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死者達のランチミーティング

珍しく近所の大きなモールに呼ばれました。ここのモールにあるフードコートのテリヤキ弁当をとりに行きます。

テリヤキ弁当の説明はこちら↓


このモールは約40,000坪の敷地の中に、各店舗が200以上も並び、6000台ほど停められる駐車場が併設された巨大モールです。

6000台の内、どこに停めるかで目的のお店にささっとたどり着けるか、もしくは迷子になるかのどちらかになるので少し緊張します。しかも、いつ来ても満車に近い状態です。(6000台もスペースがあるのに)
しかし、ナビはフードコートの最寄りの出入り口近くに私を上手に誘導しました。

フードコートのテリヤキ弁当屋さんでアナのランチを頼みます。鉄板を叩く音と店員さんの叫ぶ声が響きます。待っている間にお店を見回してみましたが、私以外に日本製のものはないように思えました。

アナの職場はダウンタウンの南部にありました。狭い住宅街の道を走っていくと、急に開けた場所にでました。指示された通り、大きな鉄製の門をくぐります。

公園のような広い敷地に、手入れされ綺麗に刈り込まれた芝生が広がっており、所々に花束が突き刺さっているのが見えます。そして案内板にはCemeteryの文字が見えました。

ジグザグの細い道を進んでいくと、四角い墓石や十字架の形をした墓石が現れてきました。背の高い小さな建物のような墓石もあります。針葉樹の間で桜や木蓮が美しい桃色やクリーム色の花を咲かせています。

先ほどいたモールの喧騒とは真逆の静寂が、辺り一面に広がっています。カナダグースのカップルだけが何かぐわぐわと相談し合いながら歩き回っていますが、あとはテリヤキ弁当を運んでいる私と、たくさんの死者達が地面の中にいるだけでした。

私から逃げているカナダグースのカップル


案内板に沿って行くと、煉瓦造りの平屋の建物にたどり着きました。中に入ると右側には教会があり、木製の長椅子がいくつも並んでいます。奥には十字架が掲げられ、その手前で、緑の制服を着た男性がイヤホンをしながら掃除機をかけています。

左側の事務所から出てきた女性に案内されて、アナの部屋まで向かいます。

アナは、墓地とその教会の荘厳さには似ても似つかぬ明るい表情と大きな声で「ありがとうー!」と私の顔を見て言いました。

「アナ、お待たせ。墓地に出前に来たのは初めてですが、とても美しい場所ですね」と言うと、アナはまた大きな声で「本当にそうなの!美しいでしょ?!」と微笑みました。

この静かな場所が気に入ったので、上司(アプリ)を少し無視して、ぐるっと一周してから帰ることにしました。これだけ素敵な場所に大切に埋葬されている人達なら、化けて出てくることはないでしょうから、怖い気持ちは微塵もありません。でも邪魔はしないように、そろそろと走ります。

アナは今頃テリヤキ弁当を元気にもりもり食べていることでしょう。こんなにも沢山の人がこの美しい墓地で眠っているのに、私の出前を必要としているのはアナと数人のスタッフだけなんて、何だか不思議な事に感じました。

もし出前を頼めるとしたら彼らは何を頼むでしょうか。夜はさすがにちょっと怖いので、晩餐会ではなくランチミーティングとかの出前でしたら私にお任せください。

食べることは生きること。
夕飯の献立を考えながら、また出前に戻ります。

所要時間:36分
配達料:$3.68
チップ:$5.84

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