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「こわれもの」(Fragile)。

 今の相場を見ていて思い浮かんだ言葉が「こわれもの」。標題  添付のジャケットとタイトルを見てすぐにピンときた人は往年の ”プログレ” (Progressive Rock)ファン。おそらく筆者(58歳)と同世代か上の人だ。

 元・専門家としては習性(苦笑)として見入ってしまうが、3ヶ月~2年の米国債を見ていると倒れそうになる「利上げ続行」「利上げ無し」の間を行ったり来たりしており、こんな短い期間の金利が毎日±0.20%も変動するのは異例中の異例だ。日経平均で言えば毎日±2,000円上下動を繰り返すようなもの。まともな神経ではつきあえない。

 苦境に立たされている米銀が牛耳る米国債市場なので仕方がない面もあるが、現状3/22FOMCでは「利上げ無し」に思いっ切り傾いている「こんな状況で利上げなんかできるわけないだろ!!」と言ったところだろうが、さて。実際ECBは予定通り+0.50%「利上げ」を ”強行” している。

 金融市場の安定化を図るための金融政策を「プルーデンス」(Prudence)と呼ぶが、これは「金利」政策とは一線を画す。今回のような事態では銀行の「資金繰り」が焦点となるため、「お金」をたくさん出す「量的政策」が中心になる。実際FRBによる連銀窓口貸出(ディスカウントウィンドウ)が過去最大の1,528.5億ドル≓22兆円に膨らんだが、殆どが*シリコンバレーバンク(SVB)、シグニチャーバンク、それと今 "狙われている" ファーストリパブリックバンク(FRC)関連だろう。

 その他にも米銀大手11行が300億ドル≓4兆円をFRCに「預金」すると発表したが、本来はインターバンク(銀行間)市場で取引すればいいだけ。機微情報である「資金繰り」を開示するのは "御法度" のはずだが、こんなことを公表しなければいけないところに銀行業界の「モラルハザード」(職業倫理の欠如)の "闇" と相変わらずの "傲慢さ" を感じる。

 今回の相場展開を見ていると山一証券や北海道拓殖銀行が破綻した日本の「金融危機」時の相場が想起される。株価が@100円を切った銀行株がオモチャにされたが、ドラマのヒットに伴って「ハゲタカ」なる呼称も浸透した。まあいつの時代も混乱に乗じて儲けようとする輩はいるわけで、今回の米銀あるいはクレディスイスを巡る相場にも類似性がある。

 ただ今回大きく違うのは 銀行が潰れるとどうなるのか? ー 高度化したRTGS(即時グロス決済)。|損切丸|note で解説したように、決済システムが高度化されており、リーマンショック(2008)後の「バーゼルⅢ」等で銀行の資本、流動性=「資金繰り」が格段に強化されていること。特に後者で銀行は一定の「流動性バッファー」保有を義務づけられており、中央銀行から見るとまだ ”緊急事態” ではないはず。ECBが+0.50%「利上げ」を ”強行” したのはそのためで、それはFRBも同じだ。

 皮肉なのはこの「プルーデンス」政策強化が逆に+0.75%「利上げ」×4回などという ”世紀の利上げ” を可能にした事。AI等システム全体が高度化することで「危機」の伝播速度も上がっており、その点はパウエル議長にも反省点として残る。もっとも元・弁護士の議長が頼る前例がボルカー議長の政策だけだった事には同情の余地もある。「コロナ後」ということもあり、誰が指揮を執ってもかなりの難題だったことは間違いない。

 NYダウもナスダックもFXも ”火事場泥棒” 的な相場が続いており、今後当局もかなり慎重な対応が求められる。正誤は別にしてSNS等を通じて「情報」が瞬時に拡散する現代では、ちょっとした伝達ミスが命取りにもなる。まさに「新時代」の金融政策

 そんな荒れる相場の中、実は着実に進んでいる "FACT"(事実)がある。「円高」と「ビットコイン(BTC)高」、それに「原油安」である。

 前者2つについては「お金」の逃避先として選好されている面がある。リーマンショック時もそうだったが、邦銀は欧米銀のような無理なリスクテイクは行っておらず、ヘッジファンド等 ”ヤバイ” 先との付き合いも少ない。そういう観点から「有事の円」が復活しているのだろう。BTCについてはGOLD(金)に連動していることもあるが、投資家が既にかなり「損切り」を終えており、ポジションが軽くなっているという事情もある。ただそもそもが ”Fragile" なので明日どうなるかは誰にもわからない。

 「原油安」はちょっと事情が異なる。

 中国の仲立ちでイランとサウジアラビアが "握手" した時は「米国ピンチ」のような報道が相次いだが、筆者の味方は真逆だ。シェールガスなどでエネルギー源を確保しているアメリカは既に中東は不要それに怒ったサウジアラビアが行動に出たのが "FACT" であり、今回の "握手" はその現れ。

 更に言えば、 "彼の国" が「戦争」を起こしたのも同根であり「ルーブル安」もジワジワ進んでいる実は追い込まれているのは産油国の方で、王族や独裁者の優雅な生活が脅かされて懸命に抗っている。そもそも「利上げ」はこの「戦争」で「お金の武器」として使っている面もあり、「原油安」を見る限りアメリカに分がある。実際の「戦争」にも影響が出るだろう。

 それでも「新時代」の危機は何が起るか、経験則が通じない部分もあり予断を持たずに臨む必要がある。最終的には 3京円もの「大借金」のツケは一体誰が払うのか?。ー 急浮上した銀行の「信用問題」。|損切丸|note ということなのだが、筆者も倒れない程度に(苦笑)ドルの短期金利を注視していこうと思う。何かヒントが掴めるかもしれない。


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