 物価連動債利回り

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 BEI 5年=@0.41%  ー @▼1.39% = @1.80%

 BEI 10年=@0.93%  ー @▼0.95% = @1.88%

 BEI 30年=@1.68%  ー @▼0.32% = @2.00%

 アメリカの「期待インフレ率」が@2%近辺で推移していることが判る。今金利市場ではこのBEIが上昇傾向に有ることが、単純な普通国債の金利上昇と共に取り沙汰されている。これをシンプルなチャートで示すと ↓

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 2019年以降のトレンドの大転換はかなり鮮明だ。「コロナ危機」でドタバタ売り買いがあった普通国債よりも明確であるといっていい。

 2004年3月から日本でも「物価連動債」の発行を始め、当初は外国人を含めそれなりに人気を博したが現状は悲惨な状況に陥っている。理由は3つ:

 ①元金保証の「フロア」が付けられなかったこと

 ②2008年以降の深刻なデフレ

 ③不透明なCPIの基準変更

 アメリカイギリスには「フロア」といって「償還元金保証」が付いている。元々「インフレ」が恒常化している両国には「デフレ」の概念がなかったのかもしれないが、とにかく投資元金は保証されている

 ところが財務省はこれを付けなかった。その後何が起きたかというと「デフレ」に突入してCPIがマイナスに転じると価格が@100を割り込む事態が起きた。これに慌てた内外の投資家の売りが殺到し相場は大暴落、大きな損失を被る結果になってしまった。

 この動きに拍車をかけたのが不透明なCPIの基準変更。それによってCPIの発表値が下方シフトしたことがあった。筆者の所にも随分海外から問い合わせがあったが、外国人投資家の「不信」は高まり日本の物価連動債を見限ってしまった。

 実際2008年以降、日本における物価連動債は発行中止に追い込まれた。2013年に「フロア付」で発行を再開したものの「不信」は根強く、市場は広がりを見せていない。事実2019年には年4回X1,000億円=4,000億円発行されていたが、2020年度からは3,000億円に縮小されている。

 肝心のCPIの基準が曖昧でJGB(日本国債)全体も「死に体」な状況では、日本市場に「期待インフレ率」を計る力などあるわけがなく、BEIも ↓ のように訳のわからない推移を示すようになってしまっている。

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BEI 日本

 これもT.I.J.(This Is Japan)と言ってしまえばそれまでだが、この国では常に「お上」の意向が優先され、あまりにもマーケットを軽視し過ぎている。株式市場も然り。外国人は逆にこれを「利用」して「金儲け」に勤しむようになり、国内投資家は恩恵を受けられない状況が続いている

 *「インフレ」の話に戻すと日本のCPIや市場が実態を示しているとは思えない。市場が機能している米国からのサインの方が信用できる。ベネズエラトルコのように極端ではないが、「インフレ」=「生活費」の上昇による生活苦はこの日本でも既に起きている「過剰債務」を起点にする消費税やエネルギーコスト、超低金利もその一部と考えていい

 これらを考えると、特に「富裕層」「資産家」が有り余る「お金」を株や金、タワーマンションなどに投じるのは当然かもしれない。これらが「高すぎる」「すぐ暴落する」と書き立てている著名人は、単に「小市民」の感情に迎合しているだけで、信用できない「上がった物は下がる」と言っているだけのものが殆どで、説明の根拠が希薄だ。

 少なくとも何万人も参加する金利市場でははっきり「インフレ傾向」が出ている。参加して取引してみるとわかるが、米国債市場など個人や銀行の思惑で恣意的に動かせるものではない。今出ている値が「真実」なのである。

 マーケットの「数字」は裏切らない。

 日本のCPI然りで経済指標などの「数字」は検証してみる必要があるが、マーケットで取引される「数字」「値段」は裏切らないビットコインなど流動性の低い Bold Markets は別にして、**ドル円とか主要国債(除.  JGB?、株式市場など ”成熟市場” での取引は「リアル」だろう。その値段で多くの参加者が売り買いしているのだから。

 **「割安」「割高」は売り買いを為すための判断材料の1つに過ぎず、要はその判断が合理的で正しいかどうかの勝負。「勝つ」ためには大衆が目にするメディアのニュースなどではなく「見えていない物に対する気付き」が大事。ただ意外と簡単なことを見逃しているトレーダーも多いので、様々な要素を見落としなくチェックするのもポイントだ。読み方次第では「金利」は色々なことを伝えてくれる。元・経験者として。

 


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