日本の "トルコ化" (?)
筆者が英系銀行を辞めた2016年当時も「10%を超える高金利!トルコ建債券」を証券会社から購入していた日本の顧客が大勢いたが、今息をしているだろうか(苦笑)。当時トルコリラ円が@33円ぐらいで「2007年には100円ぐらいあったので、そろそろ底値」とでも耳元で囁かれたか。実際は@8円まで暴落し元金の目減りが酷い。こうなると2桁金利も ”焼け石に水” 。「高金利通貨は買い」がいかにデタラメか、わかろうというもの。
さて、2021年には@103円から@115円まで12円も「円安」(▼12%)になるのを見て、「悪い円安論」が巷では盛んだ。そもそも「通貨安」はなぜ起きるのだろう?
為替レートは2通貨の相対評価であり、様々な要素が複雑に絡み合う。一概に述べるのは難しいが、最も肝要なのは「国富」の差だろう。
「国」を 「企業」になぞらえると:GDP=「年間売上高」、「預金」=「内部留保」、政策金利=「配当金」、経常+金融収支が「利益」に該当する。やはり「利益」が大きい「通貨」が買われやすい。「高配当株」=「高金利通貨」も一定の需要はあるが、買われるとは限らない。
「日本の "トルコ化"」
最近こういうフレーズをあちこちで見かけるが、おそらく言いたいのは:
①低金利政策で「悪い通貨安」が続く
②輸入インフレなどで物価が高騰
③財政危機に陥りデフォルトに直面
果たしてFACT(事実)はどうなのか?
「法定通貨」を「国」の「株」に見立てて、「企業」の「バランスシート」に疑似化して2国を比較してみる。 ↓
双方の形がはっきり違うのがお判りだろうか。「バランスシート」「年間売上高」の規模だけ見ると、差し詰め日本は ”一部上場の大企業” 、トルコは ”中小企業” といったところだが、ポイントはそこではない。株式投資において最大のリスクは「その企業が潰れるかどうか」=デフォルトであり、 ”良い企業” の尺度で大事なのは:
①利益率(どれだけ稼げるか)
②債務比率(借金を返せるのか)
①利益率の結果として「内部留保」=「預金」があるわけで、この2つは密接に関係している。日本に比べるとトルコは「内部留保」=「預金」が「債務」に対して小さ過ぎる。「株式時価総額」を「借金」の返済原資となる「流動資産」と見做せば、*日本は「借金」返済の心配はほとんどない。一方のトルコは返す算段が立たない。その差が10年国債「金利」として、日本@0.13%<トルコ@22.66%となって現れている。
ちなみに同じような差異は、ヨーロッパ内のドイツとイタリア、ギリシャにも見られる。特に「財務の優等生」ドイツの債務は圧倒的に少なく、そのままデフォルト確率の差になっている。
e.g. 5y CDS ドイツ@6.5 < イタリア@92.7 ギリシャ@116.6 @1/24
結論:少なくとも数年内の「日本の "トルコ化"」の蓋然性は低い。
だが、日本の問題は別の所にある。かつての "Made in Japan" に多く見られた、いわゆる「大企業病」である。
「何で辞めるの?勤め続ければ黙っていても1,000万円貰えるのに」
これは筆者が邦銀を辞める時、同僚から投げかけられた言葉。だが説得されなくてラッキーだった。今も残っていたら…。そう、「システム障害」で頭取まで交代させられた "あの銀行" である。**3行合併後のドタバタは内部から色々聞いていたので、今行内がどうなっているかおおよそ見当がつく。というより、筆者が辞めた27年前から何も変わっていないどころか、むしろ悪化しているのではないか。
「大企業病」の問題は「どうせ潰れないのだから高い給料だけ貰っていればいい」が蔓延して、社員が働かなくなること。その結果①利益率が低下して、デフォルトには至らないがじわじわと衰退していく。今の「日本」はまさにこの状態。既に給与・賞与を減らされて年収1千万円を貰えなくなった銀行員同様、国民はじわじわと貧しくなっていく。
「金利が上昇すると財政破綻する」
最後に読者から質問があったのでここで触れておこう。こういう言説は今の「日本株式会社」においては完全な ”レトリック” (詭弁)。確かに1,000兆円の借金で1%金利が上がれば▼10兆円利払いが増えるが、***反対側で国債のほとんどを保有している「日本人」が+10兆円受取る。つまり「資金繰り」上のインパクトはゼロ。財政破綻など起きるはずもない。
かようにFACT(事実)は表向き見えにくいことが多い。だから飾られた「言葉」よりも「数字」で表されたデータや「金利」を追う方が真実には近づける。もっとも国が公表データを改竄すればそれも難しくなるため、「体感物価」など自らの生活実感と照らし合わせていく努力は必要。
5年後に日本が「トルコ化」することはないが、こんな事を続けていると10年後、20年後はわからない。せめて「損切丸」でも読んで頂いて(笑)、物事やマーケットを見つめ直すきっかけにでもして頂きたい。
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