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今すぐ実らなくとも。山下歩さんが教えてくれた、未来に“ボール”を投げる大切さ

お金の学校『toi』は、参加者の「お金」にまつわる悩みや夢を、校長・井上拓美&MC・くいしんと様々なゲストを交えて本気で考えることで、それぞれに必要な“問い”を一緒に探していく学校です。このnoteでは、メンバーの一員でもあるライターが講義を聞き、感じたこと、気づきや学びについて記録していきます。
ライター:高城つかさ
1998年生まれ。家庭の事情で大学を中退後、2018年7月より本格的にライターとして活動開始。「言葉と人生」を掲げ、さまざまな人の人生を言葉という手段で届ける仕事をしています。さいきん興味があるのは場づくり。

Zoomのチャット欄に貼られたアンケートのURLを開く。課題という名の問いは「今のお金に満足しているかどうか」、「それはなぜなのか」。

画面を見つめて、うーん、と考えてみたけれど、即答できない時点で「いいえ」だなと打ち込んでみた。理由は……、ぱっと思い浮かんだのは「やりたいことがどうお金につながるのか分からないから」かな。

“やりたいこと”を叶えるには、時間やお金がかかる。今を生き抜くので精一杯なわたしは、足りないものについて考えていくうちに「わたしには何もないんだ」と自己嫌悪に陥ってしまう。今、自分の手元にあるものについては、一切“なかったこと”にしてしまう。

思い悩むと最後にいつも頭に浮かんでくるのは、「どうせ私には無理だ」という気持ち。そんな感情を忘れるためにも、せっせと予定を詰める。ひたすら働く。ただ時間だけが過ぎてゆく。

現在、わたしはライターをしている。家庭の事情で大学を半年で中退しなければならなくなり会社に属したものの、すぐに体調を崩し、自営業の道を歩み始めた。来年、4年目を迎える。

大学4年生の友人らはみんな口を揃えて「つかさは好きなことを仕事にできていいなあ」「自由にやりたいことをできていいなあ」と言ってくれる。

舞台や暮らしなど“好き”な分野を仕事にできているし、その言葉はうれしいのだけれど、わたし自身はというと、何が“好き”なのかも、“やりたいこと”がどのように仕事やお金につながるのかも、分からないままだ。

いつの日か“雑草魂”と喩えられたことがあるくらい、わたしは「自分の力だけで生きていかなければいけない」と幼い頃から思っていた。家族に養ってもらっている時点で“好き”という感情や“やりたいこと”を叶えたいという欲求を持つべきではないのだ、とも。

“やりたいこと”があるのなら、それをつかもうと思い切ってジャンプしてみることが大切なのかもしれないけれど、わたしには、それができなかった。稼げること、安定していることが、いつも前提としてある。

安定を求める理由として、両親が離婚をしたあと、払える状況にいるにもかかわらず、父から養育費をもらえなかったことはかなり大きい。

幸い、お金には困らなかったけれど、お金について負の感情を抱き育ったからか、中学生のときには「離婚しても女手ひとつで子どもを育てられるくらいお金を貯める」と宣言していた。

こう振り返ると、わたしはお金にかなり強い執着心がある。“好き”なこと、“やりたいこと”を仕事にしているように見られることが多い今も、それらは「考えてはいけない」ものなのだと、心のどこかで思っているのかもしれない。

安定を求めてしまうと言いながらも、お金の管理が苦手な面もあって、貯金もできなければ、支払いに追われる毎日を送っているから、きっと、ここで並べた出来事も言い訳のひとつに過ぎない。

頭では分かっているのに、なぜ動けないのか。“やりたいこと”について考えようとすると、なぜ頭が混乱してしまうのか。

それは“今すぐ”、“そばにあるもの”で形にしようとしていたからなのかもしれない、と山下歩さんの講義を通して感じた。


自分と向き合うために、未来にボールを投げる

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ゲスト講師:山下歩

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沖縄県を拠点に、動画クリエイター・ミュージシャンとして活動する山下歩さん。YouTubeのチャンネル登録者数は17万人に及ぶ。

いわゆる“好き”を仕事にしているように見えるけれど、山下さんは冒頭で触れた課題で、現在稼いでいるお金に満足「していない」と答えた。

山下:
人間って、動物的な部分で『もっと稼ぎたい』と考えてしまうと思うんだよね。もう充分暮らしていけるのに、機会さえあれば、もっとお金がほしいと思ってしまう。僕は、そういう思考と向き合わないといけないと考えているんです。

井上:
その思考が抜けないことで、困っていることはあるの?

