【大学新入生向け資料 その3】 自己紹介ならぬ「他己紹介」をやってみよう!
新入生向け資料、第三弾でございます!「生徒」と「学生」の違いを学んでいただいたところで、そろそろ、一年生ゼミである「基礎ゼミ」の中身に入っていこうと思います。
今日の記事は、私が実際にやっている授業の一回分を書き記したものです。
自己紹介?何それおいしいの?
新学期、自己紹介の季節ですね。私は正直この自己紹介、聞くのも話すのも、あまり得意ではありませんでした。いや、はっきり言って苦手でした。
だって、特に興味もない(超失礼)同級生の自己紹介を長々と聞くのもつらいものがあります。そう思ってるもんで、自分が話す時も「自分の自己紹介なんて誰も聞きたくないだろ…」「何を言ってもどうせ覚えてないだろうしな…」とあまり話す気になれませんでした。
そんな私ですが、大学の教員になって基礎ゼミをやるとなると、初回はやはり皆さんのことを少しでも知りたいため、自己紹介的な内容を入れたくなります。「う~ん。でも私のように自己紹介が嫌いな人もいるだろうしなぁ…」と悩みまして、私は目的は達成でき、かつ、自己紹介をやらずに済むように、「他己紹介」をやることにしています。
タコ紹介???
ではありません。他己紹介ね。自分じゃなくて他人を紹介するというものです。いったいなぜ?
自己紹介のネックは、自分で自分のことを語ることだと思うんですね。せっかくだから皆さんに良い印象を持ってもらいたい、少なくとも、悪い印象は持たれたくない!そう考えるものですから、自分の良いところを言わねばならない。
ただ、なかなか自分のことをアピールするのは気が引ける、という人もいると思います。では逆に悪いことを言ってしまうとすごく卑屈に見えちゃったりしますし、あまりに控えめだと自己紹介をする意味もありません。難しいし、緊張します。
そこで、自分ではなく他人のことを紹介すれば、多少は気が楽かなということで、他己紹介です。とはいえ、初めて会った赤の他人のことを紹介しろと言われても困りますよね。自己紹介より難易度高いよ…。
他己紹介の流れ
ここからは、次のような流れで作業をしていきます。
① インタビューの種類と特徴について学びます
② 質問項目を考えます
③ 二人組を作ります
④ AからBに「事前に考えた質問」をします(5分間)
⑤ BからAに「事前に考えた質問」をします(5分間)
⑥ 作戦タイム
⑦ AからBに「さらに掘り下げたいこと」を聞きます(10分間)
⑧ BからAに「さらに掘り下げたいこと」を聞きます(10分間)
⑨ 聞き取ったメモを元に、次回までに他己紹介記事を作成してください
⑩ おつかれさまでした♪
まずは取材(インタビュー)
ということで、まずは取材をしましょう。他己紹介の材料を集めて来なければなりません。誰かからお話を伺う調査の方法を「インタビュー」と言います。インタビューと言うと、スポーツ選手に対するインタビューなどをテレビで見ますね。名言が飛び出すやつです。
スポーツ選手以外でも、ノーベル賞受賞などの何か偉大なことを成し遂げた人や、多くの人から注目されているタレントさん、良いことでも悪いことでも何かとんでもないことをした人、特定分野の専門家などがインタビューを受けている様子を見かけます。
あとは、ニュースや情報番組などでの「街頭インタビュー」なんていうのもありますね。これは先ほどとは逆に普通の人の意見が欲しい場合に行われます。
インタビューは特別な人が受けるもので、する方も新聞記者やテレビのリポーターのようなプロと思われがちですが、実は、日常でも色々な場面に使える「技術」です。やり方を覚えれば、誰にでもできますし、雑談とは違って、情報を得るための対話で、会話の幅も広がります。
インタビューにも種類がある
まず、知っていただきたいのは、インタビューには大きく分けて3つの種類があるということです。
1.構造化インタビュー
2.非構造化インタビュー
3.半構造化インタビュー
それぞれどういうものなのか、簡単に解説していきたいと思います。
1.構造化インタビュー
これは、質問者が事前に質問をしっかり決めて行うインタビューです。
構造化インタビューは、質問が決まっていますので、色々な人に同じ質問をして、回答を得ることができます。ですから、得られた回答を比較したり、数値データとして扱うことも可能です。
たとえば、「ゾンビ映画を観たことがありますか?」という質問を決めておいて、50人に尋ねたとしましょうか。その結果、27人が「はい」、23人が「いいえ」だったとしましょう。そうすると、「はい」が54%、「いいえ」が46%というふうに扱えますよね。
ちなみに、テレビ番組などでやっている、ボードにシールをはってもらうような他の人の回答が目に見えるやり方は、映像的には楽しいのですが、研究調査ではオススメしません。
それというのも、他人がどう回答したか、ということが、その人の回答に影響を与える可能性があるからです。たとえば、「タピオカドリンクは好きですか?」と聞いた時に、これまでの回答者の9割近くが「はい」と答えていた場合、それが見えてしまうと「いいえ」と答えづらい人が出てきます。
逆に、自分がそのことについてどう思うかとは別に「なんか少ない方がかわいそうだから、こっちに入れとこうかな…」とか思ってしまう人も出てきたりします。これでは、調べたいこととは違う要因で回答が変化することになり、客観的な調査とは言えませんよね。
話を戻しましょう。次は非構造化インタビューです。
2.非構造化インタビュー
「非」とあるように、構造化インタビューにあらず、ということです。つまり、明確に質問を決めずに行うインタビューです。
そんなのインタビューになるのか?と思いますよね。なかなか状況が想像しにくいと思います。たとえばあなたが新聞記者だったとして、スポーツ選手のところに出かけて行って明確な質問を何も考えずに
「え~っと…。事前に質問は考えて来てないんですが、
なんかしゃべってもらっていいですかね?」
そんなこと、失礼すぎて言えません!
