ユーロ

ヨーロッパがおかしい - 遂に個人預金にマイナス金利が適用へ。富裕層の資金は株へ向かうのか?

 どうもヨーロッパがおかしい。まず筆頭国のドイツの景況感が惨憺たる状況だ。10月のドイツ製造業購買担当者景気指数(PMI)改定値は42.1で前月の41.7からは改善したものの、景況拡大と悪化の節目となる50を引き続き大きく下回る状態が続いている。車などの中国向け輸出が多いドイツが中国の景況感悪化の影響をまともにくらった印象だ。

 この他フランスは50.7と前月の50.1から上昇し、かろうじて50台を維持しているが、イタリアは13カ月連続、スペインは5カ月連続で低下している。ヨーロッパ全体ではBREXITによるイギリス離脱の悪影響もあるだろう。

 このような状況を受けて、ECBは9月に-0.10%の追加利下げ=-0.40% → -0.50%に踏み切った。これはユーロ圏の銀行にとってはECBの準備預金に-0.50%を課されることになり、コスト増による収益悪化に直結する。そしてついにこれまで法人にのみ適用していたマイナス金利付利を*個人預金にも適用する動きが広まっている。 ↓ はその一例である。

ヨーロッパマイナス金利

 *想像してみて欲しい。仮に2億円持っているとすると(例えば年末ジャンボ宝くじに当たった、etc.)、銀行においておくだけで「利息」として年間-80~-150万円も持って行かれ、「持ち出し」は今後更に増えるかもしれない。果たして我慢できるだろうか?普通は大きな買い物をしたり、残りは投資に回したりして少しでも目減りを減らそうとするはずだ。

 投資としては不動産なども有力で、まずは自宅を買うのが有効賃貸で家賃を払っている人はその分が100%収入となるので確実な投資だ。セカンドハウス以降は人に貸すなどの手間がいるし空室リスクあるので必ずしも有効とは限らない。手間がなく利回りなどを配当として得られるREITも良いが、市場のサイズが小さく受け皿としては不十分。そうするとやはり株が資金の主な受け皿になりそうだ。価格変動リスクはあるものの配当や株主優待等、曲がりなりにもプラスのリターンは見込める。そこで景況感が比較的良い主要な株式市場となると、やはり日本とアメリカが浮上する。

 「景況感が悪化しているのに株価が上がるのはおかしい!」

 これが日経平均やNYダウに売り向かっている投資家やトレーダーの主張。理屈はそうかもしれないが、やはり大きな見落としをしている。株価が上がるのは景況感や業績だけではない。ポイントは2つある:

 1.キャッシュフロー

 こういうことを言うと怒られるかもしれないが、市場を動かしているのはお金持ちである(拙著.「お金のマニュアル」 -損をしないコツ- 其ノ6 お金持ちの理屈もご参照)。残念ながら100万円ぐらいのお金で市場は動いたりしない。ここは-0.40~-0.75%をチャージされるヨーロッパの富裕層の気持ちになって考えてみるのが、市場を見るときのコツ。日本ならさしずめ**ソフトバンクの孫社長の気持ちになってみる、だろうか。

 お金持ちは自分の資産が減る事を最も嫌う。何も努力もせずにただ銀行にマイナス金利で抜かれるなど、とても堪えられまい。彼らにとってマイナス金利は資産課税そのもの。だから多少割高だと思っても株などのリスク資産にお金を振り向けていくだろう。

 **孫社長が500億円もビットコインを買って話題になったことがあったが、おそらく株など他のリスク資産には既に十分投資しているので、余った資金を投入したのではないか。現金や預金よりはまし、ぐらいの感覚かも。

 これが皮肉な物で、富裕層は独自のネットワークがあり、大量の資金が同じような投資に一気に動く。結果としてそれがマーケットのトレンドになり、お金持ちはどんどんお金持ちになってしまう。ネットワークから外れている我々「小市民」は取り残され、***間違った思い込みからなけなしのお金を失っていく。これで「貧富の格差」の完成である。

