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中国にとって「金の卵」香港。

 筆者は1994~1995年、転勤で1年間香港に住んでいたことがある。九龍側ではなく香港島のコーン・ヒル(康怡花園)という、「タワーマンション」の一室を社宅として借りていたが、まあ狭い「国」だった。タクシーで島を1周するのに2時間かからなかったと思う。それに比べると「東京」はかなりの「巨大都市」だ。

 今その「香港」を巡って大騒動が起きている。こんな小さな「地域」がなぜそんな世界的な騒ぎになるのか。答えは「香港」「金の卵」だからだ。

 2019年のIPOランキングで香港は堂々の世界一。日本でもソフトバンクが大型投資を行ったことで有名なアリババなど大型案件が引っ張った格好だ。成長著しい中国企業がお金を調達するための窓口として非常に大きな役割を果たしていることがわかる。

 IPO(Initial Public Offering、新規公開株)ランキング 2019年

 1位   香港  372億ドル e.g.    アリババ  129億ドル

 2位   上海  270億ドル e.g.  中国郵政儲蓄銀行 40億ドル

 3位 ナスダック 268億ドル e.g.    ウーバー   81億ドル

 香港の株式時価総額は2020年2月時点で500兆円を上回っており2019年前半は一時東京を抜いて世界3位にまで躍り出たほど。今でも中国では上海と並ぶ主要な株式市場である。

株式市場時価総額 2020.2

株式市場時価総額(アジア)2020.2

 つまり「香港」は中国にとっても、欧米、日本等他国にとっても「ただのちっぽけな島」ではないのである。特に民間・政府で40兆ドルを超える巨額債務を抱える中国にとってはまさに「金の卵」この島が運んでくる「お金」、特に「米ドル」は中国経済の命運を左右するといってもいい。実際欧米や日本から巨額の投資資金を呼び込み、中国経済を支えている。

 その重要性は欧米、日本などにとっても同じ「香港」に異変があれば、東京やロンドン、NYなども無傷ではいられないだろう。トランプ大統領は今回中国による「国家安全法」に対して「制裁」をちらつかせているが、米国投資家の利益を考えると、実は大変難しい措置になると思う。

 ただ中国にとっても今回の「香港弾圧」は諸刃の剣だ。香港が自由主義経済に近い運営が為されていることが「金の卵」たる所以であるのに、国家主義で押さえつけること自体が香港の市場として価値を落としてしまう 「金の卵」は生まなくなってしまう。

 最近中国の債務/預金モデルを作ってみて感じるのは、見た目の強気とは裏腹に中国政府が追い詰められているのではないか、ということ。債務残高はGDPの303%に及びもうこれ以上借金を大幅に増やすのは無理。今後も「資金繰り」を続けるためにも「香港」は機能し続けなくてはならない

中国公司(+純資産)

 実際このような事態を想定してか、ハンセン指数アリババ、シャオミ(小米集団)、美団点評3社の株を組み込めるように規定を改正したばかり。香港の金融機能を維持しようと対策は打ってきている。

 中国国内には7,000万人もの失業者が国内に溢れているともいわれている。「香港」の自由を容認すれば、国内の不満は「ウイグル」「チベット」などにも飛び火しかねず、対「台湾」政策にも影響は必至だ。「内ゲバ国家」中国では内乱リスクを常に抱えており、ひとつさじ加減を間違えれば敵対勢力に足元をすくわれかねない。「国内問題」は極めて重要だ。

 今回の「香港」イジメも考えようによっては「上海・北京閥」の習主席が宿敵・「香港・広東閥」を叩いていると考える事もできる。

 アメリカでは株価が大きく戻し危機も一旦去ったような印象が拡がっているが、実体経済ではデフォルトも相次ぎ雇用も停滞したまま。パンデミック「第2波」の到来も予測され、まだまだ何があるかわからない。

 このような情勢下、「資金繰り」我慢の勝負になればまだまだ中国には分が悪い。そんな中での「香港問題」強行対応は「金の卵」をつぶし、柔軟対応は「内乱リスク」を孕む。大きなジレンマである。

 対するアメリカ陣営は、この中国の内向きの力が軍事的に外に向かうことを警戒しているはず(むしろ歓迎?戦争は勘弁して欲しい)。今後も半導体等戦略的物資を中心に**サプライチェーン再構築を進めてくるだろう。

 **「ライジング・サン」の頃、日本も「ココム違反」などでやられた過去があるが、アメリカも覇権がかかればとことんやってくる国だ。それ以降の日本の凋落ぶりをみれば、その恐ろしさは身に染みているはず。

 ともかく「香港問題」をはじめ、中国からは目を離せない状況が続く。情報不足で外からはわかりにくい国ではあるが、彼の国の文化や考え方、国内事情をある程度理解しながら、***本当は何が起こっているのか、よくよく吟味しながら見ていきたい。

 ***今日(5/26)人民元の為替レートが1ドル=@7.16の安値を更新している事実は政治的なニュースよりも余程価値が高い。過去に中国当局が輸出を有利にするため人民元安に誘導していた事もあったが今回は違うのではないかサプライチェーンから外れて中国製品が売れなくなれば人民元安が進むことになる。むしろこの段階での人民元安は資産減少など国民の不満を高めてしまうかもしれない。もう気軽に日本旅行などできなくなる。日本でも「インバウンド」依存の業種は更に経営が苦しくなるだろう。

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