山下:
“やりたいこと”が浮かんだときに、自分が描く楽しい理想を形作っていきたいけど、資本主義のなかで何かしらの価値を見出して“お金”にしないといけないと思うと、「やりたい!」という熱いパッションが薄れてきちゃうことかな。

『もっと』と考えてしまう自分と向き合うために、山下さんは「未来にボールを投げている」と言う。

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山下:
時間は過去から未来に流れているように感じるけれど、僕は未来から過去なんじゃないか、と思っていて。上流に“やりたいこと”をボールみたいに投げていると、川が流れて現在にやってくる、ってことを意識して行動しているんだよね。思考や感情のなかでボールを投げて、現実にしていく、というか。

ああ、これだ。話を聞きながら、わたしが“やりたいこと”について考えることが苦手なのは、“今すぐ”、“そばにあるもの”で形にしよう、お金にしようとしていたからなのだと思った。「自立しなければ“やりたいこと”は叶えられない」という、何をするにも稼げることが前提だという思考にしばられていたのかもしれない。

焦ると“今”を悲観的にみてしまうけれど、ボールを投げることで“未来”に希望を抱けるし、“今”を俯瞰して見ながら準備を進められる。

だけど、ボールは、どのように投げればいいのだろう?


「パッションはエンジン」。火がつくのを待っている

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井上:
僕は、否定されない人にいっぱい喋るようにしてる。でも、聞いてくれる環境かどうかも大切で。……たとえば上司に企画のプレゼンをするときは欠点探しになってしまうけど、銭湯で話してみたら、仕事のときよりはフラットに聞いてもらえるかもしれないな、とか。届け方や聞いてもらう環境で伝わり方は変わるし、そういうことを考えるのは得意かも。

山下:
精神論に近いけれど、僕の場合は、自分が「できる」と信じたら形になると思っていて。だから、自分を信じられる環境を作るところが大切なんだよ。そういう環境で自分が投げたボールをケアしながら、ボールが流れてくるまで準備するといいかな、って。

今、興味があること。練習中だけれどいつかやってみたいこと。……そんな、ちいさな種を、ちいさく蒔いていく。ボールを投げるときには、投げ方(伝え方や環境)にも考える。そうしたら、まったく予想もしていなかったところからつながっていく、実っていく。

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山下:
僕はボールを投げるとき、お金を使っているなあ。そのくらいの覚悟でボールを投げている。この前、50万くらいかけてスキューバダイビングのセットを買ったんだけど、そのときも「もうどうしようもないぜ!」というくらい熱いパッションが出てきて(笑)。先行投資というよりも、払うのが当たり前になっている感覚に近い。でも、それも流れだと思ってるから「今は違うな」と思ったらお金は使わない。

井上:
もう、ただ「買った方がいい」と強く思っているから買っているんだろうね。でも、それって、お金があるからできる話だよね。お金がないときに、お金がかかるけどやりたいことができたときはどうしたらいいんだろう?

山下:
日本政策金融公庫とかで借りる。……今も、やりたいことはあって。お金を借りたらできるのはわかっているし、ボールを投げてはいるんだけど、そこまでパッションが追いついていないんだよね。感情が車だとしたら、パッションはエンジン。火花がついたら一気に走り出せるから「お金を借りてでもやりたい!」と思うくらい熱いパッションを待っている

井上:
歩は、いざ走り出したときのカード(手段)を持っているよね。カードもそうだし、いろんなことを体験していて、映像で食っていく方法も知っている。だからこそ「借りてやるだけ」「あとはパッションを待つだけ」と言える。


まずは、自分の心に素直になること

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山下さんは、熱いパッションが湧き出ることを待つための“手段”をたくさん持っている。“やりたいこと”を考え出すと悪い方向へと進んでしまうわたしはきっと、まずパッションを認識する過程が必要だと思った。その先に、ボールの投げ方を知ることや、投げたボールに気づくというステップが待っているはず。

“やりたいこと”がすぐに実らないと、“今すぐ”、“そばにあるもの”で大きなものを作ろうとしてしまいがちなわたしは焦ることもあるだろうけれど、最初のステップとして、自分の心に素直でありたいな、と感じた。

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やさしく言葉を選びながらメンバーに語りかける山下さんは、画面越しでもわかるほど静かな情熱があふれ、それでいてあたたかく、きらきらしていた。わたしも、toiを通してもっと自分と向き合って、いろんな手段を知っていけたらそうなれるんだろうか。そうなりたいな、と思った。

素直であること。“今すぐ”、“そばにあるもの”で形にしようとするのではなく、ボールを投げること。そして、その投げ方をたくさん知ること。投げたボールに気づくためにも今の環境や自分を見つめ続けること。こつこつと積み重ねていきたい、大切なことを教えてもらえた、第1回目講義の記録。

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テキスト:
高城つかさ

撮影:
キョウノオウタ

編集:
くいしん

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