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「いつも買う相手」のいる有り難み - 今度は「インフレの免罪符」

 2/8 金融経済懇談会@奈良県
 内田日銀副総裁:「どんどん利上げをしていくようなパスは考えにくく、緩和的な金融環境を維持していく」

 この発言を聞いてほっと胸をなで下ろしているのは、顧客の売買注文に価格提示をする義務を負うJGB(Japanese Government Bond、日本国債)のマーケットメーカーだろう。アメリカのように+0.75%×連続3回なんて「世紀の利上げ」をされたら堪ったものではない。それこそシリコンバレー銀行(SVB)のように潰れてしまう

 日本の国債市場でもアメリカに倣って「プラマリーディーラー制度」を始めて随分経つ。国債入札で一定額以上の落札を義務づけられるなど負担を強いられるが、開始当初は市場でのステータス確保のため邦銀も外銀もその座を巡って争った。だが「異次元緩和」「XXバズーカ」等々、日銀による ”JGB買占め” が始まってから状況は一変。マーケットは閑古鳥で商売にならなくなった。結果、邦銀の一部はそのステータスを返上

 年間100兆円も日銀がJGBを買い取る様はいわば「いつも買う相手」のいる状態入札で落としても「国債買取オペ」で "ツモ切り” すればいい。発行額の半分以上を買占めているのだから市場に出回る "玉" は殆ど無く、限りなく「国債引受」状態。まあマーケットメーカーにすればこんなに "安心" な事はない何しろいつでも売れるのだから

 でもFXでも(コモディティでも暗号資産でも)、どの市場も最も重要なのは「買い手」を確保すること。これを国が保証するのは "安心" である反面、リスクに対する "緩み" も生む米国債の暴落で中堅銀行が破綻したのがいい例であり「介入」には必ず副作用が伴う

 筆者も日銀据置担保用のJGBを自己勘定で売買したが、JGBのトレーダーにオーダーを出すとセールスを通して投資家や金融機関に打診したり先物でヘッジしたり右往左往。市況にもよるが、結構神経を使っていた。今回の副総裁の発言はそういう「買い手」が極端に引っ込む状況を緩和するためと読める。平仄を合わせるように2月の「国債買取額」も据え置いた

  ”タカ派” 発言を警戒していた向きもあったので安心感からJGBは買い戻されたが、一番驚いたのが一時+800円も上げた日経平均の急反発「国債無制限指値オペ」を 「円、どんどん売ります!」の免罪符。ー 世界的な「真性インフレ」下、「金融緩和」しているのはトルコと日本だけ。|損切丸 (note.com) と捉えたFX市場で怒濤の「円安」が進んだが、今回は言うなれば「インフレの免罪符」。個別株の動きは別にして先物などを中心に海外勢が「買い」に動くのは容易に想像できる

 加えて年間2兆円もの「新NISA」という安定的な「買い手」が出現「過剰流動性」の観点からも日銀が ”蛇口” を閉めない事は米株や米国債、あるいはWTI(NY原油先物)やビットコインにも朗報1,000兆円もの「預金」は「買い手」予備軍としては十分な規模マーケットメーカーなら「在庫」確保に動くのが自然な流れだ

 ではお膝元のJGBや円金利市場がウハウハかというとさにあらず。これが ”天邪鬼” 金利市場の妙だが、これだけ株が上がると逆に "心配" になる副総裁はそう言っているが、半年後、いや3ヶ月後には判らない。大体「実質金利」の話をすれば、現状でも10年JGBで▼2.41%という "異常値"+1%「利上げ」してもまだまだ「マイナス金利」である。今回の発言にはそういう "含み" も垣間見える

 円短期金利にも注意が必要だ。前稿.遂に「お金」が足りなくなった?日銀|損切丸 (note.com) でも解説したが、「円預金」が「株」や「ドル」に移動すると円のマネーマーケットの「需給」が引き締まる≓「お金」が足りなくなる。実際日銀も「国債買い現先オペ」で「資金供給」をせざるを得なかったし、TONAR(無担保コールO/N金利)も2/8(速報値)で@▼0.005%まで上昇。「ゼロ」は目前だ。特に危ないのは銀行で「貸出」が増加するケースで、「需給」逼迫による金利上昇が怖い

 ドル円もドンドン上=「円安」に突っかけられないのはそういう「金利」の事情を察知しているから。まして昨年と違って金融政策のベクトルが「利上げ」方向の今、「キャリートレード」は手掛け難い

 さてこういう「円」の事情と趣を異にしているのがお隣の "大国" 。すっかり「灰色のサイ」と化しているが、なんといっても「いつも買う相手」=アメリカという主要顧客を失ったのは痛すぎる輸入額もメキシコに抜かれ「お金」が入って来ない。海外投資家は逃げ出し、国内では給料も払われず銀行から「預金」も下ろせないようでは「買い手」にさえなれない。結果起きているのは▼0.8%(1月年率)というマイナスCPI≓「デフレ」現象

 解消する方法は2つ:

 ①「人民元」をバンバン刷って需要を喚起
 ②「戦争」に打って出て他国から「富」を没収

 MMT(現代貨幣論)論者なら① ↑ を支持しそうだが「インフレにならなければ」なんて条件付は通用しない商取引など裏付けのない「お金」をばらまけば100%「ハイパーインフレ」になる。政府もその事は理解していてなんとか踏み留まっているが、果たしてどこまで保つか

 そうなると② ↑ がより ”現実的” だが、 "彼の国" はどちらかというと「内戦」の潰し合いが主大々的に外に「戦争」に打って出た例がない。まああれだけ人も土地もあればそれ以上必要無かろう。エネルギー資源も「戦争」中のもう1つの "彼の国" から安く買い叩けることだし

 ここまでの市場の動きを見ていると、世間が騒いでいるより日本の "足抜け" は上手くいっている。むしろ "彼の国" への需要を上手く取り込んで利用している。このまま②「戦争」を抑えこんで上手く対処していけば日経平均@37,000円は通過点になる。「金利がある世界」もまんざら遠い未来でもなかろう。「預金」に「金利」が付くの、意外とうれしいものですよ(笑)

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