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「金利」は時に「為替」より怖ろしい
5/18 農林中央金庫が総額1兆2,000億円の資本増強を検討。米金利高に伴って米国債などの運用収支が悪化し、今期(2025年3月期)には▼5,000億円超の最終赤字に転落する見通しで出資者のJA(農協)などと協議に入った。2023年12月末時点の含み損は▼1兆9,000億円
突然出てきたこのニュース。ほとんどの日本人は「?」だったかもしれない。だが筆者のように外資系、特に「金利」に関わったある者なら「やっぱりね...」が正直な感想。外債絡みの地銀の損失は報じられていたが、やっと ”本丸” が出てきた
「困ったらハイイールド(高金利債)は "N" に売れ」
外債セールスの連中はこれを合い言葉にせっせと "N" 参り。どんなジャンク債でも「金利」が高ければ買ってくれる、いわば "ラストリゾート" 的外債投資家だった。構図から言えば高利回りで売りまくって破綻した ”カボチャの馬車” ソックリなのだが "N" 側にも同情すべき事情もある
「マイナス金利解除」で「普通預金の利率が@0.001%から@0.02%に20倍になった!」などと騒いでいたが、どうもJAは様子が違う。JA預金の利率は@0.5%程度を ”保証” しているという話を聞いたことがあるし、系列の保険商品では最低利率@1%保証もあるらしい
これではJGB(日本国債)の運用では利払いを賄えない
結果的に米国債や外債に運用は向かわざるを得ないわけだが、問題は邦銀の「ドル」が足りないこと。だから「損切丸」のところにも外債セールスを通して「ドルを貸してくれ!」という話がワンサカ来て正直辟易していた。無担保で「ドル」は貸せないので選択肢はFXフォワード(為替直先)=3ヶ月や6ヶ月で「円」と「ドル」を交換するスワップ取引になる
FXフォワードは基本的に「円」と「ドル」の金利差でプライシングされるが、*邦銀が100兆円単位で動けば市場価格が歪む。いわゆる「ドルプレミアム」が市場で形成され一定のコストがかかる
*ちなみに外銀東京支店の多くはこの「ドルプレミアム」がまさに "ドル箱" 。「ドルプレミアム」=「円ディスカウント」であり、保有している「ドル」を「円転」すれば@▼0.20~▼0.30%の「円」に化ける。これを「日銀当座預金」に@0%で預ければ1兆円で年間+20~30億円の利益が転がり込む。まさに邦銀様々
”ドル債買ってるならドル円で儲かってるんじゃないの?”
「新NISA」で「オルカン」などを買っている個人投資家ならこの疑問は当然。金利上昇で債券価格が下落してもドル円はこの2年で+40%も「円安」に振れているのだからそんなに「損」するはずがない。ところがここには邦銀特有の事情が存在する
「国債資金為替部」
筆者が邦銀時代に所属した部署の名前だが、資金=「金利」と為替=「FX」は明確に部署が分けられていた。資金=「金利」は為替リスクを負ってはならず逆も然り。一種の "セクショナリズム" も働いており「金利」の一部である「外債」部門も為替リスクを負う事が出来ない。結果、FXフォワードを使った「ヘッジ付外債投資」となりドル高のメリットを享受できない
筆者が所属した邦銀では、かつてシンガポール支店でFXトレーダーの "独断" (そうではなかったという話も聞いている)で▼50億円も損失を被って問題になったことがあった。以来、邦銀のマネージメントには「為替リスクは怖い」という意識が浸透し、為替部門以外でFXリスクを取らせない体制を取るようになった
だが今回の損失額はFXのそれとは桁違い。長い期間に渡りバランスシートを蝕む「金利」は時に「為替」より怖ろしい
筆者が現役時代にはFRBによる「利上げ」もあったし日銀も2度「ゼロ金利解除」に挑んでいる。だから「金利」の怖ろしさもそれなりに認識していたが、アメリカのシリコンバレー銀行(SVB)やシグニチャーバンクの破綻に続いて日本の地銀や農林中金にもこんな事態が起きるのは「低金利時代」の弊害、厳しく言えば「ゼロ金利はいつまでも続く」というような「モラルハザード」(倫理の欠如)が起きていたと断じざるをえない
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そしてその「モラルハザード」の最たる例は「円金利」だろう。「金利が上がると変動金利ローンの住宅ローンが困る」なんていうのは ”倫理の欠如” そのもの。欧米は@4~5%で経済を回しているのに...。邦銀のみならず企業も財務省も個人も「金利に甘えるのはいい加減にして欲しい」
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幸か不幸か「円安」という ”黒船” がやって来てようやく日本人も目が覚めつつある。これからは税金ばかり取り立てる ”お上” 頼みではなく "自分の意志" で生きていく時代。JAの「預金利率」が高いのは ”大票田” としての政治的背景があると聞いているが「インフレ」はそんな "ふざけた事情" を許さない。今回の農中の1件はそういう「時代の転換」を象徴する出来事。やっと日本もここまできた
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