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「インフレは死んだ」は本当か? ー 「お金バラマキ」 →「デフォルト阻止」による歪みは金利市場へ。

 標題添付はOECD加盟37カ国の債務残高の推移を示したグラフ。2021年までに何と+12兆ドル(約1,270兆円)もの増加が見込まれているという。過去に例を見ない天文学的数値であり、その大半は ”主要通貨” ドルだ。

 このような政策になったのには伏線がある。リーマンショック(2008年)で欧米は大手金融機関の「デフォルト」整理という政策選択をしたが、予想外に膨大なコストと時間を要した。その「学習効果」が今回の「お金バラマキ」→「デフォルト阻止」政策に繋がっている

 これは日本の「バブル崩壊」も同じ。結局銀行に100兆円余りの不良債権を処理させたツケは大きく「失われた20年」になってしまった。その後日銀「ゼロ金利政策」「量的緩和」「異次元緩和」「マイナス金利政策」と ”尻ぬぐい” をする羽目に。ようやくデフレは脱却したものの、政府の目論んだ「インフレ」にまではできなかった。

  ”主要通貨” ドルのバラマキは効果てきめんで多くの企業や国の破綻を押さえ込んだ(除.一部の例外 e.g. アルゼンチン)。中でも米国外のドル不足を支援する流動性スワップ・オペは効果絶大だったといってよい。

 だが「デフォルト」を物量作戦で押さえ込んだツケは”歪み”となって金利市場に現れ始めている。

 ①日本やドイツ、フランスなど主要国の「マイナス金利国債」の金利低下阻害、または金利上昇。

 ②高金利通貨の名目金利低下←→「実質金利」は上昇。

 ドルのバラマキ →「マイナス金利国債」の金利上昇のロジックは理解しがたいかもしれない。だが通貨交換のための「ベーシススワップ」市場でドル余剰が解消して金利裁定が効かなくなり、ドル・ベースの投資家が円やユーロ建の「マイナス金利国債」を買えなくなっているのは厳然たる事実だ。

 「マイナス金利国債」のメカニズムにご興味がある方はご一読を。

 事実日本国債市場でもこのところ2~5年債の頭が重く、5年債は超過準備預金に課されている@▼0.10%を一時上回った。この状況から海外から新規の保有目的の買いはほとんど入っていないことが想定される。

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 これらの事象はドルも含め「実質金利」の上昇として現れてきている。

実質金利G8(after CDS)@12 Aug 20

 「実質金利上昇」 =「物価上昇(期待)」

 値動きの激しさもあってとかく投機的な側面が強調されがちだが、株価や金(Gold)の上昇は「物価上昇(期待)」と整合的とも言える。①日本をはじめ10年超の超長期金利が世界的に上昇②ドル指数でドルが下落、も「インフレ」を示す現象としてはまさに「教科書的」

 実はマーケットは非常にロジカルに動いている

 もう一つ着眼点として大事なのが「国の資金繰り」の問題。国はばらまいた「お金」をどこかから調達しなければいけないが、方法は大きく2つ:

 ①増税をして回収 → インフレ抑制的(ドイツが代表格)

 ②通貨を増刷する → インフレ的。需要を超えて通貨発行

 今回の「コロナ危機」をきっかけに各国は②「お金」を直接給付する方法に傾いている。イギリスのように期限を区切って消費税減税に踏み切る国もあるが、日本政府内では減税に財務省が頑なに反対していることもあり、「給付金」再交付に傾いているという(政治的にも受けがいいのだろう)。

 「資金繰り」を預かる日銀にしてみれば「給付金」の分資金調達が出来るので、今後資金不足を心配する市場調節課にとっては「渡りに船」。1人当たり100万円配れば100兆円一気に資金調達が可能だ。

 「日銀のバランスシート」@8/10速報 ↓ 

日銀バランスシート @10 Aug 2020

 いよいよというか、当座預金が**▼8.7兆円減少。実は銀行、保険は2020.3末に▼6兆円2019.12末比)程国債の持ち高を減らしているので、本来預金は増えてもおかしくない。それが減少に転じるというのは、やはり「預金の取り崩し」が徐々に起きていると考えて良いだろう。

 **今回「政府預金」が+10.3兆円も増えて資金繰りを賄っているのは「謎」だ。「隠し預金」?  日銀・財務省間で何かやり取りはあるのだろうが、外から窺い知ることは出来ない。まさに ”伏魔殿” 。最も永続的なものではなく、おそらく一時的な措置だろう。


日本国債保有者別残高2020.3

  銀行は事業者向けの支援貸出に追われ、保険は新規契約が激減する事態に直面しているため、ますます余剰資金は減っていく傾向にある。

 加えて昨日発表になった2020年上半期の経常収支+7兆円余りと黒字は確保したものの、前年比で▼37%も減っている。つまり「日本の稼ぐ力」は減じており、これも日本の「資金繰り」上はマイナス要因である。

経常収支2020.6

日本の収支(Update 2020.8)

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 「インフレは死んだ」と言われて久しい。そういう安心感があって超金融緩和や「現金バラマキ」に傾斜しているのだろうが、果たしてそんな都合の良い話があるだろうか

 これまで「死んでいた」金利市場だが、少なくとも金利が上昇する要素、環境は徐々に整ってきている金利の上昇は「デフォルト」か「インフレ」に帰結することが多い。どちらが高く付くかは不明だが、かなりの負担が誰かにかかるのは間違いない。そして***ツケが必ず弱小国、庶民など弱い所に回ってくることは歴史が証明している。

 ***今回の危機が「原発事故の処理」に似ている、というのは言い得て妙。事故後に「事故は起きません」「原発は安価な電源」等の主張は全てウソであることが判明。「インフレは死んだ」「物価が上がれば経済が良くなる」...。本当にインフレが起きた時のコストなど誰も測れない。それもこんな天文学的なお金のバラマキの後で

 日本の「バブル」経験者として老婆心ながら。「バブル」なんて良いことはひとつもありません物も家も買えない、予約は取れない、なのにどんどん値段が上がっていく。競争、競争、競争...。(程度にもよるが)デフレの方が余程心安らかに過ごせる。物価の上昇は苦しい。今から投資などで準備できればなお良いが、せめて心の準備だけでも。

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