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不労所得? とんでもない...。 ー ”大家業” の話。

 「お金」で持っていても「インフレ」で価値は下がるし、安全と思われた国債も大荒れ、株もFXも上手くいかないとなると次に考えるのは「不動産投資」ではないだろうか。親から相続した土地やアパートを貸せば何の苦労もせず「不労所得」(働かずに得られる収入)が得られると考えている人もいるようだが、そう簡単な話ではなさそうだ。

 以下はアパート経営をしている知り合いから聞いた話。

 「コロナ危機」以降在宅勤務が増え、それまでは気にならなかった「音」に関するトラブルが増えていると言う。おまけに東京都心から人が流出し、1人世帯の部屋を中心に空室が増え ”大家業” も楽ではないらしい。

 確かに「音」の問題は感覚に個別差があり判断が難しい「騒音」トラブルがあって一方が「うるさくて眠れない」と訴えても、もう一方は「そんな音は出していない」と平行線になる事がほとんど。民法で「使用収益の目的義務」という項目が定められており、大家は入居人の生活環境を改善する義務を負っているが、「騒音」の対応は極めて厄介らしい。

 そしてややこしいのが隣の部屋の「騒音」には ”厳格” なのに、自分が出す「音」には ”寛容” な住居人がいることだそうだ。隣の「騒音」で悩んでいたから「音」に気を付けるかと思いきや、自分が「騒音」で訴えられると今度は「うちではない」の一点張り

 何かあるとすぐに警察に通報する住居人にも困ったもので、通報された側は心理的に圧迫される。結局1人の「トラブル入居人」がいることで他の住居人が出て行く羽目になり、建物の悪評が立てば新規の募集もままならない。「空室」が増えれば ”大家業” 崩壊の危機である。

 そこで「騒音基準」ついて調べてみた。環境省が定めている「基準」がこんな感じ ↓

 住宅地の「夜間」は「45デシベル以下」となっており、これはヒソヒソ話をしなければいけない図書館レベルこれだけ基準が厳格だと「騒音問題」も「大家」優位で進められそうなものだが、そうもいかないらしい。

 知り合いは「騒音問題」で司法書士や弁護士に、例えば賃貸業の「威力業務妨害」の損害賠償が可能かを聞いてみたが「簡単ではない」との答え。「音」に関しては正確に測定して「証拠」を記録した上で、「騒音」と「空室」の因果関係も証明しなければならない

 それでは「退去勧告」はどうか。これも「お金」の壁に阻まれる。

 「賃貸人(大家)と賃借人(住居人)の信頼が損なわれた」ことが要件という事だが、一般人が考えるよりこの "信頼" のハードルが高い①6ヶ月以上家賃を滞納②部屋を勝手に改造、等でないと法律的には動けないらしい。

 結局「大家」が泣く泣く「立ち退き料」を払うしかないが、その平均が何と「家賃5~7ヶ月分」。筆者の知り合いもこれ以上「空室」が出るよりマシと割り切って「お金」を払ったことがあるそうだ。どうしても立ち退かない場合に初めて弁護士先生のお出ましとなるが、その費用も「立ち退き料」と同額程度結局家賃1年分が持ち出しになるケースもあるという。

 根底には借りる方が強い「借地借家法」があり、借りる方の "ごね得" がまかり通る「大家」は ”泣き寝入り” するしかない。*「労働基準法」の解雇要件など日本では未だ「判官贔屓」の法律が根強く残っており、「昭和」以降抜本的な法改正が行われていない

 確かに筆者が大学生の頃は賃貸物件を探すのが大変で「駅徒歩10分以内」なんて夢のまた夢。そういう状況なら「判官贔屓」も判るが、今状況は「大家」<「居住者」にひっくり返っている。以前はまかり通った「礼金」なんてものも「大家」は取れなくなっているし、「空室」に困れば1~3ヶ月「フリーレント」(無料貸出)なんて物件もザラ。法律だけが状況の変化に追い付いておらず、日本はそんな事例ばかり。ちなみに外国では「大家」の権利が保証されており、退去の場合、逆に賃借人に契約期限までの「家賃」が請求されるケースもあるようだ。

 仮にこれを悪用しようと思えば、ごねるだけごねて「立ち退き料」をぶん捕ればいい。これを繰り返せばタダでアパートに住むことができる。知り合い曰く「騒音」トラブルに手慣れている感じの住居人もいるらしく、一度上手くいくと味を占めるのかもしれない。そんな ”方法” もあるのかと目から鱗だが、今の相場同様、混乱に乗じて儲けようとする輩はどこにでもいる。

 ちなみに銀行なら「ブラックリスト」が存在して「不良債務者」の情報は共有されるが、こういう不動産の「立ち退きトラブル」は難しい「大家」としては自分達の被害を防ぐために「不良賃借人」の情報を共有したいところだが、「個人情報」やプライバシーの問題が立ちはだかる。

 結局入居審査で①前に住んでいた所の間取り、家賃、居住年数②職業と就業年数③生活時間帯などを入念にチェックし、自分の賃貸物件に合う入居人を慎重に選ぶことに尽きる。とても感じが良かった人がトラブルを起こすこともままあるそうで「本人に会った印象だけではわからない」

 「アパートの ”大家さん” になって夢の利回り@8%台を実現!」

 こういう宣伝文句に興味を惹かれている方には、今回の note. 参考になるかも。世の中に「不労所得」なんてものは存在しないどんな投資にも固有の難しさがあり「法律」が壁になるケースが多い。憧れのFIRE(Financial Independence Retire Early)も意外と大変そうである。

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