銀行は知っている。
外資系投資銀行で働いた人なら経験があると思うが、月曜の朝トレーダーが突然呼び出される。仕事の準備で開いたデスクのパソコンもそのままだし、カバンなどの私物も置いたまま。夕方になっても帰ってこない...。
これは「首切り」の風景。特にマーケット業務に携わるトレーダーは電話一本で数百億~数千億円動かせるので、自棄になって変な事をしないように防ぐ措置でもある。「損切丸」もこれを最初に目にした時は驚いた。私物等は会社側があとで自宅に送る手続のため、デスクに戻る事すら許されない。
GAFAの1万人単位の「首切り」もかなりのインパクトだが、業績不振のCSは▼3,000人弱、MSの▼1,600人は全従業員の2%というからかなりの規模のリストラだ。こうなると*ボーナスより生き残り。また多くのトレーダーが業界から消えていく。
どうしてこんな話を持ち出したかというと、銀行という所は「お金」の流れを掴んでいて世の中の動きが先んじて見えるから。一時@7%を超えて不調に陥った住宅ローンのみならず、設備投資や企業貸出でも異変が見えているはず。FRBの「正念場」。- "見通し" 通りアメリカの人手不足は解消に向かうのか?|損切丸|note の判断にも大きな影響を及ぼしている。
日銀もFRBも中央銀行は民間銀行と相当密な話を交わしている。そこから得られる**「お金」の ”生” の情報は金融政策において最高の先行指標になる。リストラに関しても、千人単位の「首切り」を決行するには確証も必要であり、それ自体がリセッションへの警鐘でもある。
上がらない米国債金利はそう言う状況を映し出す "鏡" でもあり、米国のリセッションリスクは我々日本人が考えているより深刻なのかもしれない。激しい上下動を繰り返しながらも@120ドル台 → @74ドル台(直近)まで下げてきたWTI(NY原油先物)も然り、米銀が主張する「株価の調整はまだ終わっていない」も同根だ。
「銀行員にだけはなりたくない」
就職活動当時(1987年)筆者はそう強く思っていた。その理由が:
皮肉にも就職面接でガンガン通ったのが銀行で結局今に至っている。「一番嫌いなモノが実は一番好きなモノ」と言うが、多分「お金」の仕事が「損切丸」に向いていたのだろう(最終的には銀行らしくない ”斬った張った” の世界に行ったので結果オーライ)。
ただ銀行が社会人としての基礎を叩き込んでくれた事には感謝している。特に東上野の支店で3年半、 ”倒産” とか ”夜逃げ” とか「お金」の "リアル" が見れたことは「財産」。 "現場" での100万円、1,000万円は重い。電話一本、ボタン1つで数百億、数千億動かす投資銀行業務から入っていたら勘違いしていたかもしれない。 マーケットや相場の見え方が投資銀行一本の他のトレーダーとひと味違ったのはそのせいだろう。
アメリカでも日本でも国債市場の動向は銀行の動きで決まる。それは「お金」の出所であるからに他ならず、彼らが国債を売る時は金利は上がるし、買う時は下がる。
米銀の元締めであるFRBが買うのを止めて米銀が売った結果、米国債は2年間で@0% → @4%台まで金利が上昇。日銀が発行残高の半分を買占めたJGBが異常な低金利なのも当然だろう。ただ「国債無制限買取オペ」で抑え付けた8~10年(含.チーペスト)以外の5年や20~30年で金利が上がってきた事は、ダムからちょろちょろ水が漏れ出した証拠。そろそろ危ない。
経験から言うと米銀が大規模な「首切り」に動く時は例外なくマーケット環境が悪く不景気に突入した。2022年も稀に見る「酷い年」だったが、2023年も儲からないと見込んだ上でのリストラ決行だろう。この辺の感覚はFRBも共有しているはず。
銀行は知っている。
11月の雇用統計やISM指数のように個別の経済指標の強弱はあるが、パウエル議長がスピーチで表明したように、2023年はかなりの "覚悟" が要る。今回の日本サッカーでは無いが、前半は守りに徹して我慢、後半カウンター攻撃で勝負、そういう展開になりそうである。
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