フィリピン

フィリピンバナナの消滅が日本の人件費を押し上げる? - もう安くないアジアの労働力。

 ここ数年、フィリピン産の果物、特にバナナやマンゴーをスーパーの店頭でめっきり見なくなった。香港に赴任していた時、あの黄色い「ペリカンマンゴー」をよく食べた。安くておいしかった。日本に帰ってからも春先出回る時期には探して買っていたのだが、最近はとんと見なくなった。同様にちょっと前まではフィリピン産ばかりだったバナナも最近はエクアドル産やタイ産になっている。一体何があったのか。

 「マニラ辺りでは東京よりバナナが高かったりするんですよ」

 知り合いにこんなことを言われ、えっ、と思った記憶がある。そこまで状況が変わっているのか...。日本へ輸入される海外農作物の約60%を占めているというバナナ。2010年頃にkgあたり71円ほどであったバナナの卸売価格が、2015年にはkgあたり約118円と5年間で7割近く上昇しているという。一体何が起こっているのか?その背景にはフィリピンで起きている4つの異変が大きく影響しているという: ↓

1)エルニーニョ現象と凶作
2)土壌汚染に伴う伝染病が広がる
3)高地栽培を行うための過大なインフラ整備コスト
4)アジア諸国に対する買い負け

 特に4)の影響が大きいと思う。日本国内だけを見ていると気がつかないが、中国を始めシンガポールやマレーシア、タイ、フィリピン、そして最近ではベトナムも加わり、アジア諸国は凄まじい勢いで成長している。林立する高層ビル群を見れば、シンガポールやクアラルンプール(マレーシアの首都)は、港区や中央区等の東京都心部を凌駕しているといっても過言ではないぐらいだ。とにかく勢いが凄いし、当然物価も上昇している

 何年か前、北海道のニセコにスキーをしにいったらホテルの従業員に「Welcome!」と声を掛けられてビックリ。まるで外国。ラーメンを食べに行ったらタラバガニの足が丸々入った「海鮮ラーメン」が何と3,800円!!いかに観光地でもこれはないだろう、とたかをくくっていたら、中国人の団体さんがずらっと8人カウンターで並んでみんな注文していた。唖然。もう「日本人が金持ち」なんていうのはいつの時代の話、って感じだ。

 そういえば、不漁のせいもあったが最近サンマが高い。いやいや、それだけでなくイカやタコ、イワシにサバなんかも何だか高い。買い物かごへ入れる時一瞬ためらう。「あれっ、こんなに高かったっけ?」。事情はバナナもマンゴーも同じだろう。中国や東南アジアに買い負けているのである。

 団塊の世代の退職期を迎えて日本は本格的な労働人口不足に直面する。政府も外国人労働者の受け入れ体制を敷こうとしているようであるが、ちょっと認識が甘いのではないか?ハローワークに行ってみて認識したのだが、今最も求人難に直面しているのが介護関連だ。求人5に対して応募が1ぐらいの状況のようだが、あの給料、待遇では無理だ。**アジアからなら、とか思っているならとんでもない勘違いだろう。

 **そこで今注目されているのがベトナムだ。11月22日投稿. 「郡山に帰省@11月22日 - 地方は本当に「疲弊」しているのか?」でも書いたが、地元の同級生のところでも毎年6人づつ「研修生」を採用しているらしい。ベトナムのビールは1本(350ml)50~80円らしいから、まだ人件費も雇える範囲なのだろう。中国からベトナムへ工場が移転しているのも同じ事情だ。だが他のアジア諸国同様、いずれ日本は追いつかれてしまうだろう。

 ここで問題にしたいのが、雇用をする側の経営者や政策を担当する政府の認識だ。特に団塊より上の世代。未だに「アジアは貧しいからいつでも雇ってやる」と安易に考えていないだろうか。もう、日本人と比べても外国人労働者は安くないし、いつまでも安い給料に固執していると人手不足で苦しむ結果に。実際デフレ期に安売りで稼いできた企業は苦難に直面している。

 これからはアジア人も日本人もなく、適正な賃上げ、雇用をしてもやっていける企業、産業だけが生き残っていく。つまり、提供する商品やサービスに、値上げをしても需要が見込める十分な付加価値をつけることが必要になってくるわけだ。「コストカッター」だけでやっていける時代は終わった。そういう意味では、デフレ時代は「労働者受難」だったが、令和は「経営者受難」の時代もっともそれは「やりがいがある」、とも言える

 雇用指標はマーケットビジネスでは「遅行指標」と言われており、実態が現われるのに半年から1年のタイムラグがあるとされる。日本だけ見ていると「ちっとも給料が上がらない」という声もよく耳にするが、もう少しの辛抱だ。アジアに目を向けると、ベトナムあたりが一巡すればいずれこの賃上げの波はこの日本に戻ってくる

 しかしまあ無理もない。今の25歳ぐらいまでの子達は生まれてこの方物価が上がったことがないのだから。待てばいろいろなものが値下がりし続けた。最近は外国へ行きたがらない若者が増えていると聞くが、マニラでもバンコクでもクアラルンプールでも一度行って見るといい。見たこともいない「やる気」に満ちているのが感じられるだろう。少しは考えが変わるかも。

 この「損切丸」でしつこくいっているのは「お金の使い方」。今までは「貯金して値段が下がったところで買う」が基本だったかもしれないが、ベクトルを買えた方が良さそうだ。「必要なものから前倒しで買っていく」。究極は「借金して買う」だが、これはデフレ慣れしている世代には「上級編」なので少し慎重に対処を。(興味のある方は、11月14日投稿. 「お金を借りるということ - 会社、個人、マーケットと「借金」の関係。」 も)

 「ペリカンマンゴー」もフィリピンバナナも好きなのに...。マンゴー1個500円とかバナナ一房1,000円になんてなったら買えないね。嫌だなあ。

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