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金利市場で密かに進行する「BREXIT」。反対側で大きな矛盾に直面する「ユーロ圏諸国」。

 今イギリスの金利市場が面白い動きをしている。1月31日にユーロ圏から離脱して以降、まさに「BREXIT」と呼べる変化が進行中だ。この1か月のドイツとイギリスの10年国債金利の動きが対称的。

イギリス10年債 1か月チャート

ドイツ10年債 1か月チャート

 低下したままのドイツ金利とは離れ、イギリスの金利は明確に上昇基調にある。当然と言えば当然だが、イギリスはもう「厳格なユーロ基準」に従う必要がなくなり、特に財政政策の自由度が増す。そして首相には「イギリスのトランプ」とも呼ばれているボリス氏実質金利の水準は、ユーロ圏のドイツやフランスの水準から離れ、かつての宗主国、 Commonwealth 諸国であるアメリカやオーストラリアの水準に寄っていっている

実質金利G8(after CDS)@14Feb20

 金利の理屈だけで言えば、為替市場でポンドは徐々に買われていくはず。例えばポンド円なら今の@142円台から@150円の方に動くことが想定される。そして今後イギリスが経済的に回復基調を見せてきた時は、他のヨーロッパ諸国への心理的影響はもっと大きなものになる。

 ドイツの衛星国家的な側面が強いベネルクス3国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)とスイス、それにフランスの結束は揺るがないと思うが、経済が困窮しているギリシャ、イタリア、スペイン等への影響は甚大だろう。財政規律を緩めて自国通貨安で経済を立て直したい、という誘惑は強烈なはず。下手をすれば「ユーロ崩壊」である。

 しかしこれは歴史の大いなる皮肉でもある。ドイツのブンデスバンク( Deutsche Bundesbank )といえば、第一次世界大戦後のハイパーインフレの苦い経験から(  稿内の説明ご参照)、物価=インフレ抑制と財政規律に最も厳しい中央銀行としてその名を轟かせていた。法律で「雇用の確保」「政府との協調」を求められているFRB日銀とは根本的に違う。基本目標は「物価=インフレの抑制」の1点のみ。極論すれば、インフレさえ抑制できれば雇用がどうなろうが政府がどうなろうが関係ないということ。まさに真の「鷹( Hawk )」だ。

 それが今や...「最も通貨価値を毀損させる低い実質金利」の国に。↑ 添付の金利表で見てもG8の中でダントツで最下位「財政規律」を守るために通貨価値を毀損させるインフレ政策を取っている、というのはまさに「大きな矛盾」である。このままでは過剰な財政引締めで銀行界を中心に経済は「凍死」だ。ここは金利市場の声を聞いて一刻も早い政策転換をするのが賢明だと思う。

 まあそうはいってもドイツ人の頑固さは筋金入。果たして妥協できるのか、それともまたブラックマンデーを引き起こしたような「間違い」を犯すのか...(=当時強く反対していたアメリカを押し切ってブンデスバンクが利上げに踏み切ったことがドルの暴落を引き起こした、と言われている。当然ドイツはそんなことはお構いなし。どんな暴落が起きようが「インフレ抑制」が最優先なのだから。つまり彼らにとっては正しい決定)。

 さて翻ってこの日本。消費税を上げて財政を引締めながら日銀の金融政策でインフレ(=通貨価値の毀損)を目指しており、実はユーロ圏と状況が似通っている。マイナス金利政策で銀行収益が悪化している点も同じ。これではまるでアクセルとブレーキを同時に踏み込んでいるようなもので、同じ場所で空回りを続けるだけだ。どこかの議員のように消費税をゼロにしろとは言わないが、せめて働き盛りの30~50代が消費にお金を回せるような租税措置を取らないといつまで経っても物価は上がらない

 2019.12.19稿. 「麻雀」と「投資」 ↓ でも書いたが、くれぐれも**「牌を切る順番」を間違えないように。勝てるはずの勝負が、一巡切る順番が遅れたために相手に振り込んで大損なんてのは勘弁願いたい。

 **車に例えれば、アクセルを踏んである程度スピードが出たところで調整のためにブレーキを踏むことには意義があるが、ブレーキを強く踏んだままでアクセルをふかしたのでは、その場でタイヤが空転して白い煙を上げるか、エンジンがオーバーヒートしてぶっ壊れるか。今の日本とヨーロッパの金融+財政のポリシーミックスはそんな状態だ。正直何をやっているのか、訳がわからない

 今回の「新型コロナウィルス」の対処方などもまさにその典型。ちょっとした順番間違いがもとで、振り込んだら「役満」(麻雀で1番点数の高い役)なんてことになったら目も当てられない。油断は禁物。

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