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スーパーで働く者たち

私達ドライバーは、時にはみなさまのグローサリーもお届けしております。日本でいうところのネットスーパーの配達でしょうか。

配達依頼が届いたのは某大手スーパーからでした。お得な価格設定で全国展開されている、知らない人はいないであろうスーパーです。有名なのは規模が大きいからだけでなく、その店を訪れるお客様達の奇行や風変わりな言動行動が頻発するため、今日もどこかのネット上に「またあのスーパーか」と、残念ながら後ろ指を差されがちだからなのです。

そのスーパーにはピックアップ専用の駐車場がいくつもありました。駐車し、アプリで居場所を伝えると、店員さんが店内より商品を運んできてくれるという仕組みです。実際には、駐車場に進入した途端に店員さんが出てきたりもするので、私達ドライバーはここでもGPSで監視されてるのが容易に想像できます。

台車をガラガラと引きずりやってきたのは、だぶだぶパーカーのフードを被り、顔から幾つも尖ったピアスが突き出たパンクな女性でした。ティーエイジャーのような気怠さを纏って、私を見上げてきます。

私も黙って彼女を見つめ返します。グローサリーの配達は今日が初めてなので、彼女を頼りに参ったのです。私と彼女はほぼ同時に、何も促さない相手に疑問を持ち始めたようです。

私は「これ全部私が運ぶ荷物?」「お客様の名前は書いてある?」と矢継ぎ早に次々と彼女に問いましたが、彼女は「たぶん…」と曖昧に首を傾げただけでした。私達はまた黙って見つめ合いました。

気まずさに耐えかねた彼女はキョロキョロしながら「誰か呼んでくる…」と、また台車を引きずりながら店内へと足早に戻って行きました。

彼女が店内へ戻るとすぐに、メガネをかけた中年女性が、扉を勢いよく開けて出てきました。公立小学校の教師のようなハツラツとした雰囲気の彼女は、私の元に来るとすぐに「ドライバーナンバーは?!」とハキハキと笑顔で尋ねます。

合点がいった私は、小さな端末を持っていたパンクな彼女に番号を伝えます。教師のようなその女性は、私がお礼を言うと「いいのよ!よくあることだから!」とまた勢いよく店内へ戻っていきました。

車のトランクにたくさんの袋を積み終わったパンクな彼女が「…バーコードのステッカー、袋に貼るね」と呟いたので「これって私もスキャンする必要あるの?」と尋ねてみましたが、また「たぶん…」と言って店へ戻っていきました。スキャンをしてみたらナビが作動し始めました。彼女の「たぶん」はかなり正しいようです。

ドライバー達のやり方など知る由もないであろう彼女は「たぶん」を駆使して問題解決に協力してくれました。ネイティブレベルの「たぶん」が言えない私は、今はまだ車を走らせるしかないようです。

所要時間:1時間24分(配達先2件)
配達料:$8.51
チップ:$5.68






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