「逆イールド」解消が示唆すること ー 国債市場に「変化」の "芽"
「円安」ばかりに目が行きがちな昨今、国債市場に「変化」の "芽" が出つつあることにお気付きだろうか?
GILTS(英国債)市場で2年ー10年の「逆イールド」が解消したことが話題に上っていたが、フランスやイタリアも同様。5年ー10年に至っては米国債も含め、ほとんどの主要国債市場で「順イールド」に転じている。金利相場用語で言えば「スティープニング」(Steepening、傾斜化)
この現象は一体何を意味するのか
ここで「金利」の3要素 ↓ をお復習いしてみよう
「スティープニング」現象の基本は「インフレ」。「コロナ危機」後の「需給」逆転で世界的「インフレ」時代に突入しており、現在の「逆イールド」はその対応でFRB、ECB等が急激な「利上げ」を行ったため起きた。それが「順イールド」に向かうということは市場が期待したよりも「利下げ」幅が小さくなること示唆する。実際▼2%以上「利下げ」を織り込んでいた米国債市場では▼1%(もしくはそれ以下)まで縮小
そして「損切丸」がより重視するのは1.「お金」不足と2.信用リスク。
「金利上昇」がここに到達すると怖ろしい事になる。「金利」は時に「為替」より怖ろしい|損切丸 (note.com) 所以だが、時にFXや株等を上回る暴力的な相場が起きる
世界的に「お金」が不足してきている兆候ではないのか?
従前からの主張とも重なるがその震源地は「日本」。具体的には日銀の「利上げ」に伴う邦銀勢の「外債投資」の変化になる
実際N中金がドル建債券で▼2兆円、地銀勢で数千億円やられたが、ほとんどが「為替ヘッジ付」で投資されており純粋に「金利」だけの損失。金融庁辺りから "指導" もあるだろうが、今後「高金利」を狙った安易な「外債投資」は大幅に縮小せざるを得まい
特にN中金に関しては「高金利債」を買い込むラストリゾート的な投資家と認識されていて、 ”困ったらN中金” なんてことが外資系証券では囁かれていた。系統組織に「保証金利」(おそらく+0.5~1.0%)を払う責務を負わされてやむを得ない事情もあったが、それが "悲劇" を生んだ
その状況が日銀の「利上げ」転換で大きな変化を迎えつつある
JGB(日本国債)が@1~2%に到達すれば無理に「外債投資」でリスクを取る必要がなくなる。特に数十兆円単位で運用するN中金の影響は大きい。外貨の長期債や「ハイイールド債」などのいわゆる「高利回り債」は主要な買い手を失うことになり "金利の正常化" が進む
推計では「異次元緩和」でJGBをもぎ取られた邦銀が「外債投資」に向かった額は400~500兆円。この*半分でも "里帰り" を果たせば欧米の長期国債に売り圧力が高まるのは必至。特に3.信用力のない国は影響が大きい。「スティープニング」の根っこにはこの問題があると筆者は確信している
FXでは「金利上昇→通貨買い」が基本プログラムとして作動しているようだが、筆者には疑念がある。「金利上昇」=「債券価格下落」だからだ
仮に10年米国債を買っているとしよう。「円安」では利益を得られるが「金利上昇」=「債券価格下落」による損失がFX益を上回れば「損切り」せざるを得ない。相場パターンとして「スティープニング→通貨売り」が定石でもあり、その点は注意が必要。「金利上昇」も行き過ぎれば ”毒" になる
国債に関しては今のところ3.信用リスクの悪化 ≓ 財政破綻を懸念する状況ではない。だがその前に必ず2.「お金」不足が起きる。そのリスクの過小は「イールドカーブ」が示唆しており「スティープニング」が激しい程 "危ない" 。そう言う意味で今一番 "危ない" のは日本
"危ない" ≓ 2.「お金」不足を案ずるなら「金利」は上げなければならない。日銀や財務省の官僚の一部にはそういう意識があるかもしれないが、「日銀は政府の子会社」と言い放ってしまう政治家の先生方となると甚だ心許ない。「利上げ」を選挙の道具としか考えていないようでは判断も間違えよう。「円安」や頭の重い「日経平均」はそういう市場からのメッセージ
今後の相場展開は「円安」と「スティープニング」「国債価格下落」などが入り交じり複雑な動きになる。2.「お金」不足に関しては国債を通じて「過剰流動性」が入り込んでいた欧米の株式市場も当然影響を受ける。「金利」が上がれば「資産」として株等の強力なライバルにもなる
1つはっきりしているのは日銀が金融政策の正常化を遅らせれば遅らせるほど状況は悪化する。これ以上の「円安」は ”毒" でしかない。今起きている「逆イールド」解消はそういう事を示唆しており、筆者が「通貨危機」を危惧するのはそういう事。マーケット全体にとってろくな事にはなるまい。のんびり構えている暇はない
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