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信頼と医療従事者のあいだ

私の動線上にお客様が複数いれば、同時に2つのランチを運ぶ事があります。

今日はマリアのメキシカンとボブのテリヤキ弁当を一緒に届ける提案があり、引き受ける事にしました。(ここでのテリヤキは日本風お弁当の総称です。寿司のように照り焼きもテリヤキに進化しました)

進化した寿司の話はこちら↓


マリアが働くオフィスは色々なクリニックが入ったビルの5階にありました。メキシカンを持ってロビーに入ります。手術着姿の医師の脇をすり抜け、エレベーターで5階を目指しました。

マリアの小さなクリニックは、どうやらラテン系ご家族御用達らしく、院内にはラテン系のおばあ様や小学生くらいの女の子、受付のお姉様方も皆ラテン系のようで、そこに突然迷い込んだ東アジア系の私は一斉に注目の的になったのでした。スマホからは「その先、右折します」とナビが喋る日本語が鳴り響き、場違い感に華を添えます。

受付の中からこっちよと手をあげたマリアにランチを渡し、納品完了のボタンを押すと、次はボブへ届ける番です。この時点ではじめて、ボブの詳細情報が開示されるのですが、ボブの働くオフィスも、どうやらマリアの働くこのビルの中にあるようです。それならそうと先に言ってくれればいいものをと全くもって信用してくれないアプリを呪います。車に置いてきたボブのテリヤキ弁当を取りにエレベーターに乗り込みました。

エレベーターの中でボブからのメモを確認すると、ロビーで待ち合わせと記載がありました。マリアのメキシカンを持ってロビーに入ってきた時の情景が脳内を巡り、違和感を覚えます。

ロビーに到着したエレベーターの扉が開くと、先程すれ違った手術着姿の医師がスマホと睨めっこをしながら、まだ同じ場所に立っていました。彼はさっきから私の車に積んだテリヤキ弁当を待っていたに違いありません。

私は声をかけます。
「もしかしてボブですか?」

「はい」
やはりボブです。

「他のお客様が5階にいたので」と言い訳する私に「うろうろクルクルしてるのを見てたよ!」とボブは気にも留めず笑うのでした。(我々は常にGPSで見張られております)
そして車にテリヤキ弁当を取りに行く私の後ろをついてきます。ここにいろと制止しましたがやはり私の台詞はボブの気には留まりません。

この国に来た当初、言葉も文化もよく分かっていない私を、面倒だなぁと感じる人が大半だったように思います。当たり前の感情です。しかし医療従事者達は皆、辛抱強く寄り添ってくれました。誰よりも優しく強靭なハートを持った彼らがコロナ禍に背負っていたものに比べたら、上司(アプリ)に決して信頼されない事など取るに足らない事に思えたのでした。

所要時間:51分
配達料:$7.13
チップ:$6.00






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