実は、このインタビューは、調べたい対象の情報を事前に知りようが無い時や、わかっていないことが多い場合に使うものなんです。
たとえば、私は大学院生のころから、アニメの聖地巡礼を研究しています。これは、アニメを見た人が、その舞台となった場所に行く行動です。最初にアニメ聖地に調査に行った時、私はそのアニメに全然詳しくなくて(この場合は単に事前調査不足なので、皆さんは真似してはいけません)、インタビューの中で、ファンの方と以下のようなやり取りをしてしまいました。
ファン「ところで、嫁は誰ですか?」
岡本「嫁?いや~、私まだ結婚してませんで独身なんですよ」
さぁ、皆さん、何がまずいかわかりますか?この「嫁」というのは、アニメファンの間では「好きなキャラクター」を指す隠語なのです。今だと「推し」という言葉が近いと思います。それを知らない私は文字通り「配偶者」のことだと思って、「結婚してない」「独身」とか言っちゃったんですね。
ちょっとしたことのように思われるかもしれませんが、これは明らかに私の勉強不足で、この後、このファンの方は私と話すのを切り上げて行ってしまいました。そんな基本的な文化を知らずに調査に来ている人に答えたくなかったのだと思います。
このように、調査対象の文化や価値観に全然詳しくない時などは、いきなりこちらで質問を決めても、頓珍漢なことを聞いてしまったり、大切なことを聞けない可能性があります。そういう場合は、質問をかちっと決めてたくさんの人に答えてもらう、のではなく、一人の人に時間をかけて色々と「詳しく教えてもらう」タイプのインタビューが有効です。
この方法のメリットは、様々な質的な情報をたくさん得られることです。先ほどのファンの人にも、「すみません。私、アニメにあんまり詳しくなくて、変なこと言っちゃうかもしれないんですが、ゼロから教えていただけると有難いです」と最初に言っておけば、「嫁っていうのはですね…」と教えてくれたと思います。そうすれば「かがみは俺の嫁!」(わからない人はアニメ『らき☆すた』を見てね)とちゃんと答えられるようになるわけです。
他方で、構造化インタビューの回答のように、パーセントを出せるような量的な情報は手に入りません。質問項目が決まっていないわけですから、相手によって教えてもらえることが相当違ってくるからです。
どちらの方法が良いとか、悪いとか、優れているとか、劣っているとか、そういうことではありません。インタビューの目的によって最適な方法を使います。
3.半構造化インタビュー
それでは、「半」構造化インタビューとは何でしょう。これは読んで字のごとくで、先ほどの二つの「間」にあたるものです。
ある程度、聞く質問を事前に決めておくけれど、もし途中で相手が他に色々と話し出したりしたら、それにのっかって脱線してもOKなインタビューです。
今回は、この半構造化インタビューを使って、他者の情報を得てみましょう。
必ず質問してもらいたいこと
まず、事前に決めておく質問ですが、今回は、最初の三つは私のほうで設定させていただきますね。基礎ゼミのメンバーとして、岡本的にはこれは聞かせてもらいたいという項目です。
ただ、何かの理由で「言いたくないな」と思うことは、無理に答えなくても全く問題ありません。これは、実際の研究調査でもそうで、回答を無理強いしてはいけません。
加えて、インタビューに答えない自由、というのも保障されなければなりません。でも、今はインタビューそのものは拒否しないでくれると助かります(^^;)
① 氏名(読み方も含め)
② 今、気になっている物事
③ 大学時代にやってみたいなと思っていること
この3点です。この3点にはできるだけ回答していただきたいですが、「どうしても嫌だ」と言う質問がある場合はお申し出ください。
各質問者で考える質問項目
それでは、この3つの後に、皆さんが聞きたい項目をいくつか考えてみましょう。合計10個くらいは欲しいです。
もしかしたら、相手が答えたくないものや答えられないものがあるかもしれません。その場合は、その質問の回答は得られませんので、スペアが必要です。
え?「別に何も聞きたいことはない」って?私も割とそんな感じなので、お気持ちはわかりますが、今回は、授業ですし、技術の習得も兼ねていますので、ここは無理やりにでもひねり出してください。
先ほど書いた通り、最終的には、インタビューした相手のことを紹介する記事を書かねばなりません。これが今回の授業の課題です。相手のことに関心が無くても、この記事を完成させるために情報を得る必要があります。嘘や想像でテキトーなことを書くわけにはいきませんもんね。(そんなことをしたら、いきなり信頼関係ズタボロです…)
あまりにも答えにくそうな質問はやめておきましょうね。どうしても聞いてみたい場合は、「もしお答えになれるようでしたら…」とか「答えにくい質問だったらすみません」とか、相手が断れるような形で聞きましょう。聞かれた方も、遠慮なく「それはちょっと…」と言ってください。
二人組を作る
さぁ、どうでしょう。質問リストができましたか?
