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日本の資金繰り研究Ⅲ - 日銀も財務省も「お金」は調達しなければならない。

 マーケット現役中「資金繰り」をスタッフにを教えた事があったが、結構時間が掛かった。「習うより慣れろ」が基本なので、繰り返しのようで恐縮だが今回は「日銀」を中心題材にもう少し突っ込んで解説してみる。

 まずは日銀のバランスシートについて。2019年上半期末。

日銀バランスシート@2019・9

 標題添付の「日本の収支」を通して何度か説明を重ねてきたが、「異次元緩和」を行うためには巨額のお金が必要だ。では一体500兆円にも上る「お金」を日銀はどこから「調達」しているのか?

 日銀は業務内容が限られているのでバランスシートは至ってシンプル。購入した「国債」「ETF」「REIT」などは「資産」に計上され、その「お金」は「負債」の*「預金」**「日本銀行券」で殆ど賄われている

 日銀の「預金」のほとんどは市中銀行が預ける「当座預金」。現在、①10兆円ほどの準備預金には@+0.10%、②それを超える超過準備預金には@-0.10%(利息は徴収)付利されている。つまり銀行は年間4,000億円もの「マイナス金利」を日銀に払っている
 **「日本銀行券」はいわゆる「現金」=日銀が市中に供給して流通する紙幣・貨幣「現金」を多く引き出せば「銀行券」は増え、電子決済が普及すれば減る。端的に言えば「銀行券」という証券を買って貰っているようなものだ。極論だが、仮に「コロナ後」107兆円の「銀行券」を使い切ってしまえば紙幣・貨幣は日銀に還流し、107兆円もの資金を再調達しなければいけなくなる

 このシリーズでは繰り返し解説してきたが、500兆円にも及ぶ「異次元緩和」が可能なのは1,100兆円にも及ぶ「お金」=銀行券+預金があるから。***国債金利が低位安定しているのもそのお陰といって良いだろう。

 ***ちなみに「異次元緩和」「マイナス金利」はアルゼンチンやトルコでも技術的には採用可能だ。景気が悪いのだから大胆な金融緩和をしたいのはやまやまだが、残念ながら彼らには国内に十分な「お金」がない。金融緩和のための「お金」を国外から借りてくるしかないが、利下げは通貨安を誘発し、金利上昇を起こしやすい。自己矛盾(ジレンマ)である

バランスシート比較

 ここで「コロナ危機」が「預金大国」日本に与えるインパクトを想定:

 ①「緊急事態宣言」で経済活動がストップ

 ② 個人も企業も保有する「現金」「預貯金」を取り崩して食いつなぐ

 ③日銀の「銀行券」「預金」(負債)が減少。

 ④減った分の「お金」を市場から再調達する必要が発生

 ④の方法としては:

 A.「マネーマーケット」に対して資金吸収オペをする。

 B.  保有資産の「国債」「株」等を売却する。

 C. ****外貨準備で円を買い戻す。

 ****外貨準備とは「為替介入」で得た外貨の事。日本では財務省理財局で「外国為替特別会計」として管理され、ドルを中心に120兆円余りを主に米国債で運用、日米の金利差から収益を上げている。介入で「売るための円」はFBと呼ばれる「政府短期証券」を発行して市場から調達している。

外国為替特別会計バランスシート@2019・3

 幸い4月末の時点では、企業・個人が前倒しで資産処分と借入を増やして手元現金を厚くしたため、日銀は資金調達する必要には迫られていない。ただ今後不況が長引いて倒産が多発したりすれば、かなりの金額の「取り崩し」が起こるだろう。50兆円、100兆円単位でお金が使われていけば、いずれ上記 A~C のような資金調達を迫られる

 ただその時は日本全体で「お金」が不足している「厳しい状況」なので金利は上がらざるを得ない国外から調達するとなれば一定の金利も求められることになる。「異次元緩和」「低金利」の終焉である。

実質金利G8(after CDS)@25 May 20

 それから「現代貨幣理論」MMT、Modern Monetary Theory)に対して「資金繰り」の観点から一言。確かに自国通貨建債務なのだからデフォルトはない、というのは間違ってはいない。しかし大事な点が欠落している。

 どうやって(誰から)そのお金を調達する(借りる)のか?

 「紙幣をドンドン刷れば良い」のような議論があるようだが、需要もないのにどうやって紙幣の流通量を増やすのか? MMTを主張する学者さんは一度日銀や財務省の「資金繰り」の現場で仕事をしてみるといい。少しは考えが変わるかもしれない。

 ただ紙幣の流通量を強制的に増やす方法がないわけでもない。ヒントは今回のような「10万円」を一律にばらまく交付金方式だ。

 仮に「10万円」ではなく「1億円」ばらまいたらどうなるか?(総額1.2京円)。何の対価もなく突然「1億円」振り込まれたら人々が消費に走るのは明白。土地も株も商品も値段が急騰するだろう。つまり「インフレ」だ。「お金」が圧倒的に増えるのだから当然と言えば当然だが、早く何かを買わないと「1億円」は「100円」ぐらいの価値になってしまうかもしれない

 これは絵空事ではない。実際にジンバブエベネズエラで起きているし、トルコなども通貨安で大変だ。歴史上も①第一次世界大戦後のドイツのハイパーインフレ②1946年の日本の「預金封鎖」等の実例もある。

 それ程現在の世界的な債務の膨張は凄まじいリーマンショックの尻ぬぐいも出来ていないうちに更に大きな「コロナショック」に見舞われてしまった。ここまでは金融技術の発達などで何とかやり繰りしてきた印象だが、それも限界が近づいていると思う。特にGDPの3倍を超える中国の民間+国家債務を見ると空恐ろしくなる。

バランスシート比較(アジア)

 主要国の中央銀行、財務官僚などのトップレベルでは、この「資金繰り」リスクの問題意識は既に共有しているはずだ。「お金持ち」日本でさえギリギリの状況になってきているし、既に某かの話し合いが持たれているかもしれない(当然メディアなど表には出せない)。まともな方法でこの巨額債務を解消するのはもう無理だ。

 解決策としては「穏やかなインフレ」が望ましいが、上手くいかなかったときの混乱を考えると「債務再編」が現実的かもしれない。例えば「新通貨切換」により旧通貨との「不等価交換」、e.g. 旧通貨1,000円→新通貨500円のように貨幣価値+債務を減価。共通の「デジタル通貨」発行などはそのきっかけには使いやすい。例えば「切換手数料」の名目で徴収する等。

 それ以外の破滅的なシナリオとして「戦争」もありうる。今の中国の軍事行動や香港、台湾を巡る情勢を見ているとあながち無いとも言い切れない。「金」(Gold)の上昇はそういう雰囲気を反映しているのかもしれない。

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