 ***大体は大衆メディアのずれた投資の解説や喧伝が原因。例えば「不思議に上がり続ける株価」について、誰が買っているのか、あるいはなぜ買われるのか、といった事実検証も行わずに、やたら「これはおかしい」と、PERなどの数値を並べてしたり顔で書いたような記事。記事の客観性よりも読んでいる人の「気持ち」に訴えかける手法だ。一時的に耳目を集めるかもしれないが、結果が伴わなければいずれ淘汰されていく。彼らが「割高」と糾弾した価格で実際に株を買っている投資家はいるわけで、その後利益を上げたりもしている。恨みや妬みで儲かったりはしない。「事実」に基づいているのかどうか - 記事や解説を読む方もきちんと見極めなければならない。大切なお金を投じるのならなおさらだ。

 2.「インフレ政策」

 まさにこういう富裕層の動きを先導してインフレを起こそう、というのが現在の日米欧の金融当局の狙い。リーマンショック以降の膨大な財政支出の穴埋めにはこれしかないだろう。業績が悪くても、値付けの元になっているお金そのものの価値が下がれば、物価との比較で株価は上がる

 ただ株を買っている方も、株が上がっているだけでは儲けが確定しないことに注意が必要だ。例えば日経平均が10,000円から20,000円と倍になっても、その間、例えば100万円の車が200万に値上がりすればリターンはゼロである。ただお金の目減りを防いだことにはなるが。

 今「むきになって」株に売り向かっている筋のほとんどがこの2点を理解していないのではないか。割高だ、バブルだ、と囃すのは自由だが、1980~1990年代の「本物」を生きてきた筆者に言わせれば、こんなのはバブルなどでは断じてない1,000兆円にも及ぶ預貯金がその証拠であり、むしろ株買いの予備軍ですらある。日本で株を買っている人の比率などまだまだ低く、「お隣の奥さん」まで株に熱狂していた「バブル期」とは雲泥の差だ。

 さてヨーロッパに話を戻すと、マイナス金利の深掘りは今の正しい処方箋ではないと思う。資産課税を強化しても景気は良くならない。あまりにも長期間に渡って金融緩和の効果が出ないため、そういう議論も最近では増えてきているようだ。実質金利の低さ ↓ を考えると、適切な財政出動が特にドイツに必要と感じる。。日米と比較してもドイツの現在の実質金利は圧倒的に低く、少なくとも日本と並ぶまでは財政出動の余力があると言える。

実質金利G3

 ただ、ドイツは歴史的に中央銀行であるブンデスバンクが「インフレファイター」として名を馳せており、財政規律にも厳しいことで有名だ。ユーロ創設時も、いわゆる「EU基準」作成の時に擦った揉んだがあり、今もギリシャなどとの揉め事の種になっている。イギリスがBREXITに傾いたのも、この「ドイツ基準」が原因の一つとも言われている。筆者はMMT(現代貨幣理論)支持者ではないが、事ここに至っては財政出動やむなし、だろう。

 翻って日本。預金者に対する「コスト転嫁」の波が確実に迫っている「マイナス金利」は一般預金者にとってあまりにも衝撃が強いため****「口座維持手数料」などの名目でチャージしてきそうだ。「インフレによる価値の減少」のリスクもありいずれにしろ「安全資産」であるはずの預貯金が「目減り資産」となる日は近い。

 ****今でも銀行の振込手数料は異常に高い。ATMで「行員に代わって機械操作をしてあげているのに、何で逆に手数料取られるの?」と憤慨されている方も多いのではないか。まあ、カード決済にキャッシュレスが普及すればその手数料収入も「絵に描いた餅」デジタル通貨ブロックチェーンが普及すれば、銀行の振込、送金ビジネスが死に体になるのは必定だろう。

 預貯金・現金の「インフレによる価値の減少」+「資産課税」に備えて、自分のお金をどうするのか、今後10年ぐらいを見据えてシミュレーションをしておくのがお勧め。日本の銀行には収益的な余裕がない「コスト転嫁」はそれほど先の話ではないはずだ。

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