旗竿地

折り込みチラシの経済学

 9月は第3週、4週と3連休が2度続いて大分ゆっくりするせいか、柄にもなくいつもより新聞をじっくり読んだりする。特に折り込みチラシが好きで良く読むのだが、長い期間に渡って読み込んでいるといろいろな状況変化が掴めたりする。

 例えば不動産のチラシ。ぼーっと見ているだけだと何の事もないのだけれど、例えば坪単価を計算してみたり、地図で場所を確認したりしていると気付きがあったりする。よくあるのは「旗竿地」「整理地」の単価の違い。同じような場所でとうしてこんなに値段が違うのか、と思って見ていると、この地形の違いが影響している事が良くある。表題 ↑ に添付した図で言うと青い方が「旗竿地」で、黄色の「整形地」よりぐっと安くなり、単価が倍ぐらい違ったりする。確かに家の出入りなどを考えると黄色の方が道路に面していて便利だったりはする。

*ただし、相続を考える地主さんなどは「整形地」を売って「旗竿地」を残したりする方もいる。相続税の金額が全然違ってくるからだ。

 ただ、このような地形の違いがなくても同じような土地で全然値段が違うときがある。最悪のケースでは、安い方が殺人事件があったとかの事故物件だったり、遺跡の発掘指定地だったりするので気をつける必要があるが、それ以外だと現金が必要で売り急いでいるとか、様々な状況が有り得る。

 長い期間見ていると、「ああ、この物件まだ売れていないんだなあ」とか「おっ、これ値下げしたなあ」とかいろいろ気付くことがあって興味深い。これはネットの情報やニュースにも言えることだが、チラシも見方によっては得られる情報の質が違ってくるので、「本当にお得な買い物」には、やはり地道な努力が必要ということだろう。

 最近特に興味を持って見ているのが、パートなどの募集広告。今年の初めぐらいまでは、都心でもまだ時給800~900円の募集がちらほら見られたが、最近は最低ラインが1,000円を超えてきているようだ。不人気と言われるマンション清掃員、ガードマン、介護職でさえ時給1,200円なんていうのも見られるようになった。今年に入って人出不足倒産が相次いでいると言うし、実際、時給1,000円以下では人を集められなくなってきているのではないか

 「そんなのは自分には関係ない、暮らしは厳しいままだ」、とおっしゃる方もおられよう。しかし、毎日のようにあれだけ転職サイトのCMをやっている状況から客観的に見ると、日本の雇用状況は全体としては悪くないと思う。人件費が上がっているということは、人手の需要>供給ということであり、雇用側は給料の高い方へ動きやすいことを意味する。

 *昔仕事でドイツとイギリスの雇用状況の違いを話し合う場があったが、イギリス人曰く、ドイツの雇用で問題なのは、余りにも雇用側に強すぎる労働法と転職が容易にできない雇用環境だ、と指摘していた。ストライキなども起こしやすく企業側にすると投資しにくい、ということらしい。逆にロンドンなどではレイオフ=首切りは頻繁だが逆に雇用市場の流動化が進んでおり反って雇用環境を好転させている、という。

 かつて日本でも労働組合が強く、「終身雇用」を日本経済の強みと見る向きがあったが、今となっては1つの企業に長く止まることは必ずしも労使双方にメリットがあるわけではない。日本の雇用形態はドイツ型からイギリス型にシフトしてきており、今は過渡期の生みの苦しみ、といったところか。

*ただイギリスでも万事上手くいった訳ではなく、過渡期では雇用が悪化し、アナーキズム(無政府主義)などが台頭した期間があった。音楽で言うとパンクムーブメントなど過激なロックが流行った時期でもある。

 労働組合が強くてストライキが多くて賃上げ闘争が激しくて...。どこかで聞いたような話だ。昭和の日本のようでもあり、現在進行形では隣国を想起させる。その後ドイツも様々な雇用対策を取ったことにより、かつてのような過激なストライキは起こらなくなっている。グローバルな競争社会で強すぎる労働者の権利は、国として存続を危うくする懸念があるからだ。逆説的な言い方になるが、雇用を守るためには雇用を捨てる必要がある、ということだ。企業側に寄りすぎだと政権を批判する向きもあるが、それは現場を無視した意見だろう。企業なくして雇用はないのである。

 今日もお休みでチラシを眺めている。相場を張る人はみんなそうだが、儲かるかどうかは同じ情報からどれだけ有用な判断材料を取り出せるか、という事に尽きる。ある程度の期間に渡って変化を見ていくのも一つのやり方。興味を持って見ていれば意外といろんな情報が隠れているものである。

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