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不可解な倒産と「消えたお金」。 ー 法律事務所(日)で▼51億円、オンライン決済会社で▼19億ユーロ(約2300億円、独)...。

 4月以降の株価の急反発ですっかり影を潜めていた「信用リスク」。しかしウィルス同様、消えてしまったわけではなく表面下で燻っていたようだ。日本とドイツで「消えたお金」の事件があったので、久しぶりに少し書いてみよう。

主要株価 26 Jun 20

 まずは日本。この10年程だろうか、「過払金請求はXXXX事務所へ」といった広告がテレビ、ラジオで多く流れていたが、そのCMでお馴染みの某・法律事務所が経営破綻したという。最も驚いたのが「負債総額51億円」

 「弁護士事務所で51億円の借金??」

 銀行の融資担当者なら誰でも首を捻るだろう。弁護士と言えば、それなりの方なら1時間で数万円も取る先生がいらしゃっる「肩書きビジネス」。設備投資もなく手数料が儲かるだけの商売のはずだ。それが億単位の借金って。銀行員なら怪訝に思うのが自然だ。

 だが様々な記事を読むうちに少しカラクリがわかった。 は概ねの想定で書いた「スキーム図」だ。

法律事務所スキーム

 最近某・広告代理店の「中抜き」が問題になったが、今回は別途設立された「広告会社」(実質本社)を使った「トンネルスキーム」らしい。法律事務所には架空で多めの金利手数料を計上しつつ、実際は「広告会社」を通して利益を蓄積していったのだろう。

 表面的に法律事務所は赤字にはならないが、実体は「債務超過」でそれを「借入」で消してしまうやり方だ。それほど手は込んでいないが、「広告・手数料」支払いや「借入」の時期をばらして計上すると見つかりにくい

 そしてこれを何年にも渡って破綻に至った最終形がこれ。

法律事務所スキーム(破綻時)

 つまり債務超過分の「51億円」は役員報酬や接待費などで消えてしまい、広告会社からの「借入」として残っている。「夜の街」や高級外車に化けてしまったのかもしれず、まさに「消えた金」。破綻間際は資金繰りが回らなくなり、債権回収を頼んだ顧客が損失を被ったのではないか。

 大体「損失」を「借金」で埋めようとするのが「破綻」「倒産」の王道パターンである。2020.4.27.「銀行、出番ですよ。」で紹介した「融通手形」も発想は同じ。決してお金を貸してはいけない対象の典型だ。

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 そして大分規模が大きくなってドイツの「オンライン決済会社」、いわゆる「フィンテック」企業の「Wirecard」。こちらの「消えたお金」19億ユーロ(約2,300億円)にも上り、日本からはソフトバンクが出資していた。

 様子がおかしくなったのは2019年から。マーケットでは①9月に普通社債500億ユーロ発行②11月にソフトバンク転換社債(Convetible Bond)900億ユーロを引受、辺りから雲行きが怪しくなった。

 「どうもあの会社は資金繰りが苦しいらしい。」

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 その後おかしな事態がまだ続く。ECBの政策金利が@-0.50%なのに顧客向け預金金利を@+0.75%に引上げてお金を集めまくった。企業と国で違いはあるが、預金流出危機に瀕したキプロスが金利を引上げたのと似ている。

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 おそらく投資に失敗したのを隠蔽して、やはり「損失」を「資金繰り」でカバーしようとしたのだろうが、しかしやはり上手くいく訳がない。こちらはドイツの銀行界や政府を巻き込んでちょっとした騒ぎになっている。

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 こういった危機は伝染する(パンデミック)ので、もちろん未然に防いだ方がいい。特に「銀行」が破綻した場合はデフォルト連鎖のスピードと規模は桁違いになる。自動車や住宅産業など裾野が広い業種も警戒が必要だ。だがその一方、好況時には見つかりにくい「粉飾」や「悪事」を暴き出すという「功」もある。「蓋を開けてビックリ」のようなことが良くあるが、今回の日独の2例がそうだろう。潰れてみないとわからないものである。

 個人も会社も国も「資金繰り」に詰まると足掻く「生活が...」「家族が...」というのが粘る根拠になっているが、トレードの「損切り」と一緒で早く見切った方が傷が浅い、ということもある。インチキをしたり他人のせいにするようになったら潮時だろう。端で見ていても「コロナ時代」にそぐわない仕事がかなりあるような気がするのだが...。

 リスクを取って投資やトレードをしてみると生きる上での教訓を得られることも多い。「損切り」に追い詰められたりすると「自分がどんな人間か」よくわかるし、いざ「損切り」してみると我に返ったりする。

 「何でこんなポジションに拘っていたのか」

 こういう危機はピンチでもあるが、同時に何かをやり直すチャンスでもある。今の「ポジション」、実はそんなに大したものではないのかも?

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