それでは、二人組を作ってもらいます。名簿で上から二人ずつとか、座っている距離が近い人同士でも構いません。14人のクラスなら、7組のトランプなどでくじ引きをしても盛り上がるかもしれません。
二人組に別れたら、先にインタビューをする人(A)と、後にインタビューをする人(B)を決めてください。どちらになっても、やることは同じですので、じゃんけんでも話し合いでも構いません。ぱぱっと決めてみてください。
インタビューの流れ
先ほど書いた通りで、以下の流れで行います。
④ AからBに「事前に考えた質問」をします(5分間)
⑤ BからAに「事前に考えた質問」をします(5分間)
⑥ 作戦タイム
⑦ AからBに「さらに掘り下げたいこと」を聞きます(10分間)
⑧ BからAに「さらに掘り下げたいこと」を聞きます(10分間)
④、⑤は、構造化インタビューに近いものです。事前に考えた質問をして、相手から得られた回答をメモしましょう。あまり話は拡げずに、不明点などを確認するくらいにしておきましょう。
④、⑤を済ませた後に、⑥作戦タイムを設けました。相手から聞き取った回答を見て、他己紹介に使えそうなネタを見つけて、さらに深掘りするには何を聞けばいいか考えて、新たに質問を追加してください。
⑦、⑧は、さらに掘り下げる時間です。その人を紹介する記事を書くわけですので、事実関係をしっかり聞いておきましょう。
記事作成の段階になって「しまった。これは聞いておかないと、話がつながらないぞ…」というふうにならないために、聞き取れなかったところや理解できなかったところは遠慮なく聞き返してください。間違った情報を載せてしまってもいけません。
「聞き返したり、質問をしたりするのは、相手に失礼ではないか?」と心配する人がいますが、逆です。確かに、いきなり「あんた、何言ってんのかわかんねぇよ!」とか「もっとはっきりしゃべってよ!」とか言ったら、失礼でしょうね。間違いなく喧嘩になるでしょう。
そうではなく、「すみません。ちょっと勉強不足で、〇〇っていう言葉の意味が分からないので、教えてもらえますか?」とか「先ほどの、漁師町で生まれてっておっしゃった後で、△△が得意と言っておられたのを聞き逃してしまいまして、すみません。何がお得意なんでしょうか?」とか、言い方を工夫すれば大丈夫です。
むしろ、質問をしたり、聞き返したりするということは、「相手の話に興味がある」ことが伝わって、好印象にすらなります。「この人はちゃんと聞いてくれてるな!もっと話してあげよう!」と思ってもらえますよね。
だって、どうでもいい話ならテキトーに聞き流して「あ~」「なるほど~」「へ~」「ほ~」「すごいですね~」とか言っとけばいいわけですよ。そういう聞き方をしてると、後で聞かれた時にわからなくて、困るし、信頼されませんけどね(;'∀')
さて、それでは、今日得られたメモを持ち帰って、相手のことを他のゼミ生に紹介する記事を書いてみてください。形式は特に問いません。聞き取ったことをまとめるのはもちろん、それについて自分がどう思ったか、なども書いていただいて構いませんよ。とにかく、相手のことをゼミメンバーによく知ってもらえるように、工夫してみてくださいね。
次回のゼミの際に、全員分をまとめてお渡ししたいと思いますから、前日までには記事を私に送ってください。
それでは今日はここまでです。お疲れ様でした(^_